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猫の集会についてのお話

作者: 安西七子

告白する。

あたしは今日の深夜12時ごろ、コンビニ帰りに通りがかった近所の学校のグラウンドで、猫たちの集会を目撃した。

そこでは、猫たちが熱く言葉を交わしてたわ。それも日本語で。

信じられる?にゃーんとか、にゃおとかそういう感じじゃ全然なかったの。

ネイティブ顔負け、バリバリの日本語。

集まってた猫の数は、そうね・・・、20匹はいたわ。

あたしの住んでる地区の猫の半分くらいが集まっていたんじゃないかしら。

野良猫みたいなのもいれば、首輪をつけて毛並みも上品な、明らかに飼われてますって風采の猫もいたわ。

その猫たちが深夜の校庭でもう、がやがやしゃべってるのよ。

あたしはそれを目撃して驚愕したわ。もう、口あんぐり。

でも次の瞬間には、そばにあった電柱の陰にささっと隠れて、フェンス越しに猫の集会の様子を観察し始めたの。

それでわかったんだけど、猫って雄弁ね。なんか感動しちゃった。



例えばこんな会話。

「ねぇ、聞いてよ。わたしね、昨日の夜ついにやってやったの。憎たらしい女飼い主に復讐を。 

 飼い主がぐーぐー寝入っているところを狙ったわ。すごーく簡単だった。

 わたしはただ、爪をシャキンと出して顔の上をタターっと駆けただけですからね。

 そしたらどうなったと思う?

 もう、ギャーーーーー、よ。阿鼻叫喚。

 あの人ったら蒲団の上を跳ねまわって、何かわけのわからないことを喚きながらどこかへ駆けて行ったわ。

 そしてそこでさらなるギャーーーーー、よ。

 きっと鏡を見たんでしょうね。かわいそうに。

 でもね、これはあの人がうけてしかるべき罰なのよ。

 なんたってあの人、毎日わたしにドライ・フードしか与えなかったんだから。

 このつらさがわかる?毎日毎日同じ食事。しかもドライ・フード。

 最悪よ。あの人にいってやりたかったわ。

 もし、あんたの食事が毎日カロリーメイトだったら、どんな気持ちになる?ってね。」


「うん、なるほどなるほど。きみのいうことは正しいよ。おおいに同情するね。

 ・・・ところで、カロリーメイトって何?」


「もう!!野良猫って無知ね。これだから。

 人間界でいう、ドライ・フードよ。おいしくもない、ただ栄養をとるだけのものだわ。

 まぁ結局、そのちょっとした復讐が原因で、わたしはあの人の家から追放されちゃったんだけど。

 でも、後悔はしてないわ。むしろその逆よ。せいせいしたわ。せいせい。

 あんな無神経な飼い主なんてこっちから願い下げだもの。」

 


 あたしはさらに、グラウンドに集まった猫たちのまとめ役らしい猫の演説も耳にした。

「静粛に!静粛に!!

 えー、よく集まってくれた。日本猫族解放戦線の団員諸君。

 今宵も、唾棄すべき人間について語り尽くそうではないか。

 だがその前にひとつ、私の話しを聞いてほしい。猫族が経験した悲劇の歴史についてだ。

 いいか?・・・よし。

 まずは17世紀のヨーロッパ。凄惨な魔女狩りの嵐が吹き荒れていたころのことだ。

 その時代、我々猫族は、人間どもから今のような愛玩動物的な待遇を受けていなかった。

 なぜか?

 それは当時、猫は魔女に仕える動物とみなされていたからだ。我々には魔女のような、なんらかの魔力があると信じられていた。

 するとどうなる?

 当然、魔女と同様に火刑の対象とされる。

 ある時は直接、ある時は袋に入れられ、愛すべき我らの同志達は、赤々と燃え盛る炎の中に投げ込まれた。

 虐殺だ。この時代、それが公然と行われていた。

 許せるか?この唾棄すべき行為を行ったのは、我々が普段接している人間だ。

 そして、猫族の悲劇はここ日本にも存在する。

 まだ、日本が農業主体の国であったころのことだ。

 当時日本は、たびたび飢饉に襲われていた。そのたび、人間どもは食べるものに困った。

 するとどうしたか?

 ・・・食べたのだ。我々を。むしゃむしゃと。

 忘れるな。人間は愚かしい、ご都合主義な生き物だ。今はたまたま我々を可愛がっているが、明日にはどうなるかわからん。

 だから、人間にへつらうな。人間に頼るな。抗え。

 我々は人間から解放され、神聖なる猫族として独立すべきなのだ。」


 

「そうだ!その通りだ!!」周りを取り囲む猫たちの歓声。




 こんな調子で、猫たちの集会はかなりの時間続いた。

 終わったのは、深夜の2時くらいだったかしら。その時間、鳴るはずのないチャイムが鳴ったのよ。

キーンコーンカーンコーンって。

 するとそれが合図だったみたいに猫たちはいっせいにグランドから散っていったわ。

 



 あたしはその後、猫集会の余韻を十二分に残しながら自宅へ帰宅。

 そして、今に至るというわけ。

 蒲団に入っても浮かんでくるのは猫のことばかり。

 猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫。

 猫があんなにおしゃべりだったなんて。(しかも日本語!!)

 そして、人間からの猫解放、独立宣言。

 不思議なこともあるものね。






 ・・・もしかして、あたしの愛猫、モモもそうなのかしら?

 今は、あたしの顔のすぐ横でぐーぐー寝息をたてているけれど。

 ホントは日本語が話せて、あたしや他の人たちからの解放、独立を狙っている?

 狙ってるの?モモ?

 



 あたしの猫に対する思索は深まる。深まる。

 














 

 

 あぁ、今夜、あたしは眠れない。眠れそうにない。


  

 

 

 





 

 

 





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― 新着の感想 ―
[一言] なんか、可愛らしい感じで素敵ですね。 ぼくはすきです。
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