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奇話百厭  作者: 水崎
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6.見知らぬ友達


 放課後。人がまばらになった小学校で、十人の六年生が残って遊んでいました。かくれんぼをして、おにごっこをして、またかくれんぼをして。そうしている内にあたりは薄暗くなっていました。

 さて、もう帰ろうか。そうして十人があつまって帰る支度をしていると、だれかが「ねぇ、誰かがいないよ」といいました。

「誰かって、だれ?」

 髪の長い女の子が不思議そうにたずねます。だって何度数えたって十人ちゃんといるのですから。

 でもいちばんわんぱくな男の子が「おれも誰かいない気がする」そういいました。

 するとおとなしい男の子も「僕もそう思う」といいました。

 彼らは間違ってはいません。だって、本当に誰かがいないような気がするのです。

「ねぇ、さがしに行かない?」

 二つしばりの女の子がいいました。「別にいいじゃん、だって十人いるんだよ。だいたい、だれがいなくなったんだよ。名前は?」

 赤いぼうしの子は嫌がるようにいいました。みんなはその子の質問に答えられなくて、しーんとなってしまいました。

「ほら、分かんないじゃん」再び赤いぼうしの子。

「帰ろうよ」

 けれど、ほかの子たちはみんな首をふり、結局そのいなくなった子を探しに行くことになりました。

 名前も分からない「誰か」を。


 校舎を歩き回りグランドや校舎裏にも出てみました。けれど、どこを探しても「誰か」はいません。仕方なく十人は学校は学校の外にも探しに行きました。学校のとなりには公民館、その反対側には川が流れています。

 だれかが叫びました。

「みんな! いたよ!」と。

「誰か」は川のほとりにいました。

「誰か」、とは。

「あ、ゆりちゃんだ」そう、みんなの人気者

のゆりちゃんでした。どうして気が付かなかったのでしょうか。みんながばたばたとかけよると、ゆりちゃんは不思議そうな顔をしました。

「どこ行ってたんだよ、もう」男の子がたずねると「みんな、外に行ったっていわれたから」ゆりちゃんはそう答えました。

 みんなは顔を見合わせます。だれもそんなこといった覚えがありません。

「誰がそういったの?」女の子がたずねるとゆりちゃんは「あの子だよ……ほら、赤いぼうしの」

 名前が分からない。ゆりちゃんは首を傾げます。九人は、さっと青くなりました。

 いないのです。

 赤いぼうしの子なんて。

 確かにいたのに。

 そもそも、あの子が男の子だったのかも女の子だったのかも分かりません。

 あの子の名前だって、だれも知りません。

 それでもみんなはゆりちゃんがいなくなったとき、あの子を友達だと思っていました。

 急にこわくなってきた九人。まだきょとんとしているゆりちゃんをひっぱって帰っていきました。


 そして、誰も知りません。


 ゆりちゃんの立っていた川の前。その川の中にはには、古くてボロボロになった赤いぼうしが、今もしずんだままになっていることを。



【終】


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