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契約 ー1

 ソフィアは外套を着て、髪をまとめ、街に降りていた。化粧で顔を汚し、目立たぬように貧民街へ向かう。ブブに助けられて以来、たまに貧民街に降りては、世話をしていた。


 ソフィアは、貧民街で、男と遭遇したのを思い出していた。ブブに会いに来たのか分からないが、非常に動揺していたのを覚えている。


 まさか、この前、男と遭遇した一件と、この件は繋がっているのか―ソフィアの脳裏で事柄が繋がっていく。


 夕闇の中、貧民街に入る。目立たぬ格好をしてきたつもりだったが、予想以上に住民たちは薄汚れている。〈第弐位階〉の襲撃で、生活がさらに苦しくなっているのだろう。


 追い込まれた人が何をするか、ソフィアは分からない。全員が敵かもしれない。ソフィアは懐にある短剣に込める力を強める。


 路地裏を進み、約束の場所に付く。そこには3人の男と、何も事情を知らない表情のブブ。男はあの時と同じ覆面を被っている。


ソフィアは紙を掲げ、「約束の情報は持って来た。その子を開放しなさい」


「情報が先だ。投げろ」


 ソフィアは紙の束を投げ、男が受け取る。そして、一人がそれを確認する。


「確認できた。良いぞ」男は頷き、ブブを押しやる。ブブは困惑しながらソフィアの元へ来る。


 ソフィアは少年を抱きしめ、その身体に傷がないか確認する。


「痛いことをされてない?」


「おお……ああ、うん」ブブは困惑し、ソフィアを見、男たちを見た。


 男の一人が、


「情報の出どころは少ない。お前が漏らしたことはすぐに分かるぞ。俺たちは一蓮托生だ。これからも情報を持ってこい」


 男たちは路地裏に消えようとする。闇が夕日を包んでいく。


 ソフィアの脳裏にある言葉が思い浮かぶ。


『やり過ぎました。申し訳ありません』『あんた……なぜ、ここに』


 奇妙に聞き覚えのある声、火傷を見て、私に驚いた理由―


 ソフィアは男の正体に目星を付けていた。


「貴方の正体、私にはわかる」


「何?」男は振り返る。


 ソフィアは男に対し、様々な違和感を覚えていた。


 洗練された潜入技術、夜盗ならあるはずの獣臭い体臭のなさ、城周辺の地理に対する知識。


「あなた〈業火〉のダーヴィットでしょ」


「な……!」男は明らかに慌て、ソフィアに詰め寄る。しかし、ソフィアの手には短剣。それが喉元に突きつけられる。


 男は手を挙げ、マスクを脱ぎ捨てる。そこには野性的な若い男―ブブの所で出会った男と同じ顔。


 ダーヴィットはソフィアを睨みつけ、「何が望みだ」


 ソフィアは、呼吸を整え、組み立ててきたシナリオを思い浮かべる。ダーヴィットたちが、市民運動家か、それとも隣国のスパイなのかは分からない。どちらにせよ、上手く自分を売り込み、彼らの組織に入り込み、王の暗殺を扇動してやるだけだ。


「渡した情報を使って何をするつもりなのか教えて。教えなければ、あなたの正体を狩人に流す」


 森の狩人とは、異能者の肉を喰い、骨を加工し、売りさばく連中のことだ。異能者の血肉は高額で売れるので、闇で取引されている。とは言え、王家と教会による護衛により、異能者は守られている。だが、それは騎士として任命されればの話だ。もしダーヴィットの情報が、森の狩人に流されれば、一夜で髪一本すら残らない。


「俺たちは市民運動に参加している」ダーヴィットは渋々言った。

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