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音のない歌を歌おうか

作者: 狐の耳

なんか童話とかけ離れてしまった気がしますが、よろしくおねがいします。

都会の喧騒の真横に、それは広い広い森があったんだ。

大人達は忙しいから、意味が無い所には足を運ばないけれど。

でもビルの無機質からかけ離れたそこは僕の大のお気に入りだった。

僕はいつもそこに入り浸っては、動物達と戯れて毎日を過ごしていた。


そんな僕の話をしようか。


あの日の僕は完全に迷ってしまった。

進めど戻れどずっと同じ景色。

いつも遊んでいる森で、こんなことになるなんて……

まだ日は高いし、落ち着けばきっとすぐに帰れる。

落ち着け僕……

けれどどんなに深呼吸をしたって、目を瞑ったって、僕が落ち着く事は出来なかった。

そしていつの間にか、僕は全く知らない景色の中にいた。

「もう嫌だっ……」

そんな声と一緒に、一粒の涙が地面に落ちた。


その時。

遥か前方に、手招きをしている少女が見えた。

嘘だ。

こんな森の奥に、僕以外の人が居る訳が無い。

嘘じゃない。

僕の足は吸い込まれるように動いていた。


その少女は息を呑む程美しかった。

年齢は僕と同じ位か。

彼女の艶やかな黒髪は、森の中でよく目立っていた。

少女は僕が近付くのを見ると、更に奥へと歩き始めた。

「ちょっと、待ってよ。」

僕がそう声をかけても、彼女はちらりと僕の方を見るだけで、止まってはくれなかった。

「ねえ、そろそろ疲れたよ……」

そう言おうと顔をあげた時、僕は再度息を呑んでいた。

目の前に、綺麗な草原が広がっていたから。

森の奥に、こんな場所があったなんて…

辺りを見回していると、彼女は草原の隅にある家の前でまた手招きをしていた。

今までの疲れが吹き飛んだように、足が軽かった。

気付くと、僕は少女の元に駆け寄っていた。


その日は、今まで見た事も無い程の晴天だった。


家の中は、案外普通だった。

少女はぽんぽんとソファーを叩いている。

「座って」と言っているのだろうか。

僕がソファーに座ると、彼女は少し笑って、お茶を淹れに行った。

ふと、ここで僕は疑問を抱いた。

どうしてこの子は無言なんだろう?

