一員に
二重ロックの扉を通り抜けた先。普通の住宅のような内装の部屋が広がっている。
うす橙を、更に薄い色にしたようなシンプルな内装に俺は一瞬拍子抜けする。
「他のメンバーは後々説明する。それと私から貴方に一つ質問。
いつどこで、このタスクフォースの事を知ったの?」
当然といえば当然だろう。普通は口外されることは決してないはずの
タスクフォースの情報が外部に漏れるのは普通ありえない。
仮に裏切りがあったとしても直に部隊に消させればいい。
だがこの質問の答えは至って簡単だった。俺はタスクフォースの事をネットで知った。
俺以外の人間は誰もがそれは唯の閲覧稼ぎのネタだと決めつけた。警察でさえも。
だがそれは正直言って当然の反応だろう。誰も60歳を過ぎた老人の話を信じる訳がない。
しかも内容が、中高生が銃を持って銃撃戦を繰り広げているとなれば尚更だ。
挙句の果てにその老人が犯人扱いされる始末。後に無実が証明されて釈放はされた。
その事を先輩に話すと予想に反してやっぱりという返事が返ってきた。
「最近なぜかその話が出回っているの。絶対に目撃者はいない筈なのに。
じゃぁもう一つ。貴方はどうしてその話を信じたの?」
「信じなければ報われないから」
単純な答えだ。信じなければ報われない。
テロに巻き込まれて死んだ花村幸雄、俺の祖父が報われない。
俺の祖父は某新聞会社に勤めていた。歳をとっても仕事の腕は衰えることなく、
社内の上司からの評判も部下からの信頼もトップを飾れるほどだった。
だがある日、祖父はその対テロ戦を目撃してしまったのだ。
だが、なぜ目撃してしまったのかは祖父が亡き今は知ることは出来ない。
とにかく、目撃した祖父はそれを会社の記事にしようとした。
だが流石の会社もそれだけは信じなかった。祖父はそのことを重大な内容だと確信し、
ネットの掲示板に書き込んだ。それが事件の引き金となった。
数日後、祖父は会社にも行かずに帰っても来なかった。不安に思った俺は警察に届けた。
だが、その通報から数時間後。祖父が遺体で発見されたという報せが俺の元に届いた。
父と母が他界した後、祖父の家に預けられた俺は祖父の下で生きてきた。
気が優しかった祖父は、俺に貧相な暮らしをさせないように膨大な貯金を貯めていた。
俺は、それを使わずに済むように早く社会に入って祖父を支えようとしていた。
だがそんな俺の願いも虚しく、祖父は俺の手が届かない空へと行ってしまった。
「分かった。それいじょう詮索するのはよしておく。
そのかわり、いつかは話してちょうだい。いい?」
無言で頷く。とりあえずこの話題から離れたかった。
少なくとも今の時点で話すほどの事ではないと思った。
「じゃぁそろそろ自己紹介をしてもらうわ。この奥だから。いい?結城、入ります。」
通路を抜けた先の扉が先輩の手によって開かれる。広々としたリビングの中に
俺と同い年くらいの男子女子がそれぞれのテーブルに付いて座っていた。
全員それぞれのグループで雑談をしていたようだが、先輩が入るなり一瞬で沈黙する。
「全員いるね。彼が新しく入った新入り君。後は自分で自己紹介させるから。ほら」
先輩に肩を軽く押されて若干前に押し出される。
どうも俺はこういう大勢の前に立つのは苦手らしい。緊張する。
「花村零斗です……えぇと……以上です……」
「「短いなおい。」」
メンバー全員の見事に揃ったそのツッコミに緊張がほぐれる。
ほっとした俺の目先で、
短髪で縞模様のコートにジーパン、メガネを掛けた男子が席を立って好意の眼差しを
向けつつ、軽い挨拶をする。
「俺は新守颯太だ、宜しく。現メンバーの紹介は簡単に俺からさせてもらうよ。
君から見て右端にいる赤髪の彼は瀧本翔平。彼は支援兵だ。
性格に若干難があるが優秀だ。言い表すなら壁だな。ジャガーノートなら最強だ。
その隣の碧髪の彼女は平坂碧。狙撃兵だ。
口数は少ないが十分に優秀だ。好物はクッキーだからあとでやっとけ。
その横にいる銀髪の背が低い彼女はアリス。孤児だから名前は俺たちが付けたけどな。彼女も碧と同じく立派な狙撃兵だ。チビは禁句だ。ガスガンで眉間を狙撃されるぞ。
ちょっと待て、俺に向けるな。それ実銃だろうが。
最後に俺は新守颯太だ。ショットガンで突撃兵をやってる。
とりあえず今いるメンバーはこれだけだ。あと数人いるが今度でいいだろう」
颯太と名乗る人物のメンバーの簡単な説明が終わった後、一瞬置いて拍手が起こった。
アリスと呼ばれた彼女はふてくされた表情で渋々手を叩いていた。
「では紹介が終わったところで、一つ決まりがあるわ。メンバーの事は名前で呼んで。
基本ここではさん付けはあまり好ましくないから。先輩もナシ。
それじゃこの後適正訓練をするから射撃場に来て。いいわね。では解散」
「「了解」」
結城が一言部隊に声をかけるとまた全員雑談に戻っておしゃべりが始まった。
どうも話しかけるタイミングが掴めない。そこにアリスが話しかけてきた。
「これからよろしく。射撃場は右手の通路の奥だよ。結城の訓練は地獄よ」
アリスはその一言を残してテーブルの方へと去って行った。
もう俺の歯車は動き出している。既にこの時からゆっくりと。
どのみちもう後には退けない。