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平成のタスクフォース  作者: 月宵/氷渚
第二章/音凍りついた心
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デュアルガバメント

第二章開始

自室の中とは思えないほどの仄かに冷たい風が俺の頬に当たって流れる。

当然と言えば当然の事だろうか。だが今いる環境はそうでもないのだ。

なぜならここは地上ではない。誰もが抱く現実とはかけ離れた場所。

不正規部隊であるタスクフォースの本拠地なのである。

タスクフォースの目的は、武力を持って数多のテロ行為を鎮圧、防ぐことにある。

事件性がなければ動こうともしない警察とは全く異なる組織である。

どちらかと言えばアメリカのS.W.A.Tチームの方が似ているのかもしれない。

だが、やはりS.W.A.Tも命令なしでは動けない。その点はこちらが身軽になる。

しかし、こちらにも一応制限はある。それは作戦行動可能時間と、人目を避けることだ。

作戦行動可能時間を設定してあるのは人目を避けることのできる時間に限界があるからだ。

実は、本部が諸事情という名目で一時的封鎖を行っているに過ぎないのだ。

だがその分その時間の間は絶対に人が入ることは無い。理論上は。

だが一人例外がいた。言うまでもない俺の祖父だ。

俺の祖父は何らかの方法で滞在、もしくは侵入してニュースのネタにしようと飛び込んだ。

それがもとで俺の祖父はある勢力に殺されることになってしまった。

だが、今俺はその父を殺した組織と敵対しているタスクフォースにいる。

父の仇を取るためではない。二度と自分と同じ思いをする人が現れて欲しくないからだ。

そう、唯それだけを願って俺はこのタスクフォースに入ったのだ。

――話を戻そう。

俺は今自室というかクロノスの寮にいる。部屋の番号は五号室。

タスクフォースには0~9号室までの部屋が貸し与えられている。

各自好きな部屋番号を選ぶことが出来るので、実際のところ番号は特に意味を持たない。

零号室が東雲、一号室は空き部屋、二号室が新守、三号室がアリス、四号室が平坂、

五号室が俺、六号室が一宮、七号室が瀧本という部屋割りになって、後は全て空き部屋だ。

新守に連れられて寮に案内されて、突然部屋を選べと言われて正直驚いたものだ。

一番早く目についた五号室にしたのは幸運だったのは不幸だったのかはよくわからない。

ただ、寮だというのにこの内装の丁寧さや家具の多さには目を引かれる。

ベッドにスタンド、作業用のデスクに横長ソファー、風呂まで付いている。

そしてもちろんだがトイレは完備されているし洗面台もちゃんとある。

それでおいてこの10畳半程の部屋とはにわかに信じがたい光景である。

そしてその驚きと回想は、一つの微かな清音によって唐突に終わりを迎える。


「銃声……?」


不審に思った俺は手元にあったMk.23を右のホルスターにしまうと、

銃声の聞こえたすぐ向かい側の零号室を目指して勢いよく走り始めた。

ようやく零号室の目の前にまで来たというところで、二発目の清音が聞こえた。

ドア横に張り付いてドアをノックし、静かな足音と共にドアの鍵が回される音を聞いた。

そこから出てきたのは異変をもたらす部屋の所有者以外の姿ではなく、

零号室の所有者である白のワンピースを着た東雲結城本人であった。


「私に何か用……?」


「いや、銃声に似た音が聞こえたから一応来てみたんだ」


若干の誤魔化し気味に俯きつつ喋る。


「眼……そう、今は発眼してるのね」


そう言って彼女は一旦部屋の中に戻り、一つの小さな手鏡をもって来て俺に見せた。

そこには、俺の普段の服装と、鋭く輝く鷹の目が映っていた。


「俺は……いつの間に?」


「さぁ、それは貴方しか分からないでしょう。それに、防音加工してあるこの厚さ10cmの防音壁越しに銃声を聴きつけるなんて……相当な能力なのね」


「え……防音壁越し?それにやっぱり銃声だったのか?」


いきなりの事実提示に戸惑いを隠せない。だが普通に行けばその筈だ。

普段と変わらない生活を送っていたというのにいきなり鷹の目が発眼していたのだから。


「そう、M1911ガバメント。私の愛銃よ」


手鏡を靴箱の上にそっと置いた結城は両腰のホルスターから二挺のガバメントを取り出す。

余談だが、俺が銃を見ただけで分かるようになったのは、数日前の不審者追跡の時の、

一度鷹の目が発動した以降だった。それ以来はこの力に助けられて今があると思っている。

結城の黒いデュアルガバメントには、朱色で【Cardinal】と刻印がなされている。

チラッと見た限りで分かるのはそれだけの事だった。それだけでまだ大丈夫なのだろう。


「だけどなんでここで撃ったりなんかしてたんだ?」


「正確には撃っていないわ。空砲よ。調整のテストとして空砲を二発撃ったの」


「く、空砲……」


なんとなく緊張がほぐれて気が緩む。俺が過剰に心配し過ぎたのだろう。

とりあえずはそう考えておくことにしようと思う。それで気が済むのだから。

そのまま、ふらつく勢いで自室の鍵を開けてベッドに飛び込む。


「もしかして……これがほぼ毎日続くんじゃないだろうな」


などと余計に不安になりかねない事を頭の中で考えて更にふらつきが増す。

これ以上脳に過負荷を与え続けるとその内に恐らく破裂するのではないだろうかと思う程。

大事に至る前にその危険な思考を、脳がどうにか忘れさせてくれる事を祈る。


「取りあえず、晩御飯まで時間があるから寝ることにしよう」


結局、頭痛よりも睡眠欲の方が勝ったらしく、だんだんと意識は闇に消えて行った。


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