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平成のタスクフォース  作者: 月宵/氷渚
第一章/TaskForce
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ようこそタスクフォースへ

先輩が放ったその一言に俺はあまりピンとこなかった。

少し頭の中を整理すると何の組織かもはっきりとしていない事を思い出した。

いきなり先輩に仲間にならないかと聞かれたからと言って

危なさそうな組織にそんなやすやすと「はい入ります」なんて答えられるわけがない。

とにかく先輩が何の組織に入っているかが分からない以上、

「はい」と答える訳にはいかない。

かといって「いいえ」と答えても何されるか分かったものじゃない。

そう思った俺の口から出た言葉は実に奇妙なものだった。


「仲間……って非合法的なああいう組織ですか?」


言ったそばから首に手を掛けられて絞められる。全く見えなかった。

しかも関節を押さえられており動こうにも全く動くことが出来ない。

東雲先輩の小柄な体からは想像できないほどの力で首を絞められ、

あがくことすら出来ないまま、視界が徐々にかすんでいく。


「違う。私達はタスクフォース。テロリストではないのよ」


そう静かに囁やかれ、「私達」というキーワードに疑問を感じたが、

直後、後頭部に重い一撃を食らい、俺は気を失った。

俺が目を覚ますと、そこは東雲先輩と会った路地裏ではなく唯の広い空間だった。

やがて意識がハッキリとしていくにつれ、その空間が見慣れた場所であることに気が付く。


「ここ公民館じゃねぇか!」


よく見慣れた空間。それはよくここらの住民が宴会等に使う公民館だった。

この公民館は今からおよそ5年前、2017年に作られたものだ。

無駄な広さと、テレビ、炊事場、カラオケセット、エアコン完備など明らかに

他の事業にその資材を使った方が良いと思わざるを得ないほど色々な物が揃っている。

そして、近所の住民なら誰もが知っている公民館の奇妙な設計計画。

それは、これだけ広くて快適な公民館に

不要としか思えない二畳程の地下倉庫があること。

この公民館には別に倉庫があり、明らかにこの地下倉庫は不必要なのだ。

寝かされた状態から起き上がり、まだ微かに痛む後頭部をさすりながら出口を目指す。

しかし出口に行こうとした瞬間右足が何かに引っかかり、

奇声をあげながらそのまま無残に前方へ倒れる。


「あ、花村君。こっち」


俺が躓いたのはその不可思議な地下倉庫へと続く落とし戸の蓋だった。

しかもその落とし戸からひょっこり顔を出しているのは東雲先輩だ。


「先輩……なんで俺を落としたんですか……。というかなんで地下倉庫に?」


先輩は俺の苦痛に満ちた質問に答えようとはせず、無言で唯こっちを見ている。

恐らく付いて来いと俺に言いたいのだろう。願わくば変な事をされないで済むことを。

まだヒリヒリと痛む額を気にかけながら、先輩に付いて落とし戸を降りていく。

地下倉庫は相変わらず暗い。なのにやはり一切荷物は置かれていない。

すると、突然先輩がどこから取り出したのかサバイバルナイフでいきなり畳を突き刺した。


「ちょ、先輩!これ公共の物ですよ!?」


先輩はまたしても俺のその叫びを無視して畳をひっくり返す。

これは見つかったら確実に弁償させられる。この調子だと俺まで同罪になりそうなので

先輩を止めようとしたとき、畳の下にまた落とし戸があるのが目についた。


「地下倉庫にまた落とし戸……?」


第三者が見たら間違いなく笑い死にしそうな体制をしている俺に構うことなく

先輩は地下倉庫の落とし戸を降りていく。そして俺は慌てて先輩の後を追う。

地下室にあった隠し落とし戸を降りると、狭い白色の空間に出た。

突き当りの壁には頑丈そうなドアと監視カメラが設置されている。

どうやら遠隔操作の二重ロックらしく、先輩が認証手続きをしていた。

すると地下室の下にこんなところがあったのかと驚愕している俺に先輩が質問を浴びせた。


「貴方はタスクフォースに入るの?それとも入らない?」


前方を向いたままこちらを向かずに先輩がようやく口を開く。

俺は、答えを準備していた筈なのになぜかその答えでいいのかと頭の中で葛藤していた。

確かにタスクフォースに入れば日頃の生活から離れることが出来る。

もう二度と大切な人を失わずに済むようになれるかもしれない。

しかし、生活の変化と同時に二度と普通の生活に戻ることは出来ないという事を差す。

沈黙。これまでに感じたことのない程の重い沈黙。


「俺はっ……変わりたいんだ。もう二度と大切な人を失いたくない。

 人を守りたいんだ……だから俺は……」


無意識の内に声が震える。思い出したくないはずの過去が頭の隅をよぎる。

父と母を亡くしたあの惨事。今更悔やんでも、もうどうにもならないというのに。

そして涙があかくなった頬を伝い落ちる。


「だから俺は……タスクフォースに入りたい……」


そう言い切ったと当時に何かが俺の頬に当てられた。ハンカチだった。

顔を上げると、ハンカチを片手に東雲先輩がこっちを見ていた。


「人を守りたいと思うことは悪いことではないのよ花村君。

 私はそういう強い意志を持った人間の方がタスクフォースには向いていると思うよ。

 だから泣いていてはダメ。君は今日から人を守る組織に入るのよ。

 だから前を向いてドアを引いて。これは新しい貴方の人生への入り口だから」


先輩のその優しい言葉にまた涙が溢れそうになる。

だが先輩の言うとおり、これからは俺が周りを守る番なのだろう。

嗚咽の漏れる状態でその事実をしっかりと実感した。

次第に感情が落ち着くのを感じて一言先輩に礼を言ってドアに手を掛ける。

ここからは、俺のもう一つの新しい人生なんだと思いながら認証済みのドアを引く。

そして先輩がはしゃぐようにドアの奥へ走っていき、俺の方を向いて無表情で挨拶をする。


「花村君、今日からここが貴方の学校よ。偽装はこちらで手配するから大丈夫」


そして俺が自ら望んだ答え、渇望さえした望みが今叶えられようとしている。

先輩のその一言で、俺の人生は劇的に変わる。望んだ様に。


「ようこそ、タスクフォースへ」


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