【7話】魔王城
「おいギルマス!そっちは大丈夫か!」
商業ギルドマスター、ルヴァンが声を張る。その額には汗がにじんでいる。
「おいおい、お前もギルマスだろ?冒険者ギルドマスターと言ってほしいですね」
冒険者ギルドマスター、アーサーは落ち着いた口調で返す。だが視線は真剣そのものだった。
「そんなことはどうでもいい!魔族か?」
ルヴァンは息を詰めるように問う。
「はい。あと数刻でこの街に侵入するかと思われます」
「森には冒険者は向かっているのか?」
「はい。S級冒険者が1人、B級が2人ほどです」
「S級ってアレスか…?あいつはたまたま仲間が死にかけのドラゴンを倒しただけの、運のいいやつだったよな…」
ルヴァンは眉をひそめる。
「そこでです。元冒険者であるお前にも、森で迎え撃ちに行ってほしいのです」
「…あぁ、そういうことなら任せろ」
ルヴァンの声には決意が籠もる。
「私は城に報告に行きます」
アーサーは静かに答えた。
ーー
一方、リリスは街を飛び出し、森へと駆ける。
森の端に立ち止まり、深呼吸する。
(よし…覚悟を決めないと!)
胸の奥がざわつく。何かが動き出す予感がした。
ーー
その瞬間、森の入口に異変が起きた。
何か目に見えぬ力が壁となって立ちはだかる。
S級冒険者アレスをはじめとする冒険者たちは立ち尽くす。
「な、なんだよこれ!」
アレスは魔力障壁を手で確かめ、剣で斬りかかる。
B級の二人も攻撃を試みるが、びくともしない。
苛立ちと焦燥が胸を締め付ける。
その向こうで、魔王の配下の姿が確認される。
リリスはそれを目にし、咄嗟に叫んだ。
「待って!私を探してるんでしょ!私は戻るわ、だからこの街は襲わないで!」
配下の一人が微笑む。
「リリス様、よくぞご無事で…」
魔族たちは静かに頷き、撤退の準備を始める。
リリスは胸を撫で下ろし、森の奥へと向かった。
「あれ…障壁が…消えていく…」
アレスが息をつく。
「魔族はいなくなった」
ルヴァンの声には、わずかな安堵が混じる。
「くそっ…また何もできなかった…」
アレスは拳を握りしめる。
――
魔王城――
「リリスよ」
静かな声が大広間に響く。
「はい、お母様」
リリスは深く頭を下げる。
「何故、城を抜け出した」
「……外の世界を見たかったの」
魔王は黙る。
「私は次の魔王になるって言われてる。でも……」
「魔族のことも、人間のことも、何も知らないまま王になるのが怖かった」
「だから城を出たの」
「そうか。明日から業務と訓練だ。もう寝なさい」
魔王の声は淡々としていた。
その威圧に、リリスは押し潰されそうになり、後ずさる。
だが――
「私、バーテンダーになりたいの」
魔王は首を傾げる。
「バーテンダー?」
「それが何かはまだよく分かってない。でも私にとって大事なの」
声が震える。
「お前の役目は時期魔王と決まっている」
「で、でも!」
魔王は静かに歩み寄る。
「お前がそこまで執着する理由は何だ」
リリスは目を伏せる。
「どれどれ」
魔王が手をかざす。
この男が原因か…
魔王はくくっと笑う。
「お前がこの男に執着する限り、魔王としての業務に集中できぬだろう」
「そこで」
「猶予をやろう」
リリスが顔を上げる。
「…え?」
「一年だ」
「その間に、私を納得させられるだけのことを成し遂げなさい」
魔王はわずかに笑った。
厳しく接してきたが、その瞳には親としての情がにじんでいる。
リリスは拳を握る。
「はい!必ずお母様をギャフンと言わせてみせますわ!」
「それは本人の前で言うことではないだろう」
魔王は俯き、小さく笑った。
リリスは胸の奥で決意を燃やす
(圭介も…街のみんなも…)
(魔族のみんなも…)
(もう…逃げない…!)
リリスは決意した。
その決意の先にあるものが、どれほど重いのか
この時のリリスは、まだ知らなかった。




