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タダシキヨク 〜ギャルなる令嬢篇〜

 ここは、トゥーハン王国。にぎやかな雰囲気と他国との交流が盛んで、とても平和な国。魔物がうろつく事以外は……。

その平和(?)と言える国には王国三銃士なるものが存在する。その内の1人がそう!


「王国三銃士【令嬢】担当の、あーし様ですわ!」


お城の中の一室でその声が轟いた。

キィっと扉が開く音がした。


 「何が『あーし様ですわ!』だ。自分の名くらい名乗ったらどうだ。レベ。大体、鏡に向かって何してるんだ?」


このちょっとお堅い人がレベと同じく『王国三銃士【騎士】担当』の、ヒエシー。見た目は騎士の鎧を着た紫髪の爽やかな青年だ。


「ノックもせず、勝手にあーし様の部屋に入るなんて……。レディが肌を見せるのは大切な人の前だけなのですわ!

はぁ~。ヒエシーは分かってないねー。あーし様はね、名乗りの練習をしてんの〜!」

「分かるも何も、それは必要ないだろう。それに、人前で見せる肌が何とかと言いながら、その開けた胸を見せているではないか。」

「変態騎士め……。マジ理解力なくてギスるわぁ。」

「ぎする……?まぁいい。俺がここに来たのは2つの忠告するためだ。」


空気がピリつく。


「忠告……?なんの?」

「最近、魔力を大幅に増幅させる玉、通称『マーフエル』が闇市に出回っているらしい。……これは反国組織『ライフ』によって制作されたもの、までは分かっているがそれより先が全く掴めんのだ。」

「ふーん。被害者とかは?」

「北の地域で関連するものが1件だけだ。だが、早急に対処しない限りこの数字は増えるだろう。」

「うーん。なくしたいのは山々なんだけど、情報がなぁ。」

「特徴だけでも知っておくといい。」


そういって見せられたのは、朱色の透き通った綺麗な玉。しかしどこか禍々しい感じがする。


「サンキューね。何か分かったら教えるねー。」

「あぁ。後、『ウヴァイ』という奴に気をつけろ。こいつは特別指名手配犯の1人だ。素性は良くわからんがな。」

「わーった、わーった。で、もう一つは?」


適当に返事をしたレベとは対照的に、もう一つの忠告について聞かれたヒエシーの目は太陽のように輝いた。


「そう。レベの日々の必要なことについてだ。国民を守るため日々の鍛練と政治活動をだな……」


(ヒエシーの説教6時間くらい余裕であるし……。隙をみてこっそり部屋から出ていこーっと。)


廊下を歩いていると、困った顔をした召使いのキエラと見知らぬ小さい男の子がいた。


「……ですから、ここはお城の中だから、入っちゃダメなんですよ。」

「王国三銃士に会いたいんだ!お願いします!この通り!」


男の子が土下座を始めようとしたので、レベが横から割って入る。


「その下げる頭は大事な人の婿になるまでとっておくものですわ。」

「むこ…?」


(少し涙ぐんだ目でこちらをみつめている。とても可愛いなー。おっと、そんなことを考えてる場合じゃないね。)


「レベ様、お手を煩わせてしまい申し訳ございません。この度は私の不手際で……。」

「あ~!あーし様にはお堅いの禁止ですわ!!」

「申し訳ございません……。」


(このやりとり軽く1000回はやったから、なんか流れ出来てるし…。)


「お姉さん!お願いがあります!」

その声は私を我に返らせてくれた。

「脱線してごめんなさいね~。用件はなんですの?あ、あーし様は」

「王国三銃士【令嬢】担当のレベお姉さん!僕の大事なハナを助けてください!!」


(なるほど、新手の恋愛相談とみた。)


「……キエラちゃん。あーし、しばらくいなくなるわ。2人にも伝えておいてほしい。」

「承知いたしました。」

「それじゃあ行きますわよ。ぼーや、名前は?」

「僕はカズ。よろしくお願いします」

「あーし様には丁寧にならなくて良いですわ。お友達だと思って話していただければ!」


カズは少し照れた顔で恥ずかしそうに言う。


「じ、じゃあお姉ちゃん、よろしくね。」

「しくよろ〜、ですわ」


2人で城の裏口から外へ足をそろえて歩き出し、カズがレベを案内するように森へ進んだ。



「ハナちゃんを助けるにはあーし様はどーすればよろしくて?」

「その……悪い人たちにさらわれちゃったんだ。僕だけじゃ追い返されちゃって……だから、お姉ちゃんの力を借りたいんだ。」

「わかりましたわ。ハナちゃんはどんな特徴をしていらっしゃいますの?」

「えーとね、黒色で、あと最近拾った綺麗な赤色の石を付けてるんだ!」

「ほぅ〜、プレゼントとはなかなか隅に置けませんことね〜」

「ま、まぁ喜んでくれるなら当然だよ。」

「にしても、直接城に入ってくるなんてやりますねぇ。」


カズはあたふたして答える


「わ、悪い事なのはわかってるよ。でも、こうでもしないと……」

「うんうん。偉い!チョーえらい!」


レベはカズの少しからまった髪をわしゃわしゃしてみる。


「あーし様たちは、勇気ある子は大歓迎だよ……。」


(少し前の訃報を思い出して暗い雰囲気を出しちゃったかな。)


