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51. ただの老人

「見たところマオ選手のドレスには一切ダメージがありません。焦げ跡一つない。あの地獄のような嵐をどうやってやり過ごしたのか……」


 彼は震える手で汗を拭った。


「これは、もはや常識の範疇を超えています……」


 サキサカは絶句してしまう。


「では、スローモーションを見てみましょう……」


 リリィが慌てたようにゴーレムアイを操作した。


 映像が巻き戻される。そこには――。


 揺れるアイテムボックスから、ぴょんと飛び出すマオの姿が、ほんの数コマだけ映っていた。まるで魔法の箱から現れた妖精のような、幻想的な光景だった。


「へ?」


 サキサカの目が、限界まで見開かれた。


「アイテムボックスに隠れていた……んですか?!」


「アイテムボックスぅ!?」


 リリィも声を震わせる。


「なんと、マオ選手はあの劫火の中、アイテムボックスの中に身を隠していたっぽいですね……」


「え? そんなことできるんですか?」


 リリィの問いに、サキサカは激しく首を横に振った。


「いやいやいやいや、できないですよ!」


 彼の声は、ほとんど悲鳴に近かった。


「入ることは……まぁ、無理矢理体を押し込めばできるかもしれません。でも、出る方法なんて……ないんです!」


 サキサカは頭を抱える。


「アイテムボックスは、一度閉じたら内側からは開けられない。それはもう、アイテムボックスを構成している魔術式を完全に解明して、その根幹を操作するしかないはずですが……」


 彼は絶句した。


「そんな話聞いたこともありません! そんなことできる人が、この世にいるんですかね?」


「でも、マオちゃんはやってますよね?」


 リリィはニヤリと笑う。


「はい、もう、そうとしか考えられませんが……」


 サキサカは深く息を吸い込んだ。


「いやぁ、マオ選手には毎度驚かされます! もはや、人間の領域を超えている……見事でした!!」





〔すげぇ〕

〔マオちゃん何者?!〕

〔もしかして魔導師なの?〕

〔マオはワシが育てた〕


『○○さんが80ゴールドをスパチャしました!』

『××さんが10ゴールドをスパチャしました!』

『△△さんが200ゴールドをスパチャしました!』



 画面を埋め尽くすコメントとスパチャの嵐。金額を告げる音声が、まるで祝福の鐘のように鳴り響く。


 しかし、パブリックビューイング会場では、歓声の後に不思議な静寂が訪れていた。


 誰もが顔を見合わせ、困惑の表情を浮かべている。


「一体どこの戦闘教本に、アイテムボックスに隠れるなんて戦法が載ってるんだ?」


 ベテラン冒険者が呟いた。


「そんなことができるのなら、いろんな応用が可能じゃないか?」


 若い魔導師が興奮気味に言う。


「でも、具体的にどうやったら……」


 誰も答えられなかった。


 マオは相変わらず、退屈そうに角材を肩に担いでいる。まるで今起きたことが、朝飯前の些事であるかのように。


 その圧倒的な強さと、それを支える理解不能な技術。


 人々は改めて思い知らされた。


 美少女剣士マオは、やはり規格外の存在なのだと。



       ◇



 その後は、まさに虐殺ショーだった。


「次! 王国騎士団筆頭、『雷槍(サンダーランス)』のガイウス!」


 ガシャン、ガシャンと重装備の騎士が入場する。


 三秒後――。


 ドゴォ!


 角材で頭を叩かれ、白目を剥いて倒れていた。


「次! 帝国が誇る『神弓(ゴッドアロー)』のアルテミス!」


 美しい女性弓使いが、矢を番えながら慎重に入る。


 五秒後――。


 バキッ!


 弓を角材で真っ二つに折られ、泣きながら退場していった。


「続いて! 『神速(ライトニング)』のシーフ、ファントム!」


 残像を残すほどの速さで駆け回る盗賊。


 だが――。


 ゴンッ!


 マオの角材は、正確に後頭部を捉えていた。




〔角材無双www〕

〔もはや角材が本体〕

〔剣使えよwww〕

〔これもう虐殺だろ〕



 コメント欄も、もはや笑うしかない状況だった。


 しまいには――――。


「降参です! でも……記念挑戦だから!」


 防具も外し、短剣一本だけ握った若者が突っ込んでいく。


 パシーン!


 乾いた音とともに消えていった。


「あーあ、また瞬殺……」


 リリィも、もはやコメントに困っていた。


 マオの防衛は、鉄壁を通り越して絶望的だった。誰も、金貨の山に近づくことすらできない。


 その時だった――。


「嬢ちゃん」


 しわがれた、しかし不思議に通る声が響いた。


「次は、ワシでいいかの?」


 入口に立っていたのは、一人の老人だった。


 白髪がゆらりと揺れ、顔には深い皺が刻まれている。粗末な着物に、古びた草履。そして、刀を杖のようについている。どこからどう見ても、ただの老人だった。



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