百合、いりませんか?(後)
~○月×日~
私が大泣きしてから一月経った。
最初は、顔を合わせ辛いかな?と思ったけど、そんなことはなかった。
あの日以来、以前にもまして芙蓉さんは花を買いに来てくれている。
以前は一週間に二回くらいだったのに、最近はほぼ毎日だ。
お、お財布の中身は大丈夫ですか?
一度聞いてみたら、芙蓉さんはキョトンとしたあとに、吹き出して笑った。
「ふふ、あはは!大丈夫よ。私、これでも稼いでいるのよ?」
私は顔から火が出るかと思った。
で、ですよね~!
「……真っ赤になっちゃって、可愛い」
「芙蓉さん!からかわないで下さい!」
私はもう涙目だ。
~○月×日~
芙蓉さんが優しい。
いや、今までも優しかったけど。
「お仕事頑張っているわね。はい、ご褒美」
とか、
「水仕事だと、手が荒れちゃうわよね。
いいハンドクリーム持っているから塗ってあげるわ」
とか。
クリームを塗ってくれた芙蓉さんの手、柔らかかったな。
ふと気がつくと、ほのかなクリームの香りがする。
……芙蓉さんと同じ匂いだな。
なんだか、くすぐったい気分。
~○月×日~
今日も芙蓉さんが来てくれた。
「お仕事お疲れ様です」って言ったら、
「ありがとう」って頭をなでなでしてくれた。
えへへ、嬉しいな。
~○月×日~
今日は日曜日!
な、なんと、今日は芙蓉さんとお出かけです!
この前……
「小百合ちゃん、今度の日曜日空いてる?」
「はい。空いてますけど、どうかしたんですか?」
「良かったら、デートしない?」
……。
…………えっ。
デ、デデ、デート!?
「小百合ちゃんとお買い物したり、映画みたりしたいのよね」
あぁ~、びっくりした。
そうだよね。私も友達と出かけるとき“デート”って言ったりするもの。
……びっくりした。
芙蓉さんとのお出かけは楽しかった。
私服姿もとても麗しかったです。
恋愛映画を一緒にみて、
ランチをご馳走になった。
最初は遠慮したんだけど、
「私が誘ったんだもの。お願い、私に払わせて?」
と、少し屈んで覗き込むように言われて仕方なく。
美人のお願い顔はヤバかったです!!
ちなみに、デザートは2種類頼んで、
2人ではんぶんこしました。
どっちにするか迷っていたら、
芙蓉さんが「半分こにしよっか?」と言ってくれたの。
「はい、あーん?」
素直に私はぱくり。んー、おいしい♪
芙蓉さんはクスクス微笑ってた。
~○月×日~
私、なんだか最近変だ。
芙蓉さんを見ると、胸がきゅーっとなるの。
最初は、芙蓉さんがあまりに綺麗な人だからかな?って思ったんだけど。
ふわふわ、そわそわ。
どうしちゃったんだろ?
原因がわからない……病気かなぁ?
~○月×日~
今日も芙蓉さんが来てくれた。
……嬉しいな。
夜、お兄ちゃんに「お前、好きなヤツでも出来たの?」って聞かれた。
……。
えっ、えっ?
お兄ちゃん、何言ってるの?
「いや、最近どんどん可愛くなってきてるから、恋でもしたのかなぁ……と」
は、はぁ!?
何言ってるの!
どんだけ兄バカなの!?
好き……好きって、私が、誰を?
いや。これ以上考えるのは止めよう。
~○月×日~
「あいたっ」
ちょっとボンヤリしていたら、薔薇のトゲを刺しちゃった。
ボンヤリしながらトゲ抜き作業なんてするもんじゃないね。
トホホだよ。
手当てしようと思ったとき──
「小百合ちゃん!?」
芙蓉さんがやってきた。
指先から血を流す私をみて、血相を変える。
「大丈夫?」
「芙蓉さん!?」
芙蓉さんは、な、なななんと、
私の血を流す指をパクリと口に含んだ。
濡れた舌が、傷口の上を軽く舐る。
チクリとした痛みがはしった。
最後に軽く吸い上げてから、芙蓉さんは口を離す。
「気をつけなきゃ、ダメじゃない」
複雑に揺れるその瞳をみて、私はなんだかドキドキした。
真剣な瞳が、私の心に突き刺さる。
まるで、抜けないトゲのように…………。
~○月×日~
謎の症状はどんどん酷くなっていった。
今では、芙蓉さんが私に微笑んでくれるだけで、ぎゅー!っとなるようになった。
一度お兄ちゃんと喋っているのを見たときは、ギリッとした。
なんで?
