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平成のタスクフォース  作者: 月宵/氷渚
第一章/TaskForce
15/58

黒の狙撃銃

よくよく考えてみれば話が上手く行きすぎている気がする。

これはいままでを通して俺が感じた印象だ。

思い返してみればこんな大きな組織になぜ一般人が入れるのか。

そしてなぜ俺に『鷹の目』が使えるのか。ユウと俺だけが。一体、なぜだ?

しかもその鷹の目を発動させたと思われた後俺は恐らく倒れて医務室に運ばれた。

そこはいい。だが、どうして結城は俺を見て笑っていたのか?

それだけがハッキリとしない靄になっている。まぁ他にも不可解な点はあるのだが。

俺は考え込む。おかしい。絶対に何か意図的な裏がある筈だ。絶対に。

すると、スッと項垂れて考え事をする俺の目の前に手が伸びてきた。

ゆっくりと頭を上るが誰もいない。だが次の瞬間右頬にひやりとした冷たい感覚があった。


「あなたは今、一度死んだ」


振り向くと、俺の丁度真後ろにジュース缶を片手にユウが立っていた。

確かに、今のがユウではなくてテロリストだったら俺はもう死んでいる。

今の一撃がナイフだとしたらそれこそ辺り一面血の海だっただろう。

なんてことを考えて一人心の奥底で身震いをする。


「麓路は?」


「今自分の銃を取りに行っています。直戻るかと」


相変わらず堅苦しい奴だ。もっと気楽に話せばいいのに。とまで考えたところで気付いた。

警戒だ。流石に初見の相手に警戒をしない者など多分いないだろう。

いわばそれは自然な対処法だ。されないほうがかえって珍しい。

そして回想に耽る中ユウの足元に何か白いものが見えた。何だ?


「カルネです」


「……?」


俺の心を読んだのかと思えるくらいバッチリのタイミングだ。

実際ユウにはあってもおかしくないなと内心思う。いや無い方が実際いいのだが。

だがそんな俺を余所に、話は一直線に続く。


「フランス語で手帖という意味です」


いや、意味は別に知りたくないんだが……なんて答えると殴られそうなので(麓路に)

ここは無難にカルネの事を褒めておくことにしよう。そう思い、身を乗り出して観察する。

だがそこにはあるまじき……いや、少しありえない光景が待っていた。猫だ。

先程見えた白いものはこの子猫の尻尾だったらしい。実を言うと犬かと思っていた。

だが可愛らしい表情でユウに甘えるこの子猫は愛くるしいという感じもする。

猫は若干苦手なのだが……。犬なんか絶対ダメなんだけどな。

そんな俺でも、この猫は可愛いと思えた。言葉では表し辛いがそんなところだ。


「にゃーん」


にゃーん……って。言葉通じてるのかよお前。カルネも目を輝かせてるんじゃねぇよ。

本当に通じてるみたいで俺の恐怖度指数が絶賛右肩上がりだろうが。どうしてくれる。

と、ここでようやく思い出した。任務だ。

「不審者の確保」というありきたりな名前のクエストをすっかり忘れていた。

ユウに麓路呼びに行ってくると言おうとしたとき、KY麓路が勢いよく入って来た。


「悪ぃ、待たせた。準備良いぞ」


何がいいんだよ。丁度お前を呼びに行こうとしたというのに。

わざわざ声に出すのも面倒なのでそのままクエストを行うことにする。

というか緊急性のあるものなら警察に行った方がいいと思うんだが。確実に。


「じゃぁ行くか」


俺は小さく呟くとそばにあったドラグノフを手に取って立ち上がった。

幸いにも心の傷口は開きそうにないので取りあえずは大丈夫だろう。

――大丈夫じゃなかった。

不審者を発見したのは良いものの、尾行に気付かれ逃げられている。

しかもその逃げ足の速いこと。到底追いつけない。

更に運の悪いことに狙撃主である俺が走って息切れしている。

そこらへんは冷静になって考えるべきだったなと今では反省している。

一直線の道路なのに息が続かない。狙う事すらままならない。

自分に落胆しているうちに、不審者との距離はどんどん離れていく。

自分の情けなさに落胆していると、ふと目の前を碧髪が流れた。


「ドラグノフを」


風に流れる碧髪を揺らしながら俺を見下ろすのは無表情そのものであるユウであった。

クロノスのブレザーに身を包んでいる彼女の足元にはカルネがいた。

言われるがまま、ドラグノフを手渡すが、

正直あれは結城が俺用にカスタマイズしたという代物だ。あまり使いやすいとは思わない。

それに、彼女が下げているケースの中にも狙撃銃が入っているのではないのだろうか。

そう考えた俺の思考を覆すようにドラグノフの銃口から7.62mm x 54R弾が発射される。

しかもそれはちゃんと走って逃げる不審者の足に当たる。

ビスッという鈍い音と共に、不審者の態勢が前のめりになりその動きを止める。

流石は狙撃科の一員というだけはあるか。一発で決めやがった。

使い終わったドラグノフを俺に手渡すと、Mk.2麻酔銃を片手にユウが近付いていく。

なんかこれ俺と麓路の意味無いような気がするんだが。

ちなみに麓路は屋上で待機中だ。俺がやればよかったとつくづく思う。

だがこれがクエストボードに載せられた意味を俺は今初めて知ることになる。

倒したと思われた不審者がいきなりこちらにスタングレネードを投げてきたのだ。


「んな!こんな街中で……!」


戦闘機が通ったかと思うほどの大きな轟音と共に何百万デシベルもの閃光がほとばしる。

とっさに目と耳を塞いだが、耳の方はかなり痛みが残っている。


「……麓路!」


意識がハッキリとしない中で無線を使い、

麓路に逃げた方向と相手が普通でないことを必死に伝える。


「わかった。あ、いやちょっと待て。いたぞ!左のセンタービルの中だ!」


「センタービルだと!?あの30階もあるビルのどこに行くんだよ!」


センタービルは先月建築が完了したばかりの企業タワーだ。

完全な設備が整うまではまで社員がいないのがせめてもの救いだ。

ズキズキと痛む耳を押さえながらセンタービルへと向かおうとすると、

ユウが俺の左手を引いた。


「ここから狙います」


俺の手を引いた状態で俺に向けてユウは確かにそう言った。

だが無茶すぎる。ここからセンタービルまで1100mはある。

しかしそんな俺の心配をよそに、ユウは背中のケースを下ろして中身を出し始めた。


「M82A1、対物ライフルです」


そのケースから出てきたのは黒い銃。全長およそ140cmといったところだろうか。

そんな大きい銃を彼女はいつも背負っていたのだ。

一体その華奢な体のどこにそこまでの力があるのかは分からない。

そして彼女は伏射態勢でスコープを覗いた。


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