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奇話百厭  作者: 水崎
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1.カーテン


 私の家の近所に、四階立てのマンションがあります。それはそれは古びた小さなマンションです。そこに人の住んでいる気配はなく、数十ある窓は全てカーテンが引かれていて、中を見ることはできません。カーテンの色は赤黒くて、血を連想させます。

 そして不思議なことに、あんなに不気味なマンションの話題を、近所の人は誰も上げないのです。どんなにお喋りなおばさんでも、決して触れることはありません。変な話でしょう?

 それらが重なってか。私はあろうことか、そのマンションに興味を持ってしまったのです。毎日そのマンションを見ながら登校し、毎日そのマンションを見ながら帰宅していたのも、原因の一つでしょう。

 ある日のことです。中学校に上がり、部活に入った私は忙しくなり、帰宅時間が遅くなっていました。多忙になるにつれてそのマンションの存在を忘れつつあった夏の日、私は友達と3人で下校していました。

 暑い夏の日には背筋の凍る怪談を。学校でそれは流行っていて、その日も友達の怪談話を聞きながら家路に入りました。

 そしてふと、思ったのです。

 そういえば、あそこにマンションが。

 友達と別れて、1人になりました。傾きかけた太陽が薄暗く照らす空の下。私は家を目指して歩きます。

 見てはいけない、見てはいけない。――あのマンションを。何故かそう思いました。

 でも、だめでした。何故かは分かりません。せっかく通り過ぎたマンションを、私は振り返ってしまたのです。

 あれ、カーテンの色が違う。誰も住んでいないはずなのに。

 いつも部屋を隠しているカーテンは今日は赤黒くなくて、ベージュでした。あれ、でも――窓の端に赤黒いものが見える。つまり、赤黒いカーテンが窓にまだ残っているのです。

 不思議に思って私は目を凝らしました。

 じーっと、

 じーっと……

 そして。

 私は一目散にその場を逃げ出しました。必死に悲鳴をかみ殺し、無我夢中で足を動かしました。そして家に駆け込むと、不審に思って顔を覗かせた母に泣きつきました。


 あのベージュのモノは、カーテンではありませんでした。窓を覆い尽くすように内側からガラスに張り付いた、無数の手のひらでした。そう。一つだけではありません。あのマンションの、全ての窓を、大きさがばらばらの数え切れない手のひらが覆っていました。


 その日を境に、私はマンションをなるべく視界に入れないように登校しています。

 カーテンは赤黒いようだけれども。



【終】


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