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ゼロノマエ  作者: 鉄粘土
1/1

イチノマエ

気色の悪い雲が空一面に広がっていた。

黒とも紫ともつかないその雲はまるで空そのものが腐り始めているかのようにゆっくりと蠢いている。

空気は重く、風は止まり、世界は異様な静寂に包まれていた。

普通の人間ならば、その空を一目見ただけで目を背け、逃げ出していただろう。

だがその空を見上げている二人の人間がいた。

一人は静かに立ち尽くす人物。

もう一人は、その男を鋭い目で睨みつける男。

「天海寺・■■■■・十郎」は、静まり返った時の中でゆっくりと口を開いた。

十郎「お前は……ここで倒さねばならん」

その声は静かだった。

しかしそこには、揺るぎない決意が込められていた。

その言葉を聞いた男「新星ステラ」は、少しだけ間を置いてから口を開く。

ステラ「貴様は俺の逆鱗に……何度も触れた……」

低く、怒りを押し殺した声だった。

十郎は肩をすくめる。

十郎「それはお前が原因だったろ?」

ステラの眉がぴくりと動いた。

ステラ「俺はただ、あそこの人間共にあるべき人生を歩ませただけだ」

十郎は小さく笑った。

十郎「人の人生を勝手に決める奴が、“あるべき”なんて言葉を使うなよ」

その瞬間、十郎は天に向かって指を掲げた。

パチン。軽く指が鳴る。

次の瞬間、周囲の空間が歪んだ。

夕暮れだった空は、瞬く間に変化する。

雲は消え、

空は暗転し、

無数の星が輝く夜空へと変貌した。

まるで宇宙そのものが地上に降りてきたかのようだった。

ステラ「どういうつもりだ?」

十郎は笑みを浮かべた。

十郎「この技は……一番お前がやられたくない技だろ?」

ステラの表情が変わる。

次の瞬間、殺気が爆発した。

ステラ「……そうか」

ステラはゆっくりと両腕を広げる。

そして、空間をかき混ぜるような動作をし空気が渦巻き始める。

やがて星の光のような粒子が集まり、彼の拳へと集中していった。

両拳は、巨大な星雲に包まれていた。

ステラ「ぶっ殺す」

十郎はその拳を見て思い出す。

十郎「それは確か……コズナックルだっけか?」

ステラの口元が歪む。

ステラ「そうだ!この日のために!」

星雲がさらに膨張し凝縮され強度を上げる。

ステラ「お前を超える為に強化した!」

十郎は楽しそうに笑った。

十郎「それはいい心がけだ!」

その瞬間、十郎の右腕の周囲に、光が集まり始めた。

無数の星が収束し、形を作り始めた。

やがてそれは、無数の星々を纏った巨大な金色の獅子となった。

獅子は咆哮しながら十郎の右腕に絡みつく。

ステラ「お前の力は……」

星雲が爆発的に膨張する。

ステラ「俺がもらってやる!!!!」

十郎「かかってこいよ!!!!」

次の瞬間、二人は同時に地面を蹴った。

轟音。

二つの拳が衝突する。

衝撃波が世界を揺らし辺り一帯は真っ白な光に包まれた。

衝撃は山を崩し、雲を吹き飛ばし、空間すら軋ませる。

二人の熾烈な攻防が始まった。

拳。

蹴り。

衝撃。

星雲と光が乱れ飛び、世界が震える。

その強大なパワーに、空間そのものが悲鳴を上げ始めていた。

十郎は獅子のオーラを解除した。

十郎「やっぱこれにしよ!」

その代わりに脚部に八つのオーラを持つ蛇を絡ませた。

蛇は生き物のようにうねり、十郎の脚を包み込む。

次の瞬間、十郎は消えた。

そして、ステラの視界に現れた瞬間には蹴りが炸裂していた。

ドンッ!!!

