異能共よ、我が刃の錆となれ
数分という制限の中、ソフィアは、ジーモンとの面会を許された。
ソフィアの護衛として、ティモが背後に控えている。
ジーモンは〈影泳〉の情報を読み、
「祖国から兵を借りられることは分かったし、情報もあるなら、こちらにも利はある。だがな、王妃になれば、この国の業を背負うことになる。それでもやるのか」
ソフィアは頷く。ジーモンはそれを睨み、
「前王太子の死、あれは《第壱位階》の暴走事故によるものだった、と言ったら信じるか」
「どういうこと?」
「あれは国力の低下を嘆いた前王太子が、断片を分割し、国力を高めようとして起きたことだ。断片は暴走し、炸裂した。それにより、前王太子を含む多くの騎士が一瞬で死亡し、南側の森は永遠に汚染された」
ソフィアは言葉を失い、額に指を当てる。
「じゃ……じゃあ、王家が崇拝していたのは」
「神じゃない。《第壱位階》そのものだよ」
邪神崇拝―異端中の異端。教会が許すわけがない。
しかし、穢れた真実をほじくり返しても仕方がない。ソフィアは頭を切り替え、
「崇拝していたのは置いておいて、断片はもう存在しないの?」
「断片が再生したのが不死者という可能性もある。だが、実際問題、事故で爆散し、森へ散らばった断片が2年も残っているとは思えない」
ソフィアは黙り込み、ジーモンを睨みつける。
「もし、エアハルトを殺せば、この国を守れる異能者は居なくなるぞ。それに不死者を焼けば《第壱位階》が失われるかもしれない。それでもやるのか」
「現状では〈光撃〉が国境沿いを守っている。この戦の混乱が終わったら、ダーヴィットにも行ってもらう。それに、異能者だけで国を守るつもりはない。異能の研究に当てられていた資金を、福祉と、騎士の教育に回す。適切な訓練を行えば、強力な戦力になりうる。
ジーモンは鼻で笑い、
「〈祝福〉の研究をしないつもりじゃあるまいな。〈第弐位階〉がたびたび襲撃するんだぞ。そのメカニズムを明かさずに、ここを治めるのは無理だ」
「〈祝福〉の研究を行わない訳ではない。比重を下げるだけ」
「お前は〈祝福〉を生み出しているのが《第壱位階》の断片だと理解した上で言っているのか? もし明るみに出れば、教会やアイメルトの分家に殺されるぞ」
〈祝福〉の真実が知れれば、私は異端として裁かれるだろう。
「それに、お前が王妃になったとして、反乱分子が現れないとも限らない。完璧な政治を行う自信はあるのか?」
ソフィアは言葉を失い、歯噛みする。
「反乱分子が過激化したら、〈祝福〉を弾圧の道具に使うのか? それじゃあ、カールハインツ大公と変わらんぞ」
「私は、弾圧に異能を使う気はない」ソフィアは必死に抵抗する。
「では、自分が悪政をしたとして、市民に焼かれる気はあるのか?」
あります、と言う声が小さくなる。
「本当に必要な状況……例えば、自分が抑えの効かない暴君になったら、お前はダーヴィットに自分を焼き殺せと命じられるか?」
ジーモンは獰猛に笑い、「ここまで言っても、戦いを始めようと言うのか?」
ソフィアは考える。王を好き放題させれば、国は更に傾くはずだ。ブブのような不幸な者がまた生まれてしまう。不死という大きな力を、王が制御できるとは思えなかった。
私がここで何もしなければ、みんな死んでしまう。自身を犠牲にする覚悟を持たなければ、ならない。
「できます」ソフィアは、裾をめくり、腕を大きく露出させ、
「必要とあれば、ダーヴィットに、この身を焼かせます。何度でも」
ジーモンは、ソフィアの腕に刻まれた火傷を見て、言葉を失う。
「お前……本気で―」ジーモンは喉を詰まらせたように咳き込み、
「―異能者を殺し、国を取るつもりなのか」
「現状の最善策を選ぶつもりです。つまり、私の考えは変わりません―」
ソフィアは表情を崩さず、冷徹に、
「―立ちはだかる異能は全て、我が刃の錆にするまで」
炎が散り、ソフィアの影が大きく弾ける。ジーモンは僅かに気圧されたようで、汗を拭き、
「だ、だが……エアハルトに挑むのは危険すぎる」
「案はあります」
「ソフィアを見捨てれば、我々は手を切る。ヘス、ダーヴィットもそう言っている」ティモが言う。
ジーモンは呻き、
「分かった。エアハルトを殺したら、狼煙を上げろ。そうしたら、傭兵を率い、大聖堂に襲撃を掛け、不死者を奪う」
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