(2022,4,4)結城
訓練から戻ってそのまま自分のベッドに倒れこむ。
「花村零斗……か」
今日適正訓練をさせた新兵の事をベッドに伏せながらおぼろげに思い出している。
見た感じは何処か抜けた感じの唯の高校生だろう。だがそこに何かを感じたのだ。
そうでもしなければ二年に一度しか行使できない一般特待を数日前に使うはずがない。
そのままブラウスのホックを外してハンガーに掛け、傍にあったパーカーを羽織る。
そして次にスカートを脱いで短パンを履く。
そのまま寝てしまいたい気分でもあったが、一旦飲み物を買いに出ることにした。
両手を短パンのポケットに突っこんだまま自販機まで一人歩いていく。
もちろん念のためのホルスターとデザートイーグルは携帯している。
どうせこの時間にふらついてるのはいないだろうと思いながら明るい通路を歩く。
自動ドアを抜けた先が自販機のある休憩所になっている。
ドアが開く機械的な音が聞こえて、無表情のまま足を踏み入れる。
「あ、結城……さん」
そこには零斗がいた。彼は私が誘った時と同じ上下ジャージの状態でお茶を飲んでいた。
ハッキリと言ってしまうとこれは一切予想だにしていなかった。まさか零斗がいるとは。
「飲み物よ」
そう言って硬貨を自販機に入れて天然水のボタンを押す。無言でそれを取って蓋を開け、一口だけ口に含む。冷たい水の感触が喉を伝い、それによって一時の安堵が得られた。
「今日は……その色々とありがとうございました」
予想と違って零斗は私に向けて礼を言ってきた。予想としてはそのままかと思ったのだが。
「別に」と曖昧な返事を返してそのまま立ち去ろうとする。それをまた止められる。
「ちゃんとお礼言わないと流石に自分が許せないわけなんで」
どうやら零斗は私にちゃんとした敬意を表したいようだ。私にはそれは不要だというのに。
とりあえずといった形で零斗の応対をしておくことにする。
そして私が十分わかったと伝えると、彼は最後に一言付け加えた。
「ありがとう。今日は助かった」
その一言を聞いて、私は休憩所を出た。不思議と部屋に戻る足取りは速かった。
そして部屋に戻り、またベッドに倒れこむように顔を伏せる。
やや速歩きになってしまったせいで心拍数が若干上昇しているのが分かるが、
恐らく大した問題ではないだろう。
そういうことを考えているうちに、疲れと睡魔によって夢へと落ちていった。