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第一話 僕と彼女と

第一話 本編より少し前の話です。

病院

学校は退屈だ。

高校に入学してからほんの数日、僕はそう考えるようになっていた。学校にいるくらいなら、彼女(・・)と話をしていたほうがずっと楽しい。

そんな風に思いながら、僕はいつものように病室で診察を受けていた。

内科の診察室。消毒液の匂いがかすかに漂う、この場所が居心地がいいと感じる人は医者でもない限りそう多くはないと思う。まあ、僕の場合は居心地がいいというよりも慣れていると言ったほうがいいのかもしれない。

「…それで、どうなんです?」

「ん、取り敢えずは問題ないかな」

僕の問いに、担当医の矢風はそう答えた。

病名は気管支喘息。最初に発作を起こしたのが小学校に上がる前だったので、かれこれ10年以上この病気と付き合っていることになる。

たかが喘息、と侮るなかれ。こいつのせいで、僕は一度死にかけているのだから。

まあ、その一方で彼女(・・)と出会うきっかけにもなったのだから、実に因果なものだ。

「じゃあ、いつもの薬処方しとくから」

「はい。…それと、あの、面会時間、まだ大丈夫ですか?」

「ん…、あと30分くらいかな」

「そうですか…」

30分、あまり時間はないか。

彼女・・に会いに行くのかい?」

「はい、一応、顔くらいは見せておきたいですから」

「そうかい…と、いうか許可はとってあるの?」

…正直なところ、許可はとっていない。だからこそ、矢風に話したのだけど。

「……はあ、これで何度目だい?」

「すみません」

「まあ、構わないけどね。それと彼女・・によろしく」

こういうとき、矢風にはよくお世話になる。尤も、許可をとっておけと言われてしまえばそれまでだけど。

「はい、それでは」

そういって、僕は診察室を後にした。


場所は変わって、彼女・・のいる病室の前。

連絡なしに訪れることは何度もあったが、それでも緊張はするものだ。とはいっても、病室の前で突っ立っているわけにもいかず、覚悟を決めて僕は扉を開けた。

それほど広くはない、少人数用の病室。

開け放たれた窓。

そこにいるのは彼女だけ。

透き通るように蒼い瞳。

風にたなびく銀色の長髪。

「あ…」

彼女・・、最上瑞穂は僕に気がつくと驚いたような、しかし嬉しそうな表情を浮かべた。

「来てくれたんだ、薫君」

「うん、今日は検診があったから、そのついででね」

彼女は僕と同じ高校に通っている。とはいっても昔から体が弱く、入退院を繰り返しているため、入学式から今日まで学校には来ていない。

「そっか…ありがとうね」

「でも、許可取ってないから誰にも言わないでね」

「ふふ、薫君らしいね」

彼女はそう言って笑みを浮かべる。

きれいな、しかしどこか陰のある笑み。

「学校、楽しい?」

「え?」

開け放たれた窓から、風が強く吹き込む。

「私、今週で退院できるんだけどね」

「……」

「楽しい、かな?」

わずかな沈黙。

どう答えるべきか。

「…楽しい、ですよ。友達がいて、授業受けて、部活やって。もう、ほんとに楽しいですよ」

嘘だ。

実際はそんなものじゃない。もっと厳しいものだ。

「そっか」

彼女は短く頷く。

「じゃあ、学校でもよろしくね」

「ええ、…それじゃあ、そろそろ時間なので」

「ん、またね」

「また…」

そう言って、僕はその場を離れた。

振り向くことはなかった。

次回より本編…の予定。

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