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契約 ー2

 付いてこい、とだけダーヴィットは言った。そのまま路地裏を進んでいく。


 ソフィアは気圧けおされたが、


「深夜までに城に帰らなければ、人が探しに来る。それに私の身体に付けられた薬は特殊な臭いを発している。犬がこれを辿れば、あなた達にたどり着く」


 ハッタリだった。だが、これで誘拐や暗殺に備えられる。


「そんなことはしない」ダーヴィットは特に反応せず、淡々と歩みを進める。


 ソフィアは、ダーヴィットに着いて行く。そこは、北側にある街で、寂れていた。


 市民運動を利用し、王を殺す。それだけが私の生きる道だ。ソフィアの中で、思いは強くなっていた。


 ソフィアは王宮内に情報網を築いていた。市民たちに対しても同じように接するつもりだった。


 まず情報を取得できる立場であり、かつ懐柔させられる人物を選びだすのだ。人には、口が軽くなってしまう要因がいくつかある。それは、物欲、性欲、罪悪感、虚栄心……個々人にある、それらを見極め、それを利用するのだ。


 また、ソフィア自身を信頼させることも忘れない。王宮内でやっていたのは、侍女を庇い、恩を着せる。従者のミスをこっそりと指摘し、窮地を救う。そうやって、「この人物は信頼できる」と刷り込ませる。


 戦地での活躍により、従騎士を味方につけるのも欠かさない。第三者の意見は、すんなりと受け入れてしまうものだ。


 そうやって手に入れた人物に対し、「私は王宮内で、全く信頼されておらず、発言に耳を貸されない」という事と、口の堅さを刷り込んできたのだ。そうやって、ソフィアは自身の情報網を作り出し、情報を収集していた。


 市民たちもそうすれば良い。王を殺す為なら、彼らを利用してやる―


 何の変哲もない民家に着く。そこに入ると、家族だろう、男が1人、女が2人いた。


「ハーイ、ダーヴィッ……」


 娘なのだろう、少女がソフィアを見て、声を枯らす。父親が咄嗟に娘を自身の後ろにやり、


「誰だ、そいつは」父親は、震える娘を背に、棍棒を手に取る。


「俺の客だ。ヘスに連絡は行っているはずだ」ダーヴィットは表情を変えず、言う。


「行くぞ」ダーヴィットはそう言い、ソフィアを二階へと招く。


 ソフィアが部屋を歩く間、父親は警戒を、母親からは侮蔑を、娘からは強い恐怖を感じた。部屋に入ると、四人の男が居た。中でもひときわ巨漢の男がソフィアを見る。強面に、髭が生えている。


「貴方がリーダーのヘス神父ですか」


 ヘス神父は頷く。その眼には油断も隙も無い。この男が、市民をまとめ上げ、王家を打倒しようとする者たちの首魁である。神父、というのもあだ名に過ぎない。


 扉が静かに閉められ、付けられている鈴が揺れた。ソフィアは、その鈴に紐が付けられ、外に出ているのを見つけた。


 おそらく、外に衛兵が居る。そして、鉄妖か、それとも他の仕掛けで、敵の襲撃をいち早く察知できるようになっている。


 ダーヴィットに促され、ソフィアは椅子を引く―が座らない。彼らはまだ完全に信用できないのだ。


 テーブルには、ヘス神父の他、2人の男が座っていた。ダーヴィットは窓から離れた場所で、椅子には座らずに、入口を見つめていた。その手は、腰の短剣にそえられている。その呼吸は一定で、瞬きは極端に少ない。


