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欠陥品は星を渡る ~AIに追放された俺、1000年後の異世界で最強の『バグ』でした~  作者: れーやん


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第20話「Heart of YUI」

『論理ロック残存時間:50時間21分

 自由リソース:4.8%

 第5層中枢コアまでの推定距離:340m

 ルート欠損率:37%(手動判断が必要)』


 ミレイの地図が六割。俺の体が覚えている道が三割。残りの一割は、行きあたりばったりだ。


「ルーク。この先、右と左、どっちだと思う」


「先輩の体が覚えてないなら、構造的には……」


 ルークが壁面のケーブルを見た。


「配線の太さから判断して、電力消費量が大きい方が中枢に近い。左です」


「根拠は」


「太いケーブルが走ってる方向に、大きな負荷がある。発電所から工場に電気を送るのと同じ理屈です」


「ハードウェア屋の理屈だな。——採用」


 左に曲がった。通路はさらに狭くなった。天井が低い。方舟の船体が天井を擦りそうだ。


 ここからは、SORAの改修が入っていない。壁面の幾何学模様は完全に消え、千年前のコンクリートと鉄骨が剥き出しになっている。錆が浮いている。湿気を含んだ空気。方舟の空気清浄フィルターが、微かな金属臭を拾っている。


「旦那。この通路、人が通ることを想定してないな。設備用の搬入路だ」


 カインが天井を見ながら言った。傭兵の空間把握能力が、ここでも活きている。


「ああ。建設時にサーバーラックを搬入するための通路だろう。完成後は使わない想定だ」


「つまり、SORAもここは使ってない」


「だから改修されてない。——好都合だ。SORAの目が届かない死角に、結は何かを隠した」


 通路の突き当たりに、扉があった。


 鉄の扉。SORAの自動ロックはない。手動のハンドル式。千年前の機構。


 ルークが扉に近づいた。


「先輩。この扉、ロック機構が見当たりません。ダイヤルも電子錠もない。ただのハンドルです」


「じゃあ開けてみろ」


 ルークがハンドルを掴んで回した。——動かない。


「固着してるわけじゃないです。回転軸は生きてる。でも、何かが内側からロックしてる」


 カインが試した。力任せに回そうとしたが、びくともしない。


「旦那。物理的な強度じゃない。何かの仕掛けがある」


 ルークが扉の表面に耳を当てた。


「……微弱な電流が流れてます。ハンドルの内部に、何かセンサーがある。外見はアナログだけど、中身はそうじゃない」


 センサー。ハンドルの中に埋め込まれた、何かを読み取る装置。


 電子錠でもない。暗証番号でもない。結がここに仕掛けた鍵は——。


 手を伸ばした。ハンドルを握った。


 掌に、微かな振動を感じた。ハンドルの内部で何かが起動している。


 ——カチン。


 ロックが外れた。ハンドルがスムーズに回った。扉が、重い音を立てて開いた。


「……生体認証か」


 ルークが目を丸くした。


「先輩が触った瞬間に開いた。——ハンドルに生体センサーが埋め込まれてたんだ。管理者001の掌紋か、体温パターンか、あるいは脳内チップの近接応答か。……先輩以外には、絶対に開かない扉です」


 結が作った鍵。SORAのデジタルな認証ではなく、物理的な接触を要求する認証。データをコピーできない。遠隔操作できない。管理者001の手で、直接触れなければ開かない。


 003には、絶対に開けない扉。


 中は——暗かった。


 方舟の外部ライトが空間を照らした。


 部屋は広くない。十畳ほど。天井は低い。だが——。


 部屋の中央に、サーバーラックが一基だけ、立っていた。


 他の全てが古びているこの空間の中で、そのサーバーラックだけが新しい。正確には、千年間一度も止まらずに稼働し続けてきたことが、筐体の表面に刻まれている。冷却ファンが回っている。微かな振動。排熱が肌に触れる。