ずっと、この子は何も喋ってくれない。

なにか理由があるのだろうか。

お茶を持ってソファーに座った彼女に、理由を尋ねた。

「どうして君は喋らないの?」

少女はお茶を飲む手をぴたりと止めると、悲しそうに首を振った。

この頃の僕は、本当にデリカシーという物が無かったと思う。

「君は、喋れないの?」

最低な質問をしてしまった。

すると少女はさっきよりも悲しそうに頷いた。

あの時の少女の顔は今でも忘れられない。

「そっか……」

なんだかすごく雰囲気が悪くなってしまった。

「あの……さ、二人で、遊ぼうか。」

そんな雰囲気を壊すために、何気なく言った一言が、彼女の表情をぱっと明るくさせた。

「えっと、何して遊びたい?」

彼女は考えるような素振りを見せると、笑顔で外を指さした。

「外で遊びたいの?じゃあ、外に行こうよ。」

少女は最高の笑顔で頷いた。


二人で鬼ごっこをした。彼女を捕まえるのに必死になったし、彼女から逃げる事にも必死になった。

二人でおままごとをした。普段はこんな事はしないが、彼女と一緒なら楽しかった。

二人でかくれんぼをした。彼女の姿が見えないと何故か不安になった。

二人で動物と戯れた。二人だからか、彼女とだからか。いつもよりずっと楽しかった。

二人で草原の花を摘んだ。手が触れ合うと苦しい程胸が高鳴った。

そこで僕は気付いたんだ、一緒に遊んでいるうちに彼女の事が好きになっていた事も、

もう帰らなければいけない時間になっていた事も。

あの時間が永遠なら良かった。

「もう、帰らないと。」

かすれた声でそう言った。

彼女は花を摘む手を止めて、立ち上がった。

彼女の瞳は潤んでいた。

「ごめん。」

そんな彼女の瞳を見つめる事は出来なかった。

「あの……また来るからさ、待っててよ。」

そう言い、歩き始めようとした僕の足はすぐに止まった。

彼女は僕の手を掴んでいた。

すると、僕の空いている手に花を渡し、帰るんでしょ、と言うように笑いながら森を指さした。

彼女は僕を引っ張るように歩いた。

「もしかして、送っていってくれるの?」

彼女は僕を真っ直ぐと見つめて頷いた。

「ありがとう」

僕らは手を繋いだまま歩き始めた。

彼女の頬が赤く見えた。

きっと、僕の頬も赤く染まっている。

でも、それは……夕焼けのせいにしておこう。


僕らは歩き続けた。その間、ずっと無言だった。

そして気付くと、いつの間にか森の入り口に立っていた。

「送ってくれて、ありがとう」

彼女はただ笑っていた。

「また来るよ。絶対に。」

彼女は笑顔で頷いた。

「そうだ……君の名前を聞いてなかったね。」

そこまで言ってはっと顔をあげた。

彼女は悲しそうな顔をしている。

僕はそんな表情をみて、何故か学校で宿題になっていた『将来の夢』と言う題の作文を思い出した。

「絶対、君を助けに来るから。時間がかかるかも知れないけど、待っててよ。約束。その時にさ、君の名前を聞くから。」

そう言って小指を差し出した。少女の小指と重なる。

「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます、指きった!」

不思議と、二人とも笑顔になった。

絶対に、忘れない。

5時のチャイムが辺りに鳴り響いた。

「それじゃあ帰らなくちゃ。待っててね。約束、忘れないで。」

彼女はこくんと頷いて、

「サヨナラ」

彼女はそう言ったのだ。声は聞こえなかったけれど。口がそう動いていた。

「さよなら」

僕はそう言い残すと走ってその場を去った。

だって……そこにいたらまた泣いてしまいそうで。

さよなら、また会おうね。

僕はそれをずっと心に唱えたまま走り続けた。

途中、ぽろりと一粒の涙が地面に落ちた。






「それでは、宿題だった作文の発表会を始めたいと思います題は……『将来の夢』」


僕がトップバッター。

あの日の思い出を胸に大きな声で原稿用紙を読み上げる。

君と出会った事。

君と遊んだ事。

君と手を繋いだ事。

君に恋した事。

君との約束。

二日前の事なのに、もうとっくの昔の事みたいだ。

「僕の将来の夢は――――――」













もうすぐ叶いそうです。

あの日から十数年。

また僕は森の中を歩いていた。

また迷ってしまったのか。

進めど戻れどずっと同じ景色。

昔を思い出しふっと笑う。

あの時と一緒だなぁ。と思いつつ、顔をあげた。

すると、遥か前方に……あの少女の面影を持った女性が立っていた。

会えた。

先に手招きをしたのは僕だった。

彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。

僕も彼女を迎えに行くようにして歩く。


「約束、覚えてる?」

彼女はこくんと頷いた。

「君を助けに来たよ。でも、ここじゃだめなんだ。森の外に行こう。僕は……君の声を、治したい。」

彼女は涙を浮かべていた。そして、ありがとう、と言わんばかりの笑顔で頷いた。

「じゃあ、行こうか。」

二人は手を繋いで、森の外に出ていった。


僕も彼女も、頬が赤いのはもう夕焼けのせいに出来ない。

この日も、あの時と同じ快晴だった。


僕はあの日から、猛勉強を始めた。

何度もくじけそうになったけれど、その度に彼女が心に浮かんで、応援してくれているような気持ちになった。

努力は身を結び、僕は医者になった。

まだ若いのに凄腕の天才だと呼ばれた。

僕が天才になれたのは、君がいてくれたからだ。

今まで何人もの人の声を治してきた。

今、僕の目の前で、僕が一番治したい人が目を瞑っている。

今、約束を果たすから。

「手術を始めます」

君の名前を聞くから……








「約束、果たしたよ。」

「うん、ありがとう。」

「君の名前を、聞いてもいいかい?」

「私の名前は……」



君と二人で、音のない歌を歌おうか。


一通り書いて3000字超えてなくて字数稼いだらこれです(笑)

文章力のない私ですか、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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