第5話 ぼっちな俺、やらかす
「あぁー……腹減った……水ぅ……」
木々に囲まれた深い森の中。俺は2時間以上さまよっていた。
文明の影すらない。あるのは絶望と──
(主様。愚痴はエネルギー消費に比例します。黙って飢えてください)
──ナビちゃんだけだった。
「えぐない!? 俺がどんだけ頑張って歩いてるか見てなかった!?」
(見てますよ。主様の全力は“のろのろ迷子ムーブ”として記録されています)
「やめてぇええ! それ一生ログ残るやつ!?」
(主様、緊急警告。魔力反応を感知しました)
「ん? なんて?」
(距離およそ800メートルにて高速接近。種別は魔物。分類:ウルフ系)
「ウルフ!? 狼!? 俺丸腰だってのに!?」
(ご安心を。通常の狼などではありません)
「いやそれ絶対“安心しろ、もっとヤバい”って意味じゃん!?」
(はい。ブラックウルフ。体長約2メートル、牙に魔力毒を保有。速度は人間の約6倍──)
「車ぁあああ!? なんで野生がマッハなの!?」
(接触まで、残り──42秒)
「ど、どうすんのこれ!? 避ける? 走る? ログアウト!? ねぇログアウトどこ!?」
(選択肢:A.逃げて背後から噛まれる/B.この場で吠えられて気絶/C.戦闘)
「選ばせる気ゼロじゃねぇか!!!」
(主様の魔力量、および周囲の自然魔力を統合すれば、初級魔法の行使が可能です)
「魔法!? 使えるの!? じゃあお願いナビちゃん、全力サポートぉおお!」
(しょうがないですね。初期支援スキル《ナビゲーション・アシスト》起動──魔力制御を開始)
(自然魔力を取り込み、主様の魔力と融合。適性属性は……ふふ、やっぱり“炎”ですか)
「炎ってことは……燃やす系!? うわ、なんか手があっつ!?」
(詠唱を開始します。私の後に繰り返してください。)
(“燃え上がれ、我が手より生まれし紅蓮の刃──”)
「燃え上がれ、我が手より生まれし紅蓮の刃──!」
(“灼熱の奔流となり、敵を焼き尽くせ”)
「灼熱の奔流となり……敵を焼き尽くせぇえええええっ!!」
──ズゴォォォォォォォォォンッ!!
激しい轟音が森を揺るがした。
カズの手から放たれた炎は、もはや“火”というより“災害”。
爆風が吹き荒れ、数百メートル先までの木々が一瞬で黒焦げになる。
大地は焼かれ、空気は歪み、土がガラス状に変質した。
「…………………………」
(…………………………)
「な、ナビちゃん……?」
(はい。)
「あれって…初級魔法なんだよね?」
(はい。)
「さっきのオオカミみたいなやつは…どうなった?」
(あのブラックウルフ、肉片すら検出できません。消し炭どころか気配もありません)
「マジで!? あんなヤバいやつ、一撃!?」
(というより、森ごと更地にしました。約800メートル……これはもう高範囲最上位魔法級ですね)
「……俺、もしかして……とんでもないチートスキル持ってる系?」
(いえ。主様の魔力量は下の下です)
「下の下ぇぇぇぇ!? じゃあなんでこんな大爆発が!?」
(おそらく……ナビちゃんが優秀すぎたのが原因ですね♡)
「いやそこ急にぶりっ子すな!? てか、謝って!? 謝罪して!?」
(やりすぎちゃいました。てへ♡)
「怖っ!! なんで♡つけると怖さ増すの!?」
(主様……世界滅ぼす前に、私に相談してくださいね?)
「なんか罪擦り付けられてる気がするぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
──こうして俺は、異世界初日で“森を災害のごとく焼き払う”という派手すぎるスタートを切ったのだった。