第壱位階(ヒエラルキア・ザ・ワン) ー2
【1】
《第壱位階》との意思疎通、と言う単語を聞き、ダーヴィットは思わず、訊き返してしまう。
「おっしゃる意味が……分からないのですが」
それもそうだろう、とエアハルトは頷き、
「唐突だが、君は植物に知性があると思うかい?」
ダーヴィットは首を振る。
「植物は下等なものだ、と私も思っていた。神が作られた序列の中の最下層だと。だが、氷華伯の娘の〈祝福〉がそれを覆した」
「と……言いますと」
「彼女は植物と意思疎通ができた。正確に言えば彼女は、我々が音を聞き、味や痛みを感じるかのように植物の放つ言葉のような物を知覚できた。
彼女は、植物の持つ認識能力の広さを語っていた。初めは狂っていると思われていたが、どうやらそうではないらしいと分かり始めた。外敵を認識し、毒を分泌し、根を共有する他の茎と情報を共有する……」
エアハルトが語ったのは、信じがたい内容であった。植物は、外界を認識し、その範囲はヒトの認識能力を大きく超えているというのだ。
「植物にも知能があるのだとしたら、その形はヒトとは大きく異なるだろう。言い換えれば、異種の知性体と言ってもいい。彼らと意思疎通を行い、その能力を利用できるようにしたいと私は考えている」
「すいません……私の理解力が足らず、何をおっしゃりたいか……」
「《第壱位階》は異界から堕ちてきた。つまり、異種知性体だ。植物よりも、さらに異なる形の。つまり、我々は《第壱位階》と意思疎通を行うべく、その前段階として植物との意思疎通を計画しているのだ」
ダーヴィットは口を開け、呻く。狂っている、と口にしそうになるのを止める。
「狂っている、と思うかい?」
「いいえ……」ダーヴィットは慌てて首を振る。
「鉄妖と我々が呼んでいるのは、河川から取れる泥が〈祝福〉の影響を受けた物だ。おそらく泥の内部に居る生物が変異したのだろう。眼に見えない生物がね。それに対し、特殊な薬を用い、操っている。これと何が違うというんだい?」
ダーヴィットと、エアハルトの視線がぶつかる。
「君や、氷菓伯も同じだ。意識できないとは言え、炎や氷を生み出す何かと意思疎通を行っているという訳だ」
「私は何も感じませんし、完全に制御もできない」
「制御できるようにするんだ。私と来なさい」
早くみんなに知らせないと―ダーヴィットの胸の鼓動は速まっていた。
【2】
ソフィアは、布団の中で、会合の事を思い出していた。
会合では、政治的な話し合いが行われる事も多くあった。
例えば「ジーモンら官僚は、王を暗殺した後、民意が反映されるような政治を行うのか」と言うような事が話された。
王が暗殺されるだけだと、今よりマシにはなるが、中央集権的な性格は簡単には変わらないだろう、と言うのが大多数の意見であった。圧政を無くし、民意を反映させるには、官僚らをコントロールするための何らかの方法が必要だった。
ソフィアは、頭の悩ませながらも、小さく微笑む。
この手の議論に参加するのは、ヘス神父やダーヴィットだけではない。隠れ家の一つである民家の娘であるフィーネや、その母親、ティモや他の若い従騎士。次の世代の多くが意見を出し、知識を深めていた。
誰もが、この国をより良くしたいという意思があった。彼らの為に、この国を良くしたい。ソフィアは、拳を握りしめた。
しかし、多くの不安材料もあった。麦角中毒について、農民の老婆に話を聞くなかで、キノコや薬物を使い、我を忘れて狂ったように戦う者について知った。ソフィアは、老婆が紙に描いた絵を見て、震えた。
狼の皮を被った狂戦士、その姿を見て、ソフィアの脳裏によぎったのは、エアハルトの姿だった。羽根が生えたヒトが居るのなら、なぜ鳥の顔のヒトは居ないのか、と言う純粋な疑問が、ソフィアの中でグロテスクに肥大化していった。
老婆は、麦角中毒の説明をする中で、それらが堕胎を引き起こすことを話した。そして、堕胎で思い出したのか、老婆は、異形の赤子が生まれ、それを王家が処分したという話をした。
異能者―彼らは堕天使である《第壱位階》を討伐するために、神から〈祝福〉を受けた戦士たちなのだ。生物の序列の中で、高位である彼らの姿は神に近い、つまり美しくあって当然なのだ。
本当にそうなのか―
異能者の姿が美しい、もしくは聖人として崇められる存在であるからこそ、この国は成り立っていたとしたら?
まさかね。ソフィアは、思いついた結論を飲み込む。
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