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平成のタスクフォース  作者: 月宵/氷渚
番外編:おまけ
8/58

(2023,7,17)海の日にて

「なにを隠そう、今日は何の日か。

 知らんとは言わせんぞ!今日は……今日は……!!」


「「海の日だァ!!!!」」


2023年7月17日、祝日。梅雨が明け段々と蒸し暑くなり、蝉が待っていましたとばかりに暑さを誇示するかのような音を辺りにばら撒くようになって暫くだ。

毎度毎度の気が滅入る程の猛暑の中、実に晴れ晴れとした天気で今日という日が回ってきたことを俺は恨んでいる。

それに俺が今いるのは早朝5:00の薄明るいエントランスだ。それに眠い。

というか、そもそも夏そのものが嫌いだ。間違っているだの云々の考えを無視し、簡略した意見を述べさせてもらうと、「暑くなって蚊が湧くだけの季節に大した意味合いは無い」ということだ。

事実、例年地球温暖化は徐々に進行しており、ここ5~6年で既に平均気温が0.4℃も上昇している。以前に比べれば上昇は緩い斜線になったが、脅威であることに違いは無い。

単純計算をすると、20年前後で約1.6℃も気温が上昇するという結論に至る。

そんないつ終わるかも知れぬ暑さを前に泳ぐのは正直自殺行為に等しい。あくまで自論だが。

一時的な爽快感はあるだろうが人はそれに依存する。何度も行っているうちに日焼けによる皮膚の変色は著しく進行し、日焼けが顕著に表れることになる。

そうやって夏に対する批判論文を頭の中でグルグルとループ再生していると、

まず最初に叫んだ平坂が、意気揚々とした面持ちで口を開いた。


「いやぁ、聞いたら学校行事で球技(ビーチバレー)大会があるらしいんだけど

 その日程が丁度明日でしょ?その旨をゆきちゃんに言ったらOKされちゃってさー」


「ん、それは良いと思うけど……ゆきちゃん……って誰?」


「あ、それ俺も思います」


詩乃がやや興味ありげに身を乗り出す感じで話に食いつく中、

気配を漂わせず着席していた翔平がしれっと口を挟む。

碧は、「あれれ?」と首を傾げるが持ち前の優柔不断さで状況を理解するように即座に口を開く。


「総督ちゃんだよ総督。東雲(しののめ)結城(ゆうき)だから、結城(ゆうき)から『う』を引いて、ゆきちゃんってこと。皆初めて聞くっけー?」


すると全員が息を揃えて首を縦に振る。すると、碧は更に困惑の表情を見せ始める。


「ん……これって、皆海行くのか……?」


男子用制服の右裾を引っ張られる感覚に気付き右後方を見ると、ちょこんとしたアリスが眠たげな眼を擦りながら俺に問いかけてきていた。朝も早いし流石にやや幼いアリスにとってみれば多少眠気的には弱いのかもしれない。パジャマ姿らしきその姿はなぜだか小学校高学年を思い浮かべる。顔立ちも整っていて金髪に低身長。ロ●コンの格好の的である。

そんな冗談はさておいて、立たせておくのも気の毒なので席を少し詰めて、アリスが座れる分だけのスペースを空けてやる。アリスはだぶだぶのパジャマを引きずるようにしてソファーに乗りあがると、ふらふらと安定しない頭を持ち上げながら半分うたた寝しながら話を聞いている。眠たそうなアリスに一応海の話をすると、「水着……」とだけ残して俺の肩で寝息を立て始めてしまった。仄かな体温と揺れる肩が何というかこう、無性にビクビクさせる。新守か麓路に見つかればめでたくリアル鬼ごっこの開催というわけだ。

もっとも、ある箇所から放たれる妙に殺気の籠った視線はもう回避しようがないが。


「で、話は決まったの?」


アリスに気を取られていると右前方のオートドアから神が降臨中の結城が現れる。

その姿を見るや否や、噴き出しそうになるのをその場にいるほぼ全員で耐え抜く。

なぜだか俺の周りの女性陣の方々は朝の寝起き後が色々と凄いようで。


「今なんか失礼な事考えなかった?」


M9ベレッタの9mmパラベラム弾が付属のサイレンサーを通して俺の頬を掠めた。


「いえ、なにも考えてないです」


「……で、6:00ね」


「はい?」


「6:00にビーチ集合よビーチ集合」


「「ウィーッス」」


ダメだこいつらもうなんの躊躇いもなく泳ごうとしてやがる。俺が夏嫌いなの知ってるだろ!……あれ?知らないんだっけ?まぁどうでもいい。人に知られていようが知られていまいが「俺は夏が嫌いだ」ということに異論は唱えさせん。面倒になってきたのでこの場から去ろうと席を立つ。


「零斗、逃走禁止」


先程の殺意がこもった視線の先からドスの利いた声が聞こえた気がしたのだがどうやら幻聴だったようで髪が逆立ちそうな気迫をもって俺を睨んでいた。末恐ろしい。どうやら逃亡は直接的な死を意味するようなので、ここは生き長らえるために従うことにする。