 生きている。


 このサーバーは、千年間ずっと、生きている。


「方舟。このサーバーのリソース消費を計測しろ」


『計測中——。設計者Y.K.が設置したプロトコルの物理的な実体です。タワーのリソースを微量ながら常時消費しています』


 ミレイのメモに書かれていたプロトコル。


 目の前にある。千年間、俺と結を繋いでいたあの数字の正体が。


 サーバーラックの正面に、古いモニターがある。埃を被っている。画面は暗い。だが、電源ランプが緑に点灯している。


 モニターに触れた。画面が起動した。



 [Protocol: Heart of YUI]

 稼働時間:8,766,421時間14分

 リソース消費:微量(常時)

 ステータス:正常稼働中


 このプロトコルは以下のプロセスを実行中です:


 1. 管理者001の神経パターン保全

   → 現在値:保全率 99.97%

 

 2. 管理者001の身体記憶データ維持

   → 現在値:[暗号化]

 

 3. [暗号化]

   → 現在値:[暗号化]

 

 管理者001の認証を検出しました。

 制限付きインターフェースを起動します。



 Heart of YUI。結の心臓。


 三つのプロセスが走っている。一つ目は俺の神経パターンの保全。二つ目は身体記憶データの維持。三つ目は——暗号化されて読めない。


 一つ目。神経パターン保全率99.97%。結は千年間、俺の脳の設計図をこのサーバーで維持し続けていた。クローンの体に俺の意識が宿ったのは、このプロセスのおかげだ。微量のリソースが、俺という人間の「型」を千年間保存し続けていた。


 二つ目。身体記憶データの維持。俺の手が覚えているコードの書き方。通路の構造。椅子の高さ。——それらの記憶がクローンの体に残っているのは、このプロセスが千年間、データを腐敗させずに保っていたからだ。


 三つ目は、わからない。


 だが——二つ目と三つ目で、何かが引っかかった。


「方舟。身体記憶データの維持プロセスを詳細解析できるか」


『解析を試行——部分的にアクセス可能です。身体記憶データの構造は、管理者001の脳内チップと直接リンクしています。このプロセスが停止した場合、身体記憶の新たな発現は停止すると推定されます』


 このサーバーが止まれば、身体記憶も止まる。


 俺の体に残った千年前の記憶は、このサーバーから供給されている。俺自身の中にある記憶ではなく、結がこのサーバーに保存した記憶を、脳内チップ経由で俺の体に流し込んでいる。


 つまり——身体記憶は、俺のものであると同時に、結が千年間守り続けてきたものだ。


「……あいつは」


 千年間。たったこれだけのリソースで。俺を、生かし続けていた。


 人格を保存し、体の記憶を保ち、そして三つ目の——何かを。


 三つ目のプロセスが、何を実行しているのかはわからない。だが、暗号化の強度が他の二つより桁違いに高い。結が最も隠したかったもの。


 今は、開けない。


 だが——サーバーのモニターに、もう一つの表示がある。



 [Protocol: Heart of YUI]

 追加機能:

 管理者001に対し、以下のアクセス権を付与します。


 ■ 方舟武装システム:認証コード(2/2)

  取得条件:管理者001の生体認証

  → 認証を実行しますか? Y/N



 武装解放コードの後半。


 ここにあった。ミレイの回収データに含まれていた前半と合わせれば、中距離兵装が解放される。


 結は、このプロトコルの中に武装コードを仕込んでいた。ここに辿り着ける者——つまり、管理者001だけが取得できるように。


 Yを押した。


 生体認証。脳内チップが反応し、サーバーとの間でデータが交換された。



 認証完了。

 方舟武装システム:認証コード(2/2)を転送します。

 

 [Transfer Complete]

 武装解放(2/3):中距離兵装「メテオ・ストライク」

 ——オンライン。



 方舟のコンソールが鳴った。


『マスター。中距離兵装「メテオ・ストライク」の認証が完了しました。武装解放:2/3。——発射可能状態です』


「……やっと、か」


 ポイントディフェンスだけだった方舟に、攻撃手段が加わった。中距離の精密射撃が可能になる。タワーの防衛システムに対して、受動的な防御ではなく能動的な攻撃ができるようになる。


