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魔王候補のバーテンダー  作者: Lilis_Bar
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【5話】ドワーフの長

城の執務室。


書類の山の前で、一人の騎士が必死に身振り手振りをしていた。


「宰相さん、実は商業ギルドの横の路地に小さな酒場があって、そこで飲めるエールに似たラガーという酒が本当に美味しくて…なので是非宰相さんも一緒に!」


「今ラガーと言ったか?」


宰相のペンが止まった。


「ドワーフの長だけが作れたとされる伝説の酒じゃないか!」


騎士は慌てて頷く。


「いやそれがエールなんてもんとは比べ物にならない酒で、しかもキンキンに冷えてるんです!麦カスも浮いてなくて…」


宰相は軽く咳払いをした。


「こほん…まぁどうせでまかせであろう」


しかし、ほんの少しだけ興味を示した目だった。


「気になるが、私は仕事があってしばらくここを離れられないんだ」


書類をめくりながら言う。


「そうだお前、今日は城に献上品のエールを届けにドワーフの長が来ているではないか。連れて行って真偽を確かめてきてはどうだ?」


「えっ!私がですか?」


「そうだ」


騎士は姿勢を正した。


「はい…分かりました…」


――しばらく後。


城下町へ続く道を、騎士と小柄な老人が歩いていた。


長い髭。

太い腕。

鋭い目。


ドワーフの長だった。


「おい若いの」


低い声が響く。


「そこに行けばラガーがあると本当に言っているんだな?」


騎士は慌てて頷いた。


「は、はい。少なくともエールではなく、エールより美味しい酒があるのは事実です」


ドワーフは黙り込む。


(ラガーは伝説などではない)


(300年前、先代が生涯をかけて作ったラガーをワシは飲んだ)


(あれはエールの数倍…いや数十倍は美味い酒だ)


(それと同等な物がこんな城下町で出てくるだと…)


やがて騎士が立ち止まった。


「ここです」


ドワーフは眉をひそめる。


「商業ギルドの横の路地か?そんなとこに店なんて無かったが」


騎士は扉を開けた。


ガチャ


店内には静かな音楽が流れていた。


カウンターの向こうで、圭介がグラスを拭いている。


リリスもすぐに気づいた。


「ケイスケさん、リリスさんこんにちはー!」


「こんにちは」


圭介が軽く会釈する。


リリスはぱっと笑顔になった。


「騎士さんまたいらしたんですね!」


「今日はお友達ですか?」


騎士は慌てて紹介する。


「ドワーフの長さんです」


リリスの目が丸くなる。


「えっ!?」


「すごい人じゃない!」


ドワーフは腕を組み、鋭い目で圧をかける。


「そんな体裁はいい」


「お前、ラガーがドワーフの秘蔵の酒だと知っててその名前の物を出しているのか」


圭介は落ち着いた声で答える。


「はい。伝説の酒であるとギルドマスターからお聞きしました」


「ではなぜその名を語る…」


「いや飲んだらハッキリするか」


ドワーフは椅子に腰掛けた。


「早くラガーを出すんだ」


「…はい。かしこまりました」


圭介は冷蔵庫を開ける。


取り出したのは、よく冷えたビールジョッキ。


ドワーフの目が鋭く光った。


「待て」


「なんだこの透き通ったガラスは!」


リリスが少し得意げに言う。


「ビールジョッキよ!」


「ビール専用のグラスですよ」


「泡とか香りとかを楽しむためのグラスなんです」


ドワーフは腕を組んだ。


「そこまでこだわるのか…」


(そもそもこの店、見回す限り全てが奇怪だ)


(グラスの精巧さ…そして何故かなっている音楽…)


圭介は静かにビールを注いだ。


黄金色の液体がグラスを満たし、最後に白い泡が乗る。

 

 冷えたジョッキの外側には、うっすらと水滴が浮かんでいた。


「お待たせしました」


「生ビールです」


ドワーフはジョッキを掴む。


グビッ…


グビグビッ…


店内が静まり返った。


やがてドワーフはジョッキを置いた。


「……」


「おい店主」


圭介を見る。


「お前、この酒の作り方を知っているな?」


「すみません、仕入れ先は秘密でして」


「そうか」


ドワーフは立ち上がる。


「今日は帰る」


リリスが慌てる。


「えっ!?もう!?」


「他にもカクテルとか色々あるのよ!?」


ドワーフは振り返った。


そして笑った。


「久しぶりに燃えたわ」


「300年ぶりにな」


リリスはぽかんとする。


ドワーフはジョッキを指差した。


「次に来る時はワシのラガーを持ってくる」


「覚悟しておけ」


「長さん!待ってくださいよ!」


騎士は慌ててドワーフの後を追いかけて店を飛び出していった。

 

ガチャ


扉が閉まる。


しばらく沈黙が流れた。


リリスが小声で言う。


「……なんか怒ってた?」


「ドワーフって怖いわね…」


圭介はグラスを拭きながら答えた。


「いいえ」


「職人の顔でしたよ」


リリスは首をかしげる。


「職人って…」


「お酒作る人ってそんな顔になるの?」


圭介は少しだけ笑った。


「ええ」


「良い酒に出会った時は、だいたいそうなります」


リリスは扉の方を見た。


「じゃあまた来るのね」


圭介は頷く。


「ええ」


「きっと来ますよ」


異世界の小さなバーに、また一つ新しい縁が生まれようとしていた。

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