お兄ちゃんも芙蓉さんも、好きなのに。
うぅ~。
もう……目をそらせないなぁ。
私、芙蓉さんが、好きなんだ。
~○月×日~
好きだと自覚してからは、かなり挙動不審になってた自信ある。
芙蓉さんに
「顔が赤いわよ?大丈夫?」って覗き混んで言われたときは卒倒するかと思った。
綺麗なお顔が近づいて、額がコツンと合わさった。
わ、わ、わ。
どんどん顔に熱が集まるのがわかる。
慌てて「大丈夫です!元気です」って言って裏に逃げた。
や、ヤバかったぁ。
~○月×日~
あれから、何度か逃げてしまった。
あまりにドキドキして顔が見られなかったからだ。
お兄ちゃんに「お前、どうしたんだ?」って言われちゃった。
自分が制御出来ない。
どうしよう。
~○月×日~
怖い顔をした芙蓉さんに捕まった。
綺麗な人が怒ると怖いって本当ですね。
「さて、小百合ちゃん。どういうことか、説明してもらいましょうか?」
逃げたい。
ダメですかね?
……ダメですね。
芙蓉さんが私の肩に手を置く。
「何で最近避けるの?私が嫌いになった?顔も見たくないくらい?」
芙蓉さんが、何かを堪えるように問いかけます。
あぁ、私、本当にバカ過ぎる。
芙蓉さんにこんな顔をさせるなんて。
「ちが、違います!」
私は、さらに何かを言い募ろうとする芙蓉さんを慌てて遮る。
芙蓉さんは困惑した顔で、私の言葉を待ってくれている。
覚悟を決めて、一つ、大きく深呼吸した。
「逆です」
「逆?」
あぁ、一言喋るのにも緊張する。
声が、心が、震える。
「芙蓉さんが、好きだから。だから、顔を見られなかったんです」
「それって……」
芙蓉さんが、大きく目を見張る。
ダメだ。
これ以上見ていられない。
引かれたら、どうしよう。
嫌悪に、その顔が歪められたら──
耐えられなくて、俯いた途端、ぽたりと一滴の涙が落ちた。
……なんか、芙蓉さんの前では、泣いてばかりだな……。
そんな風に思っていた時──
「小百合ちゃん!」
突然芙蓉さんが私の名前を呼んだ。
両頬を挟まれて、グイと上向かされる。
「んぅっ!?」
え、え??
唇に、柔らかい感触が。
そして美しい芙蓉さんの顔がぼやけてる。
芙蓉さんにキスされてる。
私はもうパニックだ。
く、唇が熱いよぅ。
なんだか先ほどとは違う涙が溢れる。
呼吸が出来なかったので、唇が離された時には息も絶え絶えだった。
「芙蓉さん……?」
ポツリと問いかけると、芙蓉さんが「ごめんね」と言った。
な、何が?
「私も小百合ちゃんが好きよ。私が臆病だったから、貴女を不安にさせてしまったわね」
「え」
え?
好きって言った?
芙蓉さんが?私を?
「ほ、本当ですか?」
私、夢を見てるんじゃないよね?
あ、あれ?
あ!だからさっきキスしたの?
「本当。私の可愛い小百合ちゃん。どうか、私のものになって?」
あぁ、どうか夢なら覚めないで!
「小百合ちゃん、返事は?」
「……はいっ」
慌てて頷く私に、芙蓉さんは甘く、優しく微笑んだ。
私が見た中で、一番の笑顔だった。
~○月×日~
今日も芙蓉さんは花を買いに来る。
私を見るとすっっごく綺麗に笑ってくれるの。
嬉しくて、私もにこにこしちゃう。
「小百合、今日のオススメの花は?」
綺麗で優しい芙蓉さん。
私は貴女が大好きです。
「んー、そうですねぇ。……百合、いりませんか?」
ちょっと、上目遣いで芙蓉さんを見てみる。
芙蓉さんは、どんな花よりも艶やかに……微笑った。
「頂くわ」
ここまで読んで頂きありがとうございました。
徐々に気持ちが変化していった感じが書けてればいいのですが……。
きっと読み取って頂けたと信じております(笑)
男女間とは違う、やんわりした感じを目指したのですが、如何でしたでしょう?
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。