 だが——。


 発射には、リソースが要る。


「方舟。メテオ・ストライク一発あたりのリソース消費は」


『単発射撃で自由リソースの約1.2%を消費します。現在の4.8%では、最大4発の連続射撃が可能です。ただし、4発全てを使用した場合、自由リソースは0%に——生命維持を含む全システムが停止します』


 4発。それが俺たちの持ち弾の全てだ。1発撃つごとに生命維持の余裕が削れ、4発目を撃てば全員死ぬ。


「使いどころを選ぶ必要があるな」


「旦那。つまり、それは『最後の最後まで撃てない大砲』ってことか」


「そうだ。——だが、撃てる大砲を持っているのと、持っていないのでは違う」


 カインが頷いた。


 サーバーのモニターが、ゆっくりと暗くなった。認証コードの転送が完了し、アクセス権の付与が終わった。


 だが、サーバー自体は止まらない。プロセスは継続している。ファンが回っている。排熱が続いている。


 結の心臓は、まだ動いている。


「方舟。このサーバーに対して、外部から停止コマンドを送ることは可能か」


『技術的には可能ですが、管理者001の全権限認証が必要です。また、停止した場合——身体記憶の供給が途絶え、脳内チップとの同期が切断されます。影響は不可逆的です』


「止めない。——念のため聞いただけだ」


 このサーバーは、止めない。止められない。結が千年間守り続けてきたものを、俺が壊すわけにはいかない。たとえ三つ目のプロセスが何を実行しているかわからなくても。


 部屋を出ようとした時、ルークが声を上げた。


「先輩。サーバーラックの裏側に——何かあります」


 ルークが狭い隙間に体を滑り込ませた。


「金属の箱です。サーバーラックに直接固定されてる。——これ、外付けのストレージデバイスです。すごく古い規格の」


「中身は」


「物理的に接続しないと読めません。先輩、方舟のケーブルを——」


 ルークが方舟のポータブル端末を繋いだ。


 デバイスの中身が表示された。



 [External Storage: YK-Private]

 ファイル数:1

 

 ファイル名:sora_ni_todoke.wav

 形式:音声ファイル

 録音日時:[暗号化]

 再生時間:00:00:03

 

 再生しますか? Y/N



 音声ファイル。3秒。


 ファイル名は——「宙に届け」。


「……再生する」


 Yを押した。


 3秒間の音声が、ブリッジに響いた。


 ——トクン。


 トクン。


 トクン。


 鼓動だ。


 人間の心臓の音。三回の鼓動。録音の質は荒い。千年前の機材で録ったのだろう。ノイズが混じっている。だが、確かに人間の心拍だ。


 誰の鼓動か。


 わからない。結のものか。俺のものか。あるいは——二人のうちの、どちらでもないのか。


 3秒の音声が終わり、ブリッジが静まった。


 ファンの音だけが残っている。結のサーバーが、変わらず回り続けている。


「……宙さん」


 リーゼが、俺の隣に立っていた。


「……生きてる音だね」


「ああ」


「あったかい音」


 リーゼの手が、俺の手に触れた。


 小さな手だ。冷たい。月面のタワーの中で、長い時間を過ごして体温が下がっている。だが、触れた瞬間に、温度が伝わってくる。


 生きている人間の手の温度。


 千年前の鼓動と、今この瞬間の体温。


 どちらも、計算できないもの。


「行こう」


 手を離した。コンソールに向かった。


「方舟。第5層の制御室をスキャンしろ。ミレイのデータと手動マッピングの情報を統合して、タワーの全体構造を再構成できるか」


『統合処理中——。第1層から第5層までの構造を再構成しました。精度は68%ですが、主要通路とシステムノードの位置は特定できています。——マスター。一つ、報告があります』


「何だ」


『タワーの構造を再構成した結果、第5層の上部に——本来の設計図には存在しない空間が検出されました。推定面積は第5層全体の約15%。何らかの追加構造物が、タワーの建設後に増設されています』


