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平成のタスクフォース  作者: 月宵/氷渚
第一章/TaskForce
16/58

鷹の目

1100mの狙撃。一言で言ってもあまり実感を持つことが出来ないだろう。

実際1100mという距離を掴めという方が無茶なのだ。

不気味なまでに漆黒に彩られたM82は日光にさらされて絶妙な反射を起こしている。

スコープに右目を当てたままのユウの左目に自然と目がいってしまう。

その左目は鷹のように鋭い眼光を放ち奥のセンタービルへと逃げ込む不審者を見ていた。


「予備動作無し……。いまいちこれが分からないな」


一人呟いてはみるがユウは押し黙ったまま喋ろうとしない。

そしてまさかの麓路も一切反応しない。

明らかにチームワークの無さすぎなチームであることを今俺は自覚している。

第一俺がコミュニケーション苦手だというのになぜこのメンバーになったのだろうか。

思い返していると自分が許可したのだという事を思い出し、一人ため息をつく。


「零斗。不審者を見つけた。どうする足を狙うか?」


「あぁ、狙ってくれ。ただし一回だけだ。防弾の場合ユウが射殺する」


「分かったやってみる」


通信機越しにM16を構える麓路の姿が見えそうな勢いであったが、

流石にそんな芸当は出来そうにないらしい。液晶が映っているだけだった。

そのあと乾いた発射音が立て続けに三発確かに聞こえた後、麓路が出る。


「零斗の言うとおりだ。奴は何か防弾装備を身に着けてる。

 それと上空にヘリを見つけた。あいつ上で逃げる気だ。上に着いたら終わりだ」


「まて麓路。機種は分かるか?」


「ん?あぁ、AH-6……かな」


しめた。相手が装甲型の戦闘ヘリでないなら起動エンジンを撃ち抜くことで落とせる。

特にユウのもつ大口径の銃ならやれる筈だ。


「ユウ、エンジン狙えるか?」


「狙えます」


それ以上の言葉のやり取りは不要だった。

伏射態勢のまま的確に小型ヘリの動力部を狙っている。

火花と轟音を放ってそれることなく一直線にヘリへと飛んでいく。

金属同士が擦れ合う不快音が響き、ヘリは黒い煙に包まれて爆発した。


「麓路、遺体は見えるか」


「見える。確認しに行く」


念のため遺体も確認しなければみすみす取り逃がす可能性がある。

そうなれば上からも何か言われるだろうしクラスの雰囲気が心配だし。

もうすでに俺の話題で心配しなければならない状況に陥ってしまっているのだが。

それと、見ていて気付いたのだがこの大口径の銃は相当な反動を伴うらしい。

ユウの位置が若干だが後ろに引いているのがかろうじてわかる

ユウは銃を横に置くと、自分のスカートを叩きながら起き上がった。

センタービルの屋上では相変わらず無装甲のAH-6が黒煙を上げている。


「……無装甲…!」


今更になって気付いた。奴は装甲に身を包んでいた。

だったら装甲が爆風から奴を守っていたとしても過言ではない

気付くのが遅すぎた。麓路を呼び戻さないとアイツが危ない。


「麓路!待て戻れ!そいつは装甲持ちだ!」


俺がそう叫ぶのとほぼ同時に銃声が立て続けに聞こえる。

クソッ判断ミスだった。応答を待たずに一気に走り出す。

予備用としていたMk.23をサイドポーチから引き出す。

それと同時進行でワイヤーを思いっきりセンタービルにぶん投げる。

カラカラという乾いた音を発しながらワイヤーがビルの窓脇にかかる。

そのまま今いたビルからの跳躍。振り子の動きをして奥のビルに飛び移る。

ビルの9階の窓を突き破って破片を散らせながら転がり込む。

頭の中は冴えている。異常なほどに。

ふと顔を上げた時に割れたガラスの破片に目がいった。

目がいつもと違う。そして瞬時に理解できた。鷹の目だ。

だが今はそんなことに驚いている暇はない。葛藤を押しのけて再び走り出す。

空間感知能力は無いが気配が異常に分かる。この階には何もいない。二人とも屋上にいる。

屋上のドアを蹴り破って辺りを見回す。後ろに気配を感じて銃を構える。


「おい、待て。奴があっちにいる。P90をデュアルで持っている」


俺の後ろにどうやらあの三発の銃撃の後に無事で隠れていたらしい麓路が、

即座に俺の銃に手をやって遮る。無駄な喋りをするより隠れる方を優先するべき

と判断した俺は麓路がいた配管パイプの裏側に身を潜めた。

麓路の隣に潜り込むようにしてパイプの間から向こう側をこっそり覗き見する。

そこには麓路の情報通りP90を両手に持った先程の不審者……いや、テロリストがいた。

もはやカムフラージュのための市民服を必要としないほどに追い詰められているのか

むき出しの全身防弾着を身に着けている。いかにもゴツイと言った感じか。

先程は被っていなかった防弾装甲ヘルメットもいつの間にか着用している。

どおりで麓路が隠れたまま奴を射殺しないわけだ。

麓路の持つM16の5.56 x 45mm弾は対装甲弾ではない。

いくら三点バーストといえどもあの装甲には敵わないだろう。

すると麓路が太もものポーチケースからある筒状の物を取り出して

どうだこいつとでも言いたげに満面の笑みで俺に見せびらかせた。


「スタングレネードか」


スタングレネード。いわゆる音響手榴弾の事だ。

約100万カンデラの閃光と、1.5m以内に160~180デシベルの爆音をもたらす

非殺傷武器の一つである。使い方によっては優位に立つことが出来るが使いどころを

間違えると逆に劣勢になる確率もある。

今は別に使ってもいいだろう。そういうことで麓路の案に俺は賛同した。


「じゃぁやるぞ。お前は左から。俺は右からだ。」


ピンに指を掛けた麓路の表情が強張るのが隣で見ていてよくわかる。

麓路の、首を縦に振るカウントの合図でタイミングを計る。

1…………2………3……!

3のタイミングとほぼ同時に麓路がスタングレネードを投げ、炸裂した。



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