「それで、考えを聞こう」ヘス神父はゆったりとした口調で言う。


 ソフィアは、ヘス神父を見据え、


「不死の〈祝福〉を持った者が見つかったのはご存じですか」


 ブラフを掛ける―真実だという確信はなかったが、ヘス神父の反応が見たかった。


「〈第弐位階〉の腹から出てきた、というのは聞いている」


 ソフィアは、動揺を隠すべく、呼吸を規則的にする。


 ―やはり、あれは事実だった。


「王は、不死者の身体を調べ、〈祝福〉を得るべく動いている。違いますか」ソフィアは疑問形で尋ねる。


「我々も調査を進めている。最近、人さらいが何件か起きている。調査をしたところ、かなりの額を積まれ、傭兵が動いていることが分かった」


 ソフィアは拳を強く握り締めた。


 ―不老不死を得るべく、罪のない者を実験に使う。暴虐の君主だ。


「で、ソフィア殿下は何がしたいのだ?」


 ヘス神父の声に、周りの男達は、いやらしい笑みを浮かべる。ダーヴィットだけが唇を強く結び、無言を貫いていた。


「王を殺す」


 ソフィアの言葉に、皆が息を飲む。しかし、誰かが吹き出したのを皮切りに、皆が嘲笑を始める。


「最後まで聞きなさい」ソフィアは、鋭い眼で、市民を見回し、


「私が行おうとしているのは、暴動を伴った反乱ではない。他国で何度か起きた、大規模な農民による反乱―あれは失敗すれば、大勢の人の命が失われる。それは噂に聞いているはず」


 笑っていた市民も、話を真剣に聞き始めていた。


「じゃ……じゃあ、どうするというんだ」


ソフィアは息を吸い込み、


「小規模な部隊で、王を暗殺。暗殺を行った一部過激派組織は壊滅した、という事にし、諸侯による市民への弾圧を防ぐ。その後、私が新王を操り、この国を変えていく。重税に始まる政策の一部を変え、市民への弾圧を弱める。弾圧を求める貴族には―」


「信じられるか! テメェの話なんて」奥に居る若い男が言う。


「私を信じるか、首をくくられるか、二つに一つ」


 若い男は黙り、代わりに別の者が、


「どうやって、王を暗殺する。王の居住区は重装備の騎士が大勢いるんだぞ」


「不死者を盗み、王をおびき出す。そこを殺す。あなた達に協力してほしい」


「無理だ。騎士団の異能者どもに敵う訳がない」ヘス神父が言う。


 ソフィアは、周りの男たちを睨み、


「無理じゃない。不死者を盗む前に、何人か異能者を暗殺する。王をおびき寄せるのは防壁の外にある森にする。遊撃戦なら、少数でも勝ち目はある」


 市民たちが、またひそひそと言葉を交わし始める。そこには嘲笑はない。本当にできるかを本気で討論しているのだ。


奥に座っていた若者が立ちあがり、ソフィアに接近。巨躯がソフィアの前に立ちふさがり、その襟をつかみ上げる。


「おい、テメェ……姫様だからって、おれ達をこき使えると思うなよ」


 足が地面から離れそうになり、ソフィアは微かに呻く。


「ティモ、辞めろ」ダーヴィットが冷徹に言う。


「冗談や酔狂なら……ここにはいない」ソフィアはそう言い、ティモを睥睨する。


 ティモはその雰囲気に気おされたようで、襟を離す。ソフィアは咳をし、ヘス神父を睨む。


「本気で異能者を殺せると思っているのか?」


「寝込みを襲えば勝機はある」


「王を森に誘い出せるという根拠は?」


「王の〈祝福〉への執着はあなた方も分かっているはず。異能者が殺され、数を減らしている状況を作り、かつ不死者が盗まれたとすれば、王は焦り、冷静な判断を下せなくなると思う。彼は自ら森へ来る」


「森での戦闘に使える騎士が少なすぎる」


「あなた方なら、王への反逆心を持つ、貴族の一人や二人と繋がりがあるはずだ。彼らに協力を仰いでもらいたい」


 ヘス神父が息を飲み、


「面白いことを言うな……異能者の暗殺、不死者の襲撃、森での戦闘……それらを全て思惑通りに行かせるのは非常に困難だぞ」


「それでもやるしかない。この機を逃せば、不死の暴君が生まれるだけ」


 ソフィアの声に皆がうつむき、


「俺は賛成だ」ダーヴィットが初めて声を上げる。


 ヘス神父は咳ばらいをすると、


「条件がある。王を殺した後、リュディガー王太子を傀儡とした政権を維持していくために協力することだ。それが貴女の役割だ」


 ソフィアは頷き、


「契約、成立ね」そう言い、微笑んで見せる。


「座っても?」ソフィアは言い、椅子を指差す。ヘス神父が勧め、ソフィアは椅子に座る。その瞬間、脚が震え、手は抑えないといけないほどに痙攣し始めた。


 何とか上手くいった―


 ソフィアは何気ない仕草で、額から流れ出る脂汗を拭く。全身から冷たい汗が滲み出て、心臓は激しく鼓動していた。

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