――6:00クロノス下ビーチ



ギラギラと照りつける太陽、はしゃぐ女子、はしゃぐ男子、それを見てつまらなさそうにため息をつく男子一人、その横に女子二人、内一名ご就寝中。


「おい、この状況をどうしてくれる」


とりあえず着替えろと言われたので水着に着替えたのちに日に焼けるのが地味に嫌いだったのでシャツを着てビーチにまで来たのだが今回に限ってなぜかタスクフォース要員だけでなく他の科の生徒も混ざっての海水浴の日となってしまっている。確かに海の日だが俺は部屋で涼んで本を読むほうが良かったんだが……。と、まぁ着替えたところまではいい。その後エレベーターに乗ろうとしたところで、可愛らしい水着を着てフラフラしながら歩いてくるアリスを見かけて「大丈夫か」と声を掛けたところその場に倒れ込み眠り始めたわけだ。一旦は起きたのだが起こした拍子になぜかシャツを掴まれ、謎の怪力によって剥がせずに引き摺る形でここまで連れてきた。普通に背負うぐらいならまだ重みを感じないと思うがシャツの端を掴まれたままで引き摺るというのはかなり重みを感じた。

そんなこんなで途中で遭遇した、凄い殺気を放つ詩乃さんと三人でビーチの端にいるわけだ。


「私に聞かれても……」


「ん……」


「「起きた(じゃねえか/わね)」」


突然のアリスの起床に二人揃ってツッコんでしまう。腕の時計を見ると時刻は6:30、成程、ここら辺りがアリスの正しい起床タイミングらしい。しかも何をするべきかは分かっているのかフラフラとした足取りではあるがしっかり海の方へと歩いていった。途中で数人にぶつかりながら。


「詩乃は泳がないのか?」


「えー……だってなんか水着恥ずかしいし……」


そう呟いて恥ずかしそうに上着で自分の身体を隠す。なんで着替えてここに来たのに恥ずかしいんだよ……。

そんな意外なところにしか目が行かないわけであるが目線の先のグループには相変わらずバカバカしさしか溢れていないのを確認するとなんだか情けなくなりまたため息をついた。

目線の先のグループは麓路、平坂、新守、結城、氷渚の五人である。それと少し遠くに、浮き輪に打ち上げられたような状態で海面を漂流しているアリスの姿も確認されたがあえて省く。麓路と新守に結城は何やら雑談をしながら平坂、氷渚の二人をチラチラ見たりしている。大方新守と麓路が胸の話をしていてそれにちょいちょい茶々を入れるのが結城と言った所だろうか。だが結局、話までは分からないので何を話しているかは自由な想像にお任せする。そんな姿を見ていて何を思ったのか俺は詩乃の手を引いていた。


「じゃぁ泳ぐぞ」


「えっ、ちょっとまだ心の準備が……」


俺が詩乃の手を引いた拍子に詩乃が羽織っていた上着がその華奢な体を撫でるようにして地面に落ち、その内にあった水着が姿をみせる。華麗な彩りのその水着は凹凸のあるボディラインをはっきりと強調していて艶かしいその四肢が露わになる。


「似合ってると思うよ」


「そ……そう?」


「あぁ、似合ってるよ。だからほら」


そう言ってまた詩乃の手を引く。今度は自分からこっちに歩いてくる。やはり頬を少し赤く染めながら。周囲の目なんて実際は別に大したことじゃないと思う。もっとも、そこに鈍感な俺が言ってもあまり意味がないわけだが。

そんな俺たちの前には浮き輪を持った麓路が突然立ちはだかり手元の浮き輪を此方へ突き出してきた。穴が開いた物だったが。


「……オイ、穴開いてるじゃねえか」


「……当店では不良品は取り扱っておりません」


「上等だ!てめぇを製造ライン送りにしてやんよッ!」


「あ、ちょっと楽しそうだから混ざりましょうか」


「あれ?結城さん?あれ?なんか詩乃さん?え?3 vs1ですかねこれは」


「製造ライン強制送還」「恥ずかしいから八つ当たり」「なんか楽しそうだから加勢」


こうしてまた麓路は恐怖のリアル鬼ごっこで追いかけられる羽目になる。それを見て砂浜で爆笑して転がりだす平坂も、それで揺れる巨大な胸を見て羨ましげに見つめる氷渚も、一緒になって麓路を追いかけまわす結城と詩乃も、それを見てジュースを飲み干す新守も、もうどこへ行ったか分からないアリスも、皆それぞれの海の日を満喫したことだろう。

「こんな日がいつも続けば楽しいのに」そう考えるが相変わらずそんな平和願望が叶う兆しは見えない。とりあえず、今を楽しめればそれでいいのだろう。

きっと、そうだ。それにまだ今日は午後も残っている。蚊と闘いながら海を謳歌するのだろう。日差しは相変わらず照り続けている。

 

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