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06_幼女とどろけい

「ねえねえ『どろけい』ってどんな遊び?」


 初めて聞く遊びの名前に、エルフ耳の金髪幼女エリナが目を輝かせて飛びついた。

 他のどの幼女も思い当たらないようで、お互い顔を見合わせたり、首を傾げている。

 どうも日本語が通じるから大丈夫だと思っていたが、やっぱり文化が違うようだ。竹村は頭を掻いてルールの説明を始めることにする。


「『どろぼう』チームと『けいさつ』チームに別れてやる追いかけっこだね。『どろぼう』チームは全員捕まったら負け。逃げ切ったら勝ち。『けいさつ』チームは『どろぼう』全員捕まえたら勝ち、逃げ切られたら負け」

「『けいさつ』って、何ですか?」


 やっぱりピンと来ないようで、黒髪幼女のアイラが代表とばかりに疑問を上げる。

 そうか警察がわからないか。本格的に文化が違う。では何と言ったらその役割が伝わるだろう。


「け、警備兵みたいな?」

「おー」


 一同、納得の声を上げた。どうやら通じたらしい。



 ルールは少し話し合い、かくれんぼをミックスすることになった。

 一番上のアイラ7才と、一番下の3才児では足の早さに差がありすぎるという判断からだ。

 『どろぼう』は隠れ、発見されたら逮捕となる。走り回って逃げたり追いかけるのは無し、という訳だ。

 もちろん年長者が手加減すればいいのだが、竹村にしてみればアイラにも存分に楽しんで欲しい、という意図があった。もちろん、自分も幼女と全力で遊びたい。


「チーム分けはどうしよう?」

「体力差を考えるなら、チーム分けもよく考えるべきね」


 エリナが腰に手を当ててウインクする。なかなかオトナな考えだ、と竹村は感心してエリナの頭を撫でる。エリナはくすぐったそうに笑って得意気に鼻を鳴らした。


「もっと褒めていいわ」


 その途端、竹村の真似をしたがるマリカやハンナの手でモミクチャにされた。それでもなんだか楽しそうだから、エリナも皆のことが大好きなんだろうとわかる。


 さて、いろいろ検討した結果、チーム分けは次のように決まった。

 『けいびへい』チーム、アイラ、カトリ、竹村の3人。

 『どろぼう』チーム、エリナ、ハンナ、イリス、ユッタ、リンネ、マリカ、ミルカ。

 人数比に偏りがあるが、その代わり脱走ルールを無しとする。脱走ルールとは、逮捕された『どろぼう』が、まだ逃げている『どろぼう』にタッチされることで、ゲームに復帰するルールだ。


「よし、100数えたら探しに行くぞ、逃げろ『どろぼう』チーム」

「ひゃー」


 一旦、全員で孤児院の外に退避し、そして竹村が開始を告げる。その途端、『どろぼう』チームの幼女たちは楽しげな悲鳴を上げつつ駈け出した。

 範囲は孤児院建物内、ただし院長先生の部屋を除外。


「100数えればいいんですね?」

「ああ、だけどせっかくだから…カトリ、数えられる?」


 少し躊躇し、慎重に考えてから、狐耳の幼女はゆっくりと頷いた。


「やる、できる」


 カトリがゆっくり、たまに迷いながら100を数え上げると、いよいよ『けいびへい』チームの行動開始だ。

 その瞬間、2階のバルコニーに人影が現れる。


「は-はっは、この怪盗エリナ様を捕まえられるかしら!」


 金髪ツインテールを風になびかせたエリナだった。


「はい、エリナみっけ。逮捕」

「あちゃー」


 エリナはやけに嬉しそうにおとなしく捕まった。ルール理解してるのだろうか。



 牢獄と設定した場所に体育座りするエリナを残し、竹村たちは行動を再開する。


「まずどこから探そう?」


 竹村はなるべく自分主体にならないよう、アイラやカトリを振り返る。なにせ彼はもういい大人だ。どこに隠れるか、と言った推理力は、幼女の比ではないはずなのだ。

 アイラは少し考えて答える。


「タケムラさんとカトリで1階を探してください。私は2階を探します」


 カトリと竹村は素直に頷き、アイラはそれを確認すると足早に大扉をくぐり階段を登っていく。かなり真剣に取り組んでいるようだ。一番年長という気負い以外でも、結局根が真面目なのだろう。


