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再起 ー1

 大聖堂のある街へ進む。見張りの衛兵が4人、四方を囲んでいた。


 ソフィアの心の中に、恐怖が広がっていく。よろよろとした足取りで進む。ふと、道端に花が見える。それはダーヴィットが言っていた香草だった。


 明らかに不自然な所に置いてある。ソフィアは、ダーヴィットが危険を冒して近くに居ることを悟る。しかし、それを拾い上げることができない。


 街を進んでいると人混みが見えた。ちらりと見ると、木の台の上に、何人かの男が立っている。その首には縄が巻きつけられ、頭上の器具に繋がれていた。


 ソフィアは、その一人に見覚えがあった。貧民街で部屋を貸してくれていた家族の父親だった。


 ふと、男と目が合う。男が唇を動かす。


 娘を頼む―


 ソフィアは、息を飲み、目を伏せてしまう。その瞬間、機具が跳ねあがる音がし、男達の首が吊られる。


 ソフィアは、こみ上げる嗚咽を殺し、進んでいく。何とか街の中心部、大聖堂へと着く。


 大聖堂の一室、尖塔の一つに招かれる。豪華な部屋だった。寝具が揺れ、エアハルトが起き上がる。翼が開き、微風が生まれる。


「やぁ、急に呼び出して悪かったね」


 エアハルトが顔を出し、ソフィアを見下ろす。


 ふと、蠅が、ぶんぶんと音を立て、エアハルトに近づく。しかし、ばちっ、と音をたて、虫は潰れた。その血さえ、エアハルトには届かない。凶暴な聖なる守り。指で触れれば、腕が跳ぶような威圧感。


 ソフィアの周囲を衛兵が囲み、その剣を抜いた。鈍色の光が、ソフィアの顔を照らす。

 

 少しでも動けば殺される、という本能的な直感。微風が首筋を撫でる―死をもたらす風だ。


 ひゅん、と音を立て、小さい袋が落ちてくる。黒ずんだ汚れの袋だ。それはかしゃ、と音を立て、地面に落ちた。


「男は全てを吐いた。市民運動家も次々と捕らえられ始めている。すまなかったね、疑ってしまって」 エアハルトが朗らかな笑みを浮かべる。


 袋から黒い液体が漏れている。ソフィアはそれに手を伸ばしかけ、震える。恐怖で視界が揺れる。口から情けない悲鳴が漏れた。


 袋から、鉄錆の強い匂いがする。ブブの苦痛、恐怖、絶望の匂いがする。


「疑われる私にも責任はあります……なので、この汚物は、私が処分いたします」 ソフィアは袋を手に取り、震えた。必死にこらえるが、嗚咽が漏れる。


「疑いを生んでしまい、申し訳ありません。どんな処罰も受けます」


「良いんだ。気にするな。私に協力できることがあれば、何でも行っておくれ」 そう言って、エアハルトは申し訳なさそうに微笑む。


「ああ、それと、王宮の者に、君に対する態度を改めように命じておいたよ。また何かあれば言ってくれ」


「ありがたきお言葉……」


 ここで何もしなければ、穏やかな生活が待っている。エアハルトへの恐怖におびえながらも、一定水準の生活は保障されるのだ。だが、市民運動は完全に鎮火する。それでも、私は生きていける。また屈辱に耐え、生きていくのだ。


 本当にそれで良いのか―


 ソフィアの脳裏に、みんなと食べたパンの味が思い出される。ダーヴィットの香草の匂いが思い出される。立場は違うが、我々は仲間だった。


 娘を頼む―


 男の声が聞こえた気がした。


 戦えるのは、私しかいない―ソフィアは無音で呟く。目的ではなく、手段として王を殺すのだ。


 ソフィアの身体は、恐怖とは別の震えが支配していた。


「申し訳ありません……」 ソフィアは頭を垂れ、少しだけ速足で、エアハルトから去っていく。


 そして、道端の香草を拾い、匂いを袋に付ける。そして、よろよろと歩き出す。


 呼吸を整え、頭に冷たい空気を送る。ジーモンを納得させ、王殺しを手伝わせなければならない。その為にエアハルトを殺す、そのためにはどうすれば良いか。


 ソフィアは歩きながら、街に居る衛兵たちの配置を覚える。殺意が、記憶力を飛躍させる。隠れている者の気配まで感知する。


 そして、部屋に戻り、記憶の全てを紙に書き写した。

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