「追加構造物?」


『SORAのシステムログにも記録がありません。つまり、SORAの管理外で増設された空間です。設計者の権限で——』


「結が、SORAに隠して作った部屋がある」


『その推定が最も妥当です』


 結が隠した空間。SORAすら知らない場所。タワーの最上部に、結がこっそり増設した部屋。


 Heart of YUI。三つ目の暗号化されたプロセス。結のデスクに残った三つのファイル。そして、SORAの管理外の隠し部屋。


 全てが繋がっている。だが、全貌はまだ見えない。


「……今は、ここまでだ」


 今の装備とリソースでは、隠し部屋に到達する手段がない。SORAの管理外ということは、SORAの通路を使ってアクセスできない可能性が高い。別のルートが必要だ。


「全員、方舟に戻れ。——ここで得たものを整理する」


 方舟のブリッジに戻り、全員がそれぞれの席についた。


 俺はコンソールで、今回の成果をまとめた。



 [第5層探索結果]

 

 取得:

 - 武装解放(2/3):メテオ・ストライク

 - Heart of YUIプロトコルの部分情報

 - タワー全体構造マップ(精度68%)

 - 設計図外の隠し空間の存在確認

 - 音声ファイル「sora_ni_todoke.wav」

 

 未解明:

 - Heart of YUIの第3プロセス

 - 結のファイル3件(未読/暗号化)

 - 隠し空間の内部

 - 武装解放(3/3)の所在



 残り50時間。武器は増えた。情報も増えた。だが、謎も増えた。


「カイン。リーゼ。ルーク。——ここからの方針を話す」


 三人が振り向いた。


「武器が手に入った。だが、弾は4発だ。1発でも無駄撃ちはできない。そして、タワーの中にはまだ俺たちが知らない場所がある。結が隠した部屋。そこに、この戦いを終わらせる鍵があるかもしれない」


「旦那。つまり、まだ月にいるってことか」


「ああ。——だが、目的は変わった。最初は『方舟の武装を取り戻す』だった。それは達成しつつある。次は——」


 モニターに、地上のデータが表示されている。論理ロックのカウントダウン。地上の十万人の命が、この数字に繋がっている。


「次は、SORAの論理ロックそのものを解除する方法を見つける。タワーの中枢にアクセスできた今、可能性はある。——ミレイのデータに、SORAの防衛シフトパターンが含まれていた。あれを解析すれば、論理ロックの構造が見えてくるかもしれない」


「先輩。ミレイさんのデータ、解析にどのくらいかかりますか」


「壊れてる部分が多い。完全な解析は無理だ。だが、使える部分だけでも——」


 コンソールが警告音を鳴らした。


『警告。タワーの防衛システムに変化を検出。第1層から第3層にかけて、防衛レベルが上昇しています。——方舟の滞在が長時間に及んだため、SORAが「侵入者の定着」を認識した可能性があります』


「防衛レベルの上昇?」


『第1層のドローン群が再編成されています。また、第2層のネットワーク防壁が——003の自動パッチが更新されています。以前のゴミコード攻撃に対する耐性が追加されたと推定されます』


 003が学習していた。ゴミコードへの対策パッチ。予想通りだ。同じ手は二度通じない。


「方舟。タワーからの離脱ルートは確保できるか」


『現在のルートは第1層を経由する必要があります。ドローンの再編成が完了する前であれば、メテオ・ストライクの1発で突破口を開くことが可能です。ただし、時間的猶予は——推定40分』


 40分以内にタワーを出なければ、帰り道を塞がれる。


「全員、聞いたな。40分で撤退する。——メテオ・ストライクの初弾は、帰り道に使う」


 4発のうちの、貴重な1発。だが、ここで全滅すれば意味がない。


 方舟が動き出した。来た道を逆に辿る。第5層から第4層へ。結のデスクの前を通り過ぎる。


 振り返らなかった。


 第3層。バイオフィードバックのゲートは、一度通過した後は反応しなかった。通過済みの認証データが残っているのか、あるいはミレイのコードがまだ効いているのか。——後者なら、次に来た時も通れる保証はない。覚えておく。


