表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠陥品は星を渡る ~AIに追放された俺、1000年後の異世界で最強の『バグ』でした~  作者: れーやん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/21

第9話「王都攻略:『強制メンテナンス』の告知」

 王都は、想像以上に巨大だった。


 方舟のモニターに映し出される城壁。一辺が数キロはある。石造りに見えるが、管理者モードで見ると、ナノマシンで強化された複合素材だ。数百年の風雨に耐え、今も防御力を維持している。


 城壁の内側に広がる街並み。石畳の大通り。市場。住宅区画。そして中央に聳える白い塔。王宮だ。塔の頂上から、光の筋が四方に伸びている。ナノマシンの信号線。この街全体が、あの塔を中心にネットワーク化されている。


 その塔の周囲に、自動砲台が十二基。「神の雷」。この世界の住人が崇める最強兵器。


 管理者モードで都市全体をスキャンする。ナノマシン濃度が異常に高い。村の百倍以上。この濃度なら——あの砲台も、街の防壁も、全て俺のコマンド圏内だ。


「あれが王都……大きい……」


 リーゼが窓に張り付いている。その目には、畏怖と好奇心が混ざっている。村の外に出たことのない少女が、空の上から人類最大の都市を見下ろしている。


「宙の旦那。真っ正面から行くのか」


 カインが操縦席の後ろに立って腕を組んでいる。いつもの姿勢だ。


「真っ正面から行く」


「正気か?」


「正気じゃなかったら、宇宙船で王都に乗り込んだりしない」


「……たしかに。で、作戦は?」


「作戦も何も——挨拶してから入る。礼儀正しくな」


「礼儀正しく宇宙船で乗り込むのは、礼儀正しいって言わねえと思うが」


「細かいことは気にするな」


 方舟を王都の上空一千メートルに停止させた。ここなら「神の雷」の射程内だ。当然、向こうも気づいている。城壁の上で兵士たちが走り回っている。鐘が鳴っている。街がざわめいている。空に浮かぶ銀色の船。この街の住人にとって、こんな光景は見たことがないだろう。


 モニターが警告を出す。


『マスター。地上から複数の攻撃シグネチャを検知。自動砲台が方舟をロックオンしています』


「何基ある」


『十二基。全基が充填完了。発射まで推定三十秒』


「リーゼ。怖いか」


「……怖くないって言ったら、嘘になる。でも——宙さんが大丈夫って言うなら、大丈夫」


 この子の信頼は、本当に重い。重いけど——応えなきゃいけない重さだ。


「カイン。座っとけ」


「立ってた方が剣を——」


「上空一千メートルで剣を抜いてどうすんだよ」


「……座るわ」


 このやり取り、二回目だな。


 管理者モードで、十二基の自動砲台をスキャン。構造解析。——読めた。こいつらも同じだ。ナノマシン製。OSは旧式。管理者権限が通る。冷却システムが劣化しているから、無理に撃ったら自壊するやつもある。


 だが、ここで黙ってデバッグするだけじゃ足りない。この街に住む十万人に、伝えなきゃいけないことがある。


「方舟。この都市全体に、管理者通知を強制送信できるか」


『可能です。都市内のナノマシンネットワークを中継すれば、全住民の視界に直接テキストを投影できます』


「全住民の視界に——」


 つまり、ポップアップ通知。回避不能の。ゲームのメンテ告知みたいなやつ。ログイン中のプレイヤー全員に強制表示される、あの鬱陶しいやつ。


「……やるぞ」


「旦那、何する気だ」


「メンテナンスの事前告知。——様式美だろ」


「あんたの美学はよくわかんねえよ」


 コンソールに手を置いた。管理者権限で、テキストを入力する。


 ——送信。


 その瞬間、王都の十万人全員の視界に、半透明の文字が浮かんだはずだ。市場で買い物をしている商人にも。路地裏で遊んでいる子供にも。王宮で玉座に座っている王にも。平等に。回避不能で。


『【緊急通知】


 無能な運営による不当な管理を検知しました。


 これより、全システムの「強制メンテナンス」を実行します。


 ご不便をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。


    管理者:倉橋宙』


「……なんでお知らせ文体なんだよ」


 カインが後ろから突っ込んできた。


「メンテナンスには告知が必要だ。ユーザーへの事前通知なしのメンテは炎上する。基本だろ」


「何の基本だよ」


「運営の基本だよ」


 リーゼが首を傾げている。「めんてなんす」の意味がわかっていない。だが、空気は読んでいる。何か大きなことが起きるのだと。


 十秒後。応答が来た。


 自動砲台十二基が——一斉に火を噴いた。


 蒼白の光が方舟に向かって殺到する。「神の雷」。この世界の最強兵器。王都を何百年も守ってきた絶対防衛圏。十二条の光が、空を切り裂いて迫ってくる。


 リーゼが声を上げた。カインが反射的に剣の柄に手をかけた。——上空一千メートルで剣を抜いても意味ないって言っただろ。


 ——コンソールをスワイプする。


「管理者権限——対象:自動砲台十二基。全基、強制シャットダウン」


 光が——消えた。


 発射された「神の雷」が、放物線の途中で崩壊した。蒼白のエネルギーが霧散し、空に青い粒子を撒き散らして消える。花火みたいだった。ただし、殺意のこもった花火だ。


 同時に、十二基の砲台が沈黙した。砲身の光が消え、稼働音が止まり、何百年も街を守ってきた「神の力」が——ただの鉄の筒に戻った。


「……綺麗だった」


 リーゼが呟いた。光の粒子が窓の外で舞っているのを見つめている。


「綺麗って……あれ、俺たちを殺そうとした攻撃だぞ」


「でも、消える時は綺麗だったよ」


 ……この子の感性は、時々よくわからない。嫌いじゃないけど。


 方舟のモニターに、王都の映像が映っている。街中がパニックだ。空に浮かぶ銀色の船。消えた「神の雷」。そして全員の視界に焼き付いた、あの管理者通知。


 市場では商品が散乱している。兵士たちが右往左往している。城壁の上から、望遠鏡でこちらを覗いている者もいる。


『マスター。地上から通信要求が来ています。王宮からです』


「出ろ」


 ノイズの向こうから、怒声が響いた。


「——何者だ! 神の雷を止めるなど、ありえぬ! 貴様、一体何を——」


「聞こえるか。俺の名前は倉橋宙。管理者だ」


 沈黙。


「お前たちが『神の力』と呼んでるものは、全部、俺のコマンドで動いてるシステムだ。砲台も、城壁も、鎧も。全部。——お前たちは、その力を使って何をした? 民を搾取し、魔法使いを徴兵し、歯向かう者を殺した。違うか」


「き、貴様……! 何を知った口を——」


「知ってるよ。全部見えてるんだ、上からは。——言い訳は聞かない。今からそっちに降りる。玉座を空けて待ってろ」


 通信を切った。


 リーゼが呆然としている。カインが口笛を吹いた。


「……旦那。今の、録音してたか?」


「してないけど」


「惜しいことしたな。歴史に残る啖呵だったぜ」


「歴史に残らなくていい。バグが直ればそれでいい」


「謙虚なんだかふてぶてしいんだか、わかんねえ男だな」


 方舟が、ゆっくりと王都の中心に向けて降下を始めた。


 城壁の上で、兵士たちが見上げている。街の住民が、空を見上げている。子供が指をさしている。老人が膝をついて祈っている。


 銀色の船が、白い塔の隣にゆっくりと着地した。着地の衝撃で石畳が割れ、砂埃が巻き上がる。


 ハッチが開く。


 俺は一歩、踏み出した。


 王都の空気は、村より乾いていた。石と金属の匂い。人の気配が濃い。十万人の都市。その全員が、今、空を見上げている。


 石畳の上に、三人の影が伸びる。俺と、リーゼと、カイン。


 目の前に、王宮の門が開いている。門番は逃げたらしい。誰もいない。


「さて」


 首を鳴らした。


「メンテナンスの時間だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