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奇話百厭  作者: 水崎
7/9

7. 走る少女


 夕方。あれは懐かしい小学校の頃。

 僕はまだ友達と学校の校庭に残って遊んでいた。東西に真っ直ぐ伸びたごく簡単な造りの校舎は夕陽をいっぱい浴びて、少しだけ赤くなっていた。

 僕らの他にも校庭に人がいた。逆上がりや一輪車の練習をする下級生や、野球のクラブなどでそれなりの人数がいた。ただ、田舎の校庭は自分たちが小さいせいか驚くほど広かったから、閑散としていたのを覚えている。

 ただ、その日に何の遊びをしていたかは覚えていない。その友達は有難いことに今でも親友として付き合いがあるが、この話題を持ち出したことは一度もない。無意識か意図的か、あの日を思い起こさせる話を僕らはしたがらない。


 夕方だった。僕らは西側にいた。突然、悲鳴が轟いた。驚いた僕らは音源へと視線を走らせる。校舎からだった。

 悲鳴は女の子のものだった。それが何故か短く断続的に続いていた。しかしこちらに近づいているのは分かった。

 こちらがきゃーのところを英語圏の人は「イーク!」と表現するらしいが、正しくそんな悲鳴だった。もしくは海外のホラー映画の一場面のような。

 そのうち、それがなにかは分かった。二階の窓際を走り抜ける影が三つ。悲鳴は一番前を走るおさげの女の子のものらしかった。顔は分からない。その後を追いかけるのは二人の男らしい。背が高かったから六年生の子達だろう。どう見ても廊下を使って東から西へとおいかけっこをしているようだった。そう思うと彼女の悲鳴は面白がっているものに聞こえた。

 僕はその光景を最後まで見届けることとなる。おさげの女の子の足があまりにも速かったからだ。しかし直ぐに限界が訪れる。窓と窓の間の隙間というものがあるから、それは途切れ途切れではあったが、確実に二人が女の子に追い付いていっている。おいかけっこの終わりが近付いていた。

 最後から二つ目と三つ目の窓の間が少し長かった。直前に二人のうちの一人が彼女の肩に手をかけていた。疲れているのだろう。彼女らはもう窓と窓との空白から姿を現さなかった。

 途端に意識が舞い戻ってくる。後方の会話が、耳に入った。


「へんだよあれ」

「だからなんで」

「だってさ、ほら」


 僕らの後ろにいた二人はおいかけっこを見届けていたようだった。

 彼らの会話を聞きながら僕ははっとした。顔から血の気が喪失したことが自分でも分かった。きょとんとする友人をつれて僕は、急いで校庭を離れることに成功した。


「へんだよあれ」

「だからなんで」

「だってさ、ほら。あそこ廊下じゃないじゃん」

「は?」

「おれらの学校、校庭側に、あるじゃんほら……教室が」

「ああ……………、嘘」


 今でも思うのだ。あの女の子の悲鳴は、本物の『悲鳴』だったのかもしれない、と。


「無理なんだよ、あんな風に走れっこない」

「やめろよ、おい」

「だってそうじゃん。窓と窓の間にあるのはさ、教室と教室の間の壁じゃんか。壁ぶち破らなきゃあんなこと、できないんだよ」



【終】

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