「 ? なんで悲しそうな顔してるの?」

「ん〜?まぁ、ちょっと前にあーしの友達もとんでもなく悪いやつにさらわれちゃってね。あーしは助けを求めなかった勇気のない()()奴なのです。」


レベは急いで作った不格好な笑顔で語った。カズは自分の目をまじまじと見つめて語りかける。


「お姉ちゃんは弱い人なんかじゃないよ。僕知ってるよ。とても強いドラゴンと戦って勝ったことがあるんでしょ?だから自分のことを『勇気のない弱い奴』なんて言っちゃダメだよ!」


(自分よりも小さな子どもに心配させるなんて何やってるんだろ。あたおかだよね、ほんと。)


「……マジで君偉いよ。あーし様も元気ハツラツに戻ったし!もしかしたら君は――」

「――すいません。この先は通行止めですよ…。」


静かな森の中を歩いていると突然、怪しげな雰囲気の男が道を塞いで言った。レベは小声でカズに(あーし様の後ろに隠れてて)と言い、避難させた。


「あーれ、この先に何か問題でも?」

「えぇ。我々の部隊が大型魔物と戦闘中ですから通行止めになってます。」


レベは「ん」と手を差し出し、ものが渡されるのを待つ。


「……なんですか?この手は?」

「その証明できるものを頂きたいのですわ。」

「……あぁ。すいません、自分新人なもんでそういったものは持ち合わせてないんすよ…」

「ふ~ん?あなたの部隊の隊長はバカな手下を配置しちゃったね〜。」

「何だと?どういう意味だ!」

「バカは嘘が付けないってことですわ。」


男が臨戦態勢になり、槍を構える。


「言っても分からないなら、力づくでわからせてやる!小娘!」


持っていた槍をレベに振り下ろすが、レベは仁王立ちのまま扇子をパサッと口元を隠すように広げた。


廻天(かいてん)


直後、小さな嵐が男をその場で激しくのたれ打ちまわらせた。嵐が静まった後、カズが恐る恐る男の意識を確認しにいくと、男は泡を吹いて倒れていた。


「さーて、道ができたし、行きますわよ。」


カズは開いた口がふさがらなかった。無意識のままレベの後ろをついていった。


「お、お姉ちゃん、さっきのって魔術!?」

「もち。風流魔術の1つ『廻天』。指定した範囲に嵐を起こす魔術ですわ。」

「他にも何かできる!?」

「もちろんさぁ〜。こんなことも、あんなこともー」


レベは持ってる色んな魔術を披露した。2人はとても気分がよくなったが大事なことを忘れていた。


「はっ、このままではハナちゃんが危ないですわ!」

「そうだよ!でも、何で僕まで忘れてたんだろう……?」


その疑問はすぐ解けた。


「「私ですよ。」」


(どこからか分からないけど、脳に直接響くように語りかけてきた!?)


「出てきやがれですわ!」

「「そういう訳にはいきません。あなたたちは()()ですから。」」

「頭がいたいよぉ……。」


(カズが不調を訴えている。早急に対処しなければならない敵のようね。)


「……横天(おうてん)!!」


周りの木々がなぎ倒され、広々とした空間ができた。レベが辺りを見回すと1人の不潔な男が立っていた。


「見ぃつけた。ですわ!」

「こんにちは、私はレアダーです。しかし、はしたない言葉遣いをなされるお嬢さんだ。頭痛が酷くなりますね。」


レベが見つけた相手にすぐさま近寄ろうとするが、相手は微動だにせずただその場に立っている。


「もう諦めたなら観念するといいですわ!

廻天!!」


嵐が相手の男を襲わなかった。なぜならレベも同じようにその場で()()()()()からだ。


(どういうこと……?魔術は発動させたはず……)


「教えてあげましょう。私の魔術『統率(シンクロ)』ですよ。効果範囲は私から半径50mほどです。まぁ問題はございません。逃げる前に私に殺されますから。」

「統率…??」

「はい。この魔術は私が指定した対象を強制的に私の身体と同じ状態にします。例えば、傷から魔力量、そして今あなたがそこに立っているように動きまで。」

「で……も、この術には……重大な、欠点が、ありま、すわよ!」

「ほう…?私がこの術を何十年使ってると思ってるのですか?ちなみに、あなたが今会話出来ているのは、まだこの技の3()()()()()()()()1()()()()に過ぎないからですよ。」

「……!」

「はっはっは。言いたいことは図星でしたかな?この1段階目には、筋肉の動きの制御と軽い以心伝心が出来ます。」


(詰み、か……。)


「お姉ちゃん負けちゃだめだよ!!」

「戦えない子どもは静かにしていなさい。使えない道具と同じなのですよ。お嬢さん、しつけがなっていないですよ。あぁ、言葉遣いもまともではないなら無理もないですか。」

「カズを……、あーし様のダチを馬鹿にしたな!?」


全身に自らの魔力を勢いよく流し込み、制御された動きと切り離した。


「なにっ…?!統率が解除された!?」

「あなたの魔術の重大な欠点がありますわ……。それは、()()()使()()()ということですわ!」


すぐさま魔術を……!とするレベにある不安がよぎる。このまま、敵を倒してもよいのか?と。カズが『()()()()()()()()()()()()()()』と言っていたことを思い出し、術が使えない。


「私にとどめを刺さないのですか?……どうやら思い出したようですね。」

「お姉ちゃん、どうしたの!?早く倒さないと!」

「……。それは……できない。」

「なんで