【4話】異世界BAR開店
「お客さん来ないわね……」
リリスはカウンターに頬杖をついて外を見ていた。
「いつもの事です。バーは基本、待つ商売ですから」
圭介は静かにグラスを磨く。
――3時間後。
「もう待てない!」
リリスは勢いよく立ち上がった。
「ここのお酒、本当に美味しいのに!」
「まぁ……ここ、路地にありますからね」
圭介は苦笑する。
「私、呼び込みしてくる!」
リリスは小走りで外へ飛び出した。
その眩しい笑顔に、圭介は思わず呆れ顔になる。
(バーで呼び込みか……)
――数分後。
ガチャ
扉が開いた。
「ここは酒が飲める店か?外の水色の長い髪の女に呼び止められてな」
鎧を着た男が店内を見回す。
(リリスさん、本当にお客さん呼び込んできたのか……)
騎士はカウンター席に腰を下ろしながら、少し驚いた顔をした。
「珍しい酒が飲めると聞いた。是非それを頼みたい」
「では少しここでは珍しいお酒を」
圭介はシェーカーを手に取る。
氷を入れ、透明な酒を注ぎ、レモンを絞る。
カチン、と蓋を閉める。
シャッ、シャッ、シャッ——
シェイカーを振る音が静かな店内に響いた。
(なんだあれは……)
騎士は思わず身を乗り出す。
(こいつ、酒を振っているのか……?)
圭介はグラスに液体を注ぎ、最後に炭酸を加えた。
「お待たせしました。こちら、ジンフィズです」
透明な泡が静かに弾ける。
「これは……酒なのか?」
「ええ。初めての方でも飲みやすいですよ」
騎士は恐る恐るグラスを口に運ぶ。
ゴクッ。
もう一口。
ゴクッゴクッ。
騎士の目が大きく開いた。
(美味い……!)
(城の酒より美味いんじゃないか……?)
騎士は思わず笑った。
「美味いぞ店主!」
グラスを掲げる。
「さっき何かを振っていたが、あれはどんな酒なんだ?」
「カクテルと言いまして」
圭介は静かに答える。
「お酒にジュースや砂糖などを合わせて作る酒です」
騎士は感心したように頷いた。
(こんな酒が広まれば……酒場の常識が変わるぞ)
(これは宰相さんに報告する必要がありそうだな)
騎士は立ち上がった。
「ありがとう、店主」
硬貨をカウンターに置く。
「次は同僚を連れてまた来る」
「ええ、お待ちしております」
ガチャ
扉が再び開き、リリスが駆け込む。
「あれ、今の人お客さん?」
「はい」
「そうですよ」
リリスは目を輝かせる。
「やったねケイスケ!初めてのお客さんじゃん!」
圭介は小さく笑い、少し呆れたように言った。
「初めてのお客さんは、リリスさんですよ」
「え?」
リリスは一瞬固まるが、胸を張る。
「そ、そうだったわね!私がお客さん第一号だものね!」
(……呼び込みした甲斐はあったか)
店の外では、まだ夕方の風が吹いていた。
小さな異世界のバーは、静かに営業を始めたばかりだった。




