【8話】リリス
第14代魔王の娘、リリス。
生まれた時から、次の魔王になるために育てられてきた。
――
「おかあさま!みてみて!お外でお花に水をやっている人がいるわ!」
「リリス、お前は魔王になるために、訓練と勉強をしなければならない」
「外を見る暇があったら、魔王になる為の準備をしなさい」
(お母様は毎日”魔王、魔王”ってうるさい…)
「リリスよ」
「これからお前が一人前になるまで、一切外には行かせん」
「早く立派な魔王になり、私を安心させるのだ」
そうして窓は閉ざされ、リリスが外の世界を見ることはなくなった。
ーー数年後
「ガルディムさん!お外では魔族たちはどんな生活をしているの?」
「はい、リリス様」
「魔族たちは人間を滅ぼすために、毎日訓練して生活しています」
「それが我々の生きる理由なのです」
「どうして人間を滅ぼすの?」
「2000年前、人間と魔族は共に共存し、幸せに暮らしていたとされます」
「しかし突然、人間が魔族を悪とみなし、魔王を討ってしまいました」
「それから、魔族と人間は戦争状態になっています」
「200年に一度の勇者選定も、もう間もなく」
「我々は次の大戦に備えなければなりません」
(ガルディムもお母様もそう言うけど…)
(自分の目で見てみないと、分からないわ)
――
15歳になり成人を迎えたリリス。
「リリス、誕生日おめでとう」
「何が欲しい?言ってみろ」
「…お母様、私…外に出てみたいわ!」
少しの沈黙のあと、魔王は静かに口を開いた。
「…そろそろ、お前も知る時が来たのだろう」
「いいだろう。ただし、魔族領を出ることは禁止する」
「いいの?ありがとうお母様!」
リリスは嬉しそうに魔王に抱きついた。
――
城を出たリリスの目に飛び込んできたのは、想像とはまるで違う光景だった。
やせ細った子供や老人の魔族、今にも崩れそうな家、傷だらけの魔族たち。
「嘘でしょ…」
(お母様やガルディムは、平和に暮らしているって…)
「ガルディム!どういうこと!!」
「……申し訳ありません、リリス様。ずっと嘘をついておりました」
「200年前、先代魔王が討たれて以来、魔族は人間に負け続けています」
「じゃあ、あの人たちの傷って…」
「はい、人間の冒険者によるものです」
リリスは分かっていたつもりだった。
だが、目の前の現実は、想像のはるか上を行く惨状だった。
――
その日から、リリスはより一層勉強に励む。
「この本だけじゃ、人間のことが全然分からない!」
(本当はどんな人達なの…?)
(人間の街に行けたらなぁ…)
「何考えてるの、私!今は魔王になるために集中しないと!」
その時――
「待って…なにこれ…」
本棚の隙間に、一冊の本が落ちていた。
「こんなところに本なんて…」
引き抜くと、それは人間の本だった。
王城、エール、冒険者、市場、船――
リリスの知らない世界が、そこには描かれていた。
どれも新鮮で、輝いて見える。
「……そうだ」
「私人間の街に行こう」
「人間を知らないまま、魔王になんてなれないもの」
――
「お母様、私、外で訓練したいの」
「外で訓練すれば、実戦の空気が味わえるでしょう」
「ならガルディムを連れていくといい」
「ありがとうお母様!」
「ガルディム、行くわよ!」
「はい、リリス様」
城の外へ出たリリスは周囲を見回す。
(見張りがいる…このままじゃ逃げられない…)
「……そうだ」
リリスは魔法の本を取り出す。
そこに書かれていたのは――隠蔽の魔法。
静かに詠唱すると、リリスはガルディムさえ気付けないほど姿を消した。
「……あれ、リリス様?」
気づいたときにはもう遅い。
リリスは走る。魔族の死体から剥ぎ取ったマントを羽織り、人間の本を抱え、ひたすら走る。
そして――
高い城壁、人の気配、賑やかな声。
「ここが…人間の国、フォンタステ…」
本でしか知らなかった世界が、目の前に広がる。
(どんな人達がいるのかしら…)
少しの不安と、少しの期待を胸に、リリスは一歩を踏み出した。
こうしてリリスは圭介たちと出会うことになる。




