【11話】ダーツ
夜のBARは、いつも通り賑やかだった。
カウンターでは常連の二人が酒を飲みながら言い合いをしている。
「だから、この酒は甘すぎるんだよ」
「男が飲む酒じゃねぇな」
「いつからそんな酒通になったんだ?」
「うるせぇ、これがいいんだろ」
グラスを置く音が少し強くなる。
「なんだ、やるのか?」
「模擬戦で決闘だ!」
腰の剣に手がかかる。
その瞬間だった。
「店内および店の前で剣を振るうのは禁止しています」
カウンターの奥から、圭介が静かに言った。
声は大きくないのに、不思議とよく通る。
二人の動きが止まった。
「……そ、そうか」
「なんか釈然としねぇな」
気まずい沈黙が流れる。
圭介は少し考えるように壁の方へ視線を向けた。
「……でしたら」
「ダーツで決着をつけてみてはどうですか?」
「ダーツ?」
二人が同時に振り向く。
店の壁には丸い的が取り付けられていた。
見慣れない形の遊具だ。
「ほら、あそこにあるやつです」
「気にはなってたが……勝負できるのか?」
「ええ。単純ですが、意外と熱くなりますよ」
圭介は棚から細い矢を一本取り出した。
「この矢を投げて、的に当てて点数を競う遊びです」
軽く構える。
無駄のない動きで腕を振る。
シュッ
矢は真っ直ぐ飛び、中心近くに刺さった。
「おぉ……」
店の奥から拍手が起きる。
「真ん中や、数字の大きいところに当てると高得点です」
「すげぇな……」
その様子を見ていたリリスが横から口を挟む。
「その的ね、最初は圭介の国の数字だったのよ」
少しだけ得意げな顔だ。
「見づらいから、私が依頼して作り直してもらったの」
「へぇ……」
「おもしれぇじゃねぇか」
圭介は矢を三本取り出し、二人に渡す。
「今回は簡単に、一人三回投げて点数を比べましょう」
「分かった」
一投目。
シュッ
矢は大きく外れ、的の外に当たる。
「難しいなこれ」
「投げる時は、狙う場所と腕を一直線に」
「肘を動かさないようにすると安定します」
「なるほど……」
二人が真似をする。
シュッ
今度は的の内側に刺さる。
「おっ、今真っ直ぐ飛んだぞ!」
「よし、続きだ!」
さっきまで剣を抜きかけていたとは思えない。
二人はすっかり夢中になっていた。
その様子を横で見ながら、リリスが言う。
「ケイスケ、ダーツってそんなに難しいの?」
「私がやった時は、全部真ん中に当たったわよ?」
圭介は少し笑う。
「リリスさんは訓練をされていると聞きましたし」
「感覚が鋭いんでしょうね」
「ふーん……」
しばらく眺めてから、リリスがぽつりと言った。
「でも、楽しそうね」
圭介も常連たちを見る。
並んで笑いながら投げている。
「真ん中を狙うだけがダーツじゃないんですよ」
「そうなの?」
「こうやって話しながら遊べるのが一番面白いんです」
リリスは少し目を細めた。
「……喧嘩してたのに、もう仲良くやってる」
「ええ」
「いい遊びでしょ?」
リリスは小さく笑った。
「ねぇ、私たちも後でやりましょう」
「はい、是非」
その時。
「よっしゃ真ん中〜!」
「くそっ、今回はお前の勝ちだな!」
「次は負けねぇ!」
声が大きくなる。
店の空気が少しだけ熱を帯びる。
「終わったみたいですね」
「でもこの感じ……」
「次俺やる!」
「俺もだ!」
「順番は守ってくださいねー!」
リリスが前に出て客をなだめる。
気がつけば、自然と店の中心に立っていた。
常連が笑う。
「これは流行るぞ……」
「おいギルマス、これギルドにも置こうぜ」
腕を組んで見ていたルヴァンが口を開く。
「俺は構わんが……」
圭介を見る。
「どうだ?」
「私は問題ありませんよ」
「よし、決まりだ」
常連たちが喜ぶ。
ルヴァンは小さく笑った。
(賭けにも使えるな……街が賑わう)
次々と矢が投げられる。
笑い声が増える。
その夜の店は、いつもより少しだけ騒がしかった。
そしてこの遊びが城下町に広まり、
ちょっとした騒動を起こすことになるのは――
まだ先の話だった。




