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魔王候補のバーテンダー  作者: Lilis_Bar
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【17話】HOMEの行方

臨時休業の札が、HOMEの扉に掛かっていた。


店の中では、木を削る音と、金属を打つ音が響いている。

 

「グンターさん、ごめんなさい。店の修復まで手伝ってもらっちゃって……」

 

リリスは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「いいんだ。俺にとっても、この店はもう立派な居場所なんだぜ」

 

グンターは豪快に笑い、電球を指差した。


「それにしても、この床や壁……妙な魔力があるな」

「この店の魔力がやけに高いのは、お前さんの力なのか?」


グンターが壁に手を当てながら言った。


リリスは一瞬、言葉を失う。


「……リリスさん。もし、この店があなたの力で動いているのなら、教えてほしいです」


圭介が静かに問いかけた。


リリスは俯いたまま、自分の手を見つめる。


「……私にも、よく分からなくて……。前も、無意識に結界を張っちゃったことがあったみたいで。私……」


グンターの眉がわずかに動いた。


床を指で叩き、電球を見る。


「……いや」


低い声。


「分かるぞ」


空気が止まる。


「この魔力……人間のもんじゃねぇ」


リリスの肩が小さく震えた。


グンターは振り返る。


「お前さん……魔族だな?」


沈黙。


しばらく誰も動かなかった。


やがてリリスが、ゆっくり目を閉じる。


「……ええ」


小さく頷いた。


「もう隠せないと思うから……言うわ」


顔を上げる。


「私は、魔族よ」


静かな空気。


圭介は何も言わずに立っている。


グンターは少しだけ鼻を鳴らした。


「そうだったか」


それだけ言って、また壁を叩く。


リリスが戸惑った声を出す。


「……私の事怖くないの?」


グンターは振り向かないまま答えた。


「お前さんのことは知ってる」


「この店で毎日客の世話して、騒いで、笑ってる嬢ちゃんだ」


ゆっくり振り返る。


「それで十分だろ」


リリスの目が揺れる。


「魔族だろうが何だろうが関係ねぇ」


「気に入った店が壊れた」


腕を組む。


「だったら直す。それだけだ」


リリスの目に涙が浮かぶ。


「グンター……」


「それによ」


グンターは天井を指差した。


「このデンキュウとやら、普通のもんじゃねぇな」


すすで汚れた手で頭を掻く。


「ガラスは繊細だし、中の線は細すぎる。こりゃこの世界の作り方じゃねぇ」


圭介が頷く。


「……はい。以前のものは、私の故郷でも特殊な環境で作られたものです」


「だろうな」


グンターは少し笑った。


「だが、不思議なもんだ。この店、元々どこからも魔力を引いてねぇはずなのに動いてやがる」


圭介はリリスを見る。


リリスは不安そうに手を握っている。


(昨夜の現象……やはり彼女の魔力に反応している)


圭介は決意したように口を開いた。


「……グンターさん。この世界の魔石を使えば、動かせませんか?」


「仕組みさえ整えば、リリスさんの魔力を光に変えられるかもしれません」


グンターの口元がニヤリと歪む。


「いいじゃねぇか」


腰の袋から透明な石を取り出した。


「光を溜める魔石だ。細かく刻んで組めば、お前の国の仕組みにも合わせられる」


圭介が頭を下げる。


「お願いします」


そして床に散らばった破片を見る。


「……それから、的です」


リリスがはっとする。


圭介は破片を拾い上げた。


「今度は、どれだけ魔力を込めて投げても壊れないものを」


グンターが破片を受け取る。


じっと見つめる。


「わかってる」


「壊されたなら、もっと強ぇのを作る」


リリスを見る。


「嬢ちゃん」


「少しだけ魔力を貸せ」


「お前さんの『この店を大事にしたい』って気持ちを、この板に刻む」


リリスの目が見開かれる。


「私の……想い?」


「ああ」


グンターは笑った。


「俺の腕と、お前さんの心で作るんだ」


「最高の的をな」


リリスは強く頷いた。


「……うん。お願い、グンター」


「任せとけ」

 

 

それから三日間。

 

HOMEは臨時休業の札を掲げ、中からは絶え間なく槌音と、時折まばゆい魔力の光が漏れ出した。

 

圭介は、グンターに配線の仕組みを伝え、リリスは言われた通りに素材へ魔力を馴染ませていく。

 

三日目の夕暮れ。

 

新しく作り直されたダーツの的が、壁に取り付けられた。

 

そして。

 

「……リリスさん。スイッチを」

 

圭介が壁のスイッチを指差す。

 

リリスが震える指でそれを押すと――。

 

パッ!

 

天井の魔石電球が、以前よりもずっと柔らかく、しかし力強い光を放った。

 

チカチカとした不安定さはもうない。店全体が、まるでお日様の光に包まれたような、穏やかな温かさに満たされた。

 

「……すごい」

 

リリスが声を弾ませる。

 

「……あぁ、これならいける」

 

圭介は確信した。

 

リリスの正体が何であれ、今この瞬間、彼女とこの店は、この世界の技術と混ざり合い、新しい「HOME」へと進化したのだ。

 

「さぁ、店主。再開の準備だ」

 

グンターは満足げに、新しくなった的を叩いた。

 

「この的はな、悪意を持って投げれば弾き返すが、楽しもうと思って投げれば吸い込むように刺さる。……試してみるか?」

 

「ええ、喜んで」


新しくなった的を見つめるグンター。

店全体が柔らかな光に包まれている。


「いい仕事ができた」


グンターはそう呟いて、静かに笑った。

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