第9話「暴かれる嘘」
王宮で、ついに決定的な瞬間が訪れた。
きっかけは、些細な出来事だった。
セレスティアが調合したと称する「万能回復薬」を、第二王子クレイスが服用した。一時的に頭痛が和らいだように感じたが、その夜、王子は激しい嘔吐に襲われた。
「クレイス! しっかりしろ!」
駆けつけた国王の目の前で、王子は蒼白な顔で苦しんでいた。侍医たちが慌てて処置に当たるが、原因が分からない。
「陛下、王子殿下が服用された薬を調べさせてください」
侍医長がセレスティアの「万能回復薬」を持ち帰り、分析した結果は——衝撃的だった。
「陛下。この薬には微量ですが、ハルム草の成分が含まれております」
「ハルム草?」
「興奮作用のある薬草です。少量であれば一時的な高揚感をもたらしますが、継続的に摂取すると胃や肝臓に深刻な損傷を与えます。王子殿下の嘔吐は、これが原因かと」
国王の顔が、怒りで赤黒く染まった。
「セレスティア・オーランドを、今すぐ連れてこい」
大広間に引き出されたセレスティアは、二ヶ月前のリーネの追放劇とは全く違う空気の中に立たされていた。あの日は宰相と令嬢が上座に座り、リーネを見下ろしていた。今日は国王が玉座に座り、セレスティアは広間の中央で膝をつかされている。
「セレスティア・オーランド。お前の聖薬術とやらについて、説明を求める」
「へ、陛下。わたくしの聖薬術は本物です。古代から伝わる——」
「侍医長の検証では、お前の薬に治癒効果は一切確認されなかった。それどころか、有害な成分が含まれていた。王子はお前の薬で体調を崩したのだ」
「そ、そんな! わたくしは何も——あれはただの——」
セレスティアは口を滑らせかけて、慌てて口を閉じた。
だが、遅かった。
「ただの何だ? 言え」
「……」
「ガルドス」
国王が目を向けると、宰相は壁際で石のように固まっていた。
「お前が推挙した聖薬術の使い手は、詐欺師だった。前任の薬師を追放し、この女を据えた結果、騎士団は弱体化し、侍女たちは体調を崩し、王妃は病に臥せり、王子は毒を盛られた。——これだけの失態、言い逃れはできまいな」
「へ、陛下、お慈悲を——」
「お慈悲?」
国王の声が低く響いた。
「二ヶ月前、この大広間でファルト薬師に慈悲をかけてやったのか? 十年仕えた者を、銀貨数枚で追い出しておいて?」
ガルドスも、セレスティアも、返す言葉がなかった。
国王は立ち上がり、宣告した。
「セレスティア・オーランドを宮廷から追放する。聖薬術の詐称、王族への有害物質の投与、これらの罪でオーランド伯爵家には追って処分を下す」
「い、嫌です! お父様! お父様、助けて——!」
セレスティアが叫んだが、広間の隅にいたオーランド伯爵は視線を逸らした。
——沈む船から逃げるのは、貴族の処世術。
実の娘に対してすら、それは例外ではなかった。
「ガルドス宰相は、オーランド家との癒着、職権乱用、宮廷機能の毀損の罪により、宰相の地位を剥奪する。詳細は査問会にて審議する」
「陛下……!」
「それから」
国王は、侍医長を見た。
「ファルト薬師に、今度は余の名で親書を送れ。——命令ではなく、謝罪と、お願いの形でだ。王妃の容態を伝え、一度だけでも診てほしいと」
侍医長が深く頭を下げた。
因果は、巡る。
あの日リーネに向けられた冷たい言葉の一つ一つが、今、それを発した者たちに返ってきていた。