 そういえばアイラだけが『タケムラ』と発音できている。みんなはいくら言っても『タケムナ』なのに。

 そこに気づき、竹村はついアイラを抱きしめたくなったが、グッと我慢した。もうアイラは階段を登って行ってしまったからだ。


「さ、俺達も行こうか」

「はい」


 返事は早かったが、足は止まったままだった。


「カトリ?」


 竹村が呼びかけてみるが、カトリは考え事をするように目をつぶる。音を感知しているのか、尖った狐の耳がくるくると方向を変えてる。

 かわいい。触っても大丈夫かな、ダメだよな。だが竹村は誘惑に耐え切れず、つい人差し指と親指で摘んでしまうのだった。


「ひっ」


 一瞬、全身をビクリとさせ、耳が激しくブルブル動く。それほど強く掴んだわけではないので、竹村の手はそれですぐに離された。

 しばらくして何が起こったかを理解したカトリは、恨みがましい目で竹村を見上げ、当の竹村は「ごめん」と謝罪しつつ、カトリを抱きしめた。反省の色が見えないのは何故なのか。

 息苦しさからか恥ずかしさからか、カトリは竹村の胸をポフポフと叩き、なんとか彼の腕から逃げ出し、やはり恨みがましそうな目でチラチラと見てから、ようやく行動を開始することにした。

 竹村は無言でカトリの後に付き従った。


 さて、カトリのサーチ活動を途中で遮ってしまったが、それでもなにか思惑があるようで、カトリは建物には入らずぐるりと裏口へ廻る。


「なんかアテがあるのかい?」


 不思議そうに尋ねる竹村だが、カトリは口の前に人差し指を立てて言葉を制する。

 仕方なく黙ったままついていくと、彼女の目指す先には井戸と小型の樽があった。水を入れて運ぶための樽だろうか。

 カトリは迷いなく真っすぐ進み、樽の上部を蓋するように置かれた板を外そうと背伸びする。


「いやさすがにその中には。てか、隠れるのは孤児院建物内って」


 言いかけて、カトリの確信めいたきれいな瞳に吸い込まれる。

 まあいいか。もしいなくても何も損しないんだし。竹村は頭を掻きながら樽に近づき、カトリの指し示す蓋を外した。


「にー…」


 中には困った顔をした猫耳幼女のミルカがいた。というか、ここにもルールを把握してない人がいた。

 カトリすごい。本当にいたよ。つーかなんで外にいるんだよ。

 竹村は自分の説明能力を疑い始めつつ、ミルカの脇腹を掴んで持ち上げる。


「に」


 おとなしくされるがままに持ち上げられ、力なく脚をぶらぶらさせるミルカ。かわいい。このまま持ち帰りたい。いや、今の住まいここだけど。


「次はさすがに中かな」


 とりあえずミルカを肩車にて連行することにし、カトリと竹村はいよいよ孤児院内部に潜入するのだった。



 孤児院の1階には隠れられそうな場所少ない。食堂広間、台所、短い廊下、そして階段脇の倉庫。たったこれだけの構成だ。

 まず最初の部屋は台所。アイラたちお料理部の居城とも言える場所だ。


「タケは上を探して」


 先頭を歩くカトリがキリリと眉を引き締めた表情で指示を出し、すぐさま四つ這いになる。彼女の担当はどうやら低い棚のようだ。

 竹村は言われた通り、大人でないと届きそうにない棚を開閉してみる。というか、届かないんだからここにはいないよな、という思いもあり、竹村には真剣味がない。肩の上のミルカはすでにかわいい寝息を立て、竹村の帽子のように頭に覆いかぶさった。


 それより注目するべきはカトリのお尻だ。

 四つ這いになって、低い棚に頭を突っ込むと、幼女の小さなお尻がフリフリと左右に揺れてかわいいのだ。隠れている人がいるか、棚の戸を開けるだけでわかるのに、頭突っ込んで隅々まで探すカトリかわいい。竹村と違い、真剣味がありふれている。

