エピローグ ―1
王が殺された。実行者は、隣国ゼーフェリンク家の刺客であり、彼らとの戦争が予想された。その為、リュディガー新王は国内での団結を求めた。市民を弾圧しようとする諸侯の動きを食い止め、同時に市民たちの声を聴き、貧困を是正する政策を実行した。
ゼーフェリンク家と言う強大な敵に対し、国はまとまり始めた。新王の動きで、貧困は改善され、福祉も行き届き始めた。膨大な軍事費は削られ、国の隅々に行き届き始めたのだ。
そして、半年が経った―
「どうしよう……ソフィア……ゼーフェリンク家は……ゲオルク・ゼーフェリンクは本当に諦めたのだろうか」
新王リュディガーが太ももに顔を乗せ、泣いている。
「大丈夫ですよ……先日、退却が認められたではないですか」
ソフィアは頭を撫で、静かに息を吐いた。ゼーフェリンク家の首魁であるゲオルクが本気で戦争を始めた―ソフィアにとっては大きな誤算だった。
王を暗殺したのは、ゼーフェリンク家が放った刺客だという嘘。共通の敵を作り出すことで、国はまとまり始めた。だが、それは嘘から出た実となった。
国境沿いにゼーフェリンク家の騎士団が現れ、侵攻を始めたのだ。ソフィアは、全てを思惑通りに動かしていた気でいた。しかし、余りにも致命的なミスを犯していたのだ。
ゼーフェリンク家からすれば、アイメルト家が団結して戦争を仕掛けに来ているように思えたのだろう。やられる前にやる、と言う考えになってもおかしくはなかった。ソフィアは、国外の動きまでを読み切れなかったのだ。
自分のミスで、再び仲間が死んでしまうかもしれない―そんな恐怖が背中に貼りついて離れなかった。数日前、ソフィアは、視察の為、戦場に訪れた。
ダーヴィットが〈祝福〉を使い、善戦している、とは聞いていた。
「業火様は自身も巻き込まれながら、敵を焼き尽くしました」騎士が戦場を案内しながら言う。
「負傷したのか?」
ソフィアの問いに、騎士は表情に陰りを見せ、
「爆炎に飲み込まれ腕の一部を損傷したとか……ですが、それよりも……」
「それよりも……なんだ?」
「大量に人を殺したことによって、強い罪悪感に駆られているようです。王妃様から言葉をかけてあげて頂けないでしょうか。そうしないと、彼は……」
「分かった」ソフィアは頷き、戦地へ向かう。そこには予想を超える光景が広がっていた。
ソフィアは、呆けたように口を開けた。焼野原の中、何十と言う死体が焼け、転がっていた。草木が蒸発し、鎧が溶け、人は炭の塊になっていた。死体の焼ける嫌な臭いが、野原を包んでいる。死体は、全てゼーフェリンク家のものだ。彼らは一瞬でクレーターの中に焼きつけられた。
アイメルト家側は、最小の犠牲しかでなかった。
これが〈祝福〉―
腹の底から震えがこみあげてくる―身が凍るほどの恐怖と、強い安堵。それはかつて、カールハインツ・アイメルトが感じたもの。
これで、私に逆らう者は全て、薙ぎ払うことができる―ソフィアは、自分の中に溢れる感情を否定しようとする。しかし、抑えることができない。
目の前に広がる地獄、それを見て、ソフィアは乾いた笑いを発しながら泣いた。
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