一撃。

二撃。

三撃。

蛇の力で強化された脚撃が、嵐のように叩き込まれる。

ステラは防御する暇もなく吹き飛ばされた。

地面を削りながら数百メートル滑る。

ステラ「このぉ!!!!!!」

怒りの咆哮。

ステラは拳の星雲を拡散させた。

星雲は収束し巨大な剣へと変化する。

さらに壁を蹴り、十郎へと突進した。

脚部からは大量の星雲を噴射した。

それはまるで宇宙船のブースターだった。

ステラの速度は一瞬で音速を突破する。

十郎「やはり星雲使いのステラ……!」

剣が振り下ろされる。

しかし目の前にあったのは巨大な鏡の盾だった。

剣がぶつかる。

衝撃が走る。

しかし盾はびくともしない。

ステラは盾を覗き込むと鏡の中が黒く染まった。

どす黒い影が溢れ出す。

影は巨大な手となり、ステラを掴んだ。

そして無造作に投げ飛ばす。

ステラは地面に何度も転がった。

ステラ「無限かよ……!!!!」

十郎「お前より数も応用も勝ってるんだよ!」

ステラは歯を食いしばる。

ステラ「まだまだぁ!!!!!」

夜空に向かい雄叫びを上げると星雲を一気に放出した。

星雲は巨大な龍の形となり、そのままステラの全身を覆った。

鎧となり巨大な鎌となり銃となった。

ステラ「俺にこれを使わせるなんてな」

十郎は興味深そうに眺めた。

十郎「へー!それが星雲の最大の力か!」

ステラ「お前を必ず殺す!」

十郎「そう言われて何もしないバカじゃないんでね!」

十郎は指を鳴らした。

指から放たれた音は虚空を貫くと天が唸りはじめた。

更には大地が裂け空間にヒビが走る。

ステラ「……!」

天からは、この世界の全ての生物達の魂が降り注いだ。

地からは、虚しく死んでいった生物達の怨念が湧き出る。

十郎はそれを全身で受け止めた。

次の瞬間、十郎の体がマゼンタ色に輝き始める。

右腕には金色の獅子。

左腕には生命を癒す大樹の根。

背中には天使の羽。

体内には生物の祈りの力。

十郎の身体はまさに無敵の状態へと成り上がった。

ステラ「お前の全力というわけか!」

十郎は首を振った。

十郎「いや?」

十郎「今使ってる能力数は30個くらいだよ」

ステラ「ナメやがって!!!!!!!!」

ステラは星雲を人型に変えた。

それを崩すとゆっくりと形を変えていった。

すると急速に身体が変化し腕が増えた。

二本。

四本。

六本。

八本。

最終的に十本以上の腕がステラの身体から生えた。

その姿は、もはや人間の形ではない。

生物の進化の系譜から完全に外れた異形だった。

十郎は眉をひそめた。

十郎「化け物かよ」

ステラの口が歪む。

ステラ「どの口が言ってるんだぁクソアマぁ!!!!」

叫びと共に空間が裂けた。

ステラの鎌が振るわれたのだ。

鎌はただの武器ではない。

刃が通った場所の空間そのものを切断する。

ズンッ!!

裂けた空間は一瞬の真空を生み出した。

周囲の空気が猛烈な勢いで吸い込まれる。

十郎の身体もその引力に巻き込まれた。

ステラはその瞬間を待っていた。

複数の腕が同時に銃を構える。

銃口は十郎へ向けられていた。

ステラ「終わりだぁ!俺の妹を取りやがって!!!!」

トリガーが引かれる。

発射されたのは圧縮された星雲弾。

小さな星のような光が無数に飛び出した。

しかし弾丸が到達する直前。

十郎の姿は消えていた。

ステラ「どこだ……?」

弾丸は地面に直撃し、大地が巨大なクレーターとなって崩壊する。

だが、十郎はいない。

ステラは周囲を見渡す。

上。

後ろ。

空。

地面。

どこにもいない。

ステラ「逃げたか……?」

武器を下げた。

その瞬間だった。

地面が、動いた。

ステラの足首を何かが掴んだ。

十郎の腕だった。

十郎は地面の分子の隙間へ潜り込み、完全に存在を隠していたのだ。

ステラ「なっ——」

十郎「油断したな」

次の瞬間、ステラは地面へ叩きつけられた。

ドォンッ!!!

衝撃で大地が割れる。

ステラはすぐに鎌を振り下ろした。

だがその鎌は十郎の右腕に触れ金色の獅子の口に吸い込まれた。

バキィン!!

星雲の鎌が砕け散る。

ステラ「これは星雲の武器だぞ……!!!」

十郎「物理的に壊せないなら」

獅子のオーラが唸る。

十郎「吸えばいい」

ステラが困惑している隙に十郎の拳が叩き込まれた。

一撃。

二撃。

三撃。

四撃。

十郎の左腕、生命の大樹の根がうねりながらステラの身体を拘束する。

逃げ場はない。

十郎は殴る。

殴る。

殴る。

殴る。

一撃ごとに星雲の鎧が砕けていく。

ステラ「ぐっ……!」

星雲の鎧は、宇宙のガスを圧縮した超装甲。

普通の攻撃では傷一つ付かない。

傷が付かないどころか吸収してしまう。

だが十郎の拳は違った。

魂の力。

怨念。

祈り。

生命。

正負の混ざり合った力が、装甲を削り取っていく。

ステラ「くそがぁぁぁ!!!」

ステラは暴れた。

増えた腕が十郎を斬り裂こうとする。

銃弾が放たれる。

鎌が振り下ろされる。

しかし十郎の背中の天使の羽が羽ばたいた。

すると時間がわずかに遅くなった。

十郎の知覚速度が加速しているのだ。

十郎「遅いよ坊や」

攻撃をすべて避ける。

そして、再び拳。

ステラの鎧はみるみる砕けていった。

十郎「さーてと」

十郎はステラの首を掴んだ。

十郎「もう一回封印だ!!!!」

十郎は笑みを浮かべると連撃が始まった。

拳。

蹴り。

衝撃。

十郎の全能力を使った怒涛の攻撃。

ステラは防御する暇もない。

最後に十郎は渾身の蹴りを放った。

ドゴォォォン!!!!

ステラの身体は空へ吹き飛んだ。

上昇ステラの肉体は瞬く間に大気圏を突破し宇宙に投げ出された。

ステラは星雲でブレーキをかけるが止まらない。

止まれない。

星々を越え、地球時間で14日後。

とある星に衝突する。

その星は意思を持つかのように動いた。

星の表面が変形し、鋼鉄の鎖を作り出す。

鎖はステラの体を絡め取る。

足搔いても足搔いても鎖の量が増えて抵抗できなくなった。

そして完全拘束し封印された。

こうして宇宙の果てで新星ステラは封じられたのだった。

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