 びん詰のピクルスなど益体もない物を見つけては戸棚を閉め、竹村は早々に戸棚捜索を打ち切る。打ち切って何するかというと、かわいすぎる仕草のカトリを抱き上げた。


「ひゃ」


 一瞬何が起こったかわからないカトリが小さな悲鳴を上げる。とにかく状況を打破しようと手足をジタバタさせてみるが小さな手足は空を切るばかりだ。

 そして背後から自分を抱え上げているのが竹村だとわかると。恥ずかしそうに顔を真赤にして、その手から逃れようと彼の胸をポフポフと叩いた。

 幼女のぷに手によるパンチは、痛くないどころか、竹村を幸せな気分にさせるだけだった。


 台所の捜索を終え、3人は次の間である食堂兼居間へと移る。もっとも一人は竹村の肩車上ですっかり寝こけているのだが。

 ここは広いが、隠れる場所は少ない。物が少なすぎるのだ。

 カトリは入るなり音もなく駆け出し、柱の陰など、数少ない隠れスポットを次々に撃破する。この様子ならこの部屋の捜索はすぐ終わりそうだな。


 竹村は一休みしようと、壁際にある収納付き長椅子(ベンチチェスト)に近づいた。収納付き? するとこれも怪しいかもしれないな。隠れる場所になり得る。

 そう思った途端、勢い良く収納付き長椅子(ベンチチェスト)の蓋が開く。飛び出したのは、ずり下がった眼鏡を急いで直すイリスだった。いたずら大成功との得意顔。


「ふっはっは、まちぶせちてました。たいほちまつ」


 待ち伏せって。いやアンタ追われる側だから。と、言葉が喉から出かかったが、それより早く無意識より這い出た叫びが口をついた。


「くはっ、幼女に逮捕されてー」


 予想外の反応に、イリスは硬直してちょっと引いた。竹村は構わずイリスを横抱きにして本能の赴くままに駈け出した。2日目にしてもうやりたい放題だ。



 食堂捜索の終了宣言をカトリが告げ、竹村は息を切らしながら頷いた。眠ってしまったミルカを肩車にし、捕獲したイリスを横抱きにしていた。イリスはちょっと楽しくなってきた、とばかりに笑顔でしがみついていた。


「む…」


 カトリはすこしばかり機嫌を悪くしてそっぽを向く。一緒にいる自分以外を構っている竹村に、ちょっとヤキモチを焼いているのだ。抱き上げると拒否するくせに。


「カトリも抱っこしようか?」

「いい。いらないから」


 見かねて声をかける竹村だが、やっぱり拒否された。微妙な幼女ごころである。


 そんなことをしながら、探索の手を次に伸ばさずマゴマゴしていると、上階からアイラがやって来た。後ろにハンナとユッタを従えている。2階探索の成果のようだ。


「にーちゃ!」

「たけにー!」


 ハンナとユッタは竹村の姿を見つけると、階段途中からパッと飛び降り、竹村に飛びつく。


「むぎゅぅ」


 先客のイリスを押しつぶしながら、ハンナとユッタは遠慮なくまとわりついた。カトリはますます機嫌を悪くした。


「タケムラさん、ちょっといいですか?」


 そんなことより、とアイラが手招きする。その眉根は困惑に歪んでいる。

 何か困ったことでもあったのか、と、竹村はまとわりつく幼女を、後ろ髪惹かれる思いで引き離す。ミルカだけは眠りながらも頭に根を張って離れなかった。

 アイラについて2階へと進む。行き先はアイラと竹村たちの寝室だった。

 寝室の大きなベッドでは、リンネとマリカが穏やかな表情で寝息を立てていた。


「どうしましょう」


 アイラの困惑の元がこれだ。


「ま、いいんじゃない?」


 竹村は優しくニヤけ、頭にしがみつくミルカをそっと眠る2人の横に据えた。3人はもぞもぞと動きながら、やがてお互いを枕にしるように絡み合って落ち着いた。

 竹村は自分も混ざろうかとウズウズしたが、アイラの視線が冷たかったので諦めた。

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