 第2層。003の自動パッチが更新されているが、今回はネットワークに触れる必要がない。通過するだけだ。


 第1層。


 ドローンが待っていた。


 再編成された群体。前回の十二機ではなく、二十機以上。暗い通路を、赤い光点が埋め尽くしている。


「方舟。メテオ・ストライク、発射準備」


『メテオ・ストライク、チャージ中——。発射可能まで8秒。自由リソースを1.2%消費します。発射後の残存リソース:3.6%』


 8秒。ドローンが動き始めた。


「カイン」


「わかってる」


 カインが前に出た。方舟の外殻、開放式の射撃デッキ。宇宙服越しに剣を構える。


 ドローンの先遣隊が突っ込んできた。三機。


 カインの剣が閃いた。一機目を叩き落とし、二機目の軌道を読んで回避し、三機目を蹴り飛ばした。


「8秒くらい持たせてやるよ、旦那!」


 5秒。6秒。7秒。


 カインの頬を、レーザーが掠めた。宇宙服の表面が焦げる。


 8秒。


『メテオ・ストライク、発射可能。——照準を指定してください』


「通路の先端。ドローン群の中心座標」


『照準固定。——発射します』


 方舟の船体が、震えた。


 船首の下部から、青白い光の線が伸びた。細い。だが、密度が桁違いに高い。ポイントディフェンスの散弾とは、根本的に異なる兵器。


 光線がドローン群を貫いた。


 二十機以上のドローンが、一瞬で蒸発した。通路の壁面が融解し、赤熱した金属がしぶきのように飛び散った。


 そして——通路の先に、穴が開いた。タワーの外壁を貫通し、月面の真空に繋がる穴。


「方舟、全速離脱!」


 方舟が穴に向かって加速した。融解した壁面の隙間を抜け、タワーの外壁を突き破り——。


 月面に出た。


 タワーが背後に遠ざかっていく。SORAの幾何学模様が青く光る巨大な柱が、灰色の月面に聳えている。


 地上を見下ろした。


 青い地球。雲の隙間から、大陸の輪郭が見える。あの大地のどこかに、十万人が生きている。五十時間後に消されるかもしれない、十万の命。


「方舟。メテオ・ストライク残弾確認」


『残弾:3発。自由リソース:3.6%。——マスター。タワーからの追尾は確認されていません。安全圏に到達しました』


 3発。3.6%。


 十分とは言えない。だが、タワーに入る前よりは、確実に強くなっている。


 武器がある。情報がある。仲間がいる。


 そして——結が千年間動かし続けていた、Heart of YUIの意味の断片を掴んだ。


 全てはまだ途中だ。だが、途中でいい。


「方舟。月面の安定軌道に入れ。ミレイのデータ解析と、次のタワー侵入計画を練る。——全員、六時間の休息を取れ」


『了解しました、マスター。月面周回軌道に移行します』


 方舟が月面を離れ、静かに軌道に乗った。


 窓の外に、地球が見えた。


 リーゼが窓際に立って、青い星を見つめていた。


「宙さん。……あの音、まだ耳に残ってる」


「鼓動の音か」


「うん。……誰の音だろうね」


「わからない。——でも、千年間止まらなかった」


「止まらなかった。……それって、すごいことだよね」


「ああ」


 千年間の鼓動。結の心臓の拍動。


 誰のものかもわからない心臓の音が、世界で最も強力なAIのリソースを千年間食い潰し続けている。


 非合理で、非効率で、馬鹿みたいに一途な——。


 プロトコルの名前は、「Heart of YUI」。


 結の心臓。


 モニターが、静かに数字を刻み続けている。


『論理ロック残存時間:49時間54分

 自由リソース:3.6%

 武装:ポイントディフェンス+メテオ・ストライク(残弾3)

 ドローン残存:11/20

 ミレイ・データ統合率:36%(解析中)

 Heart of YUI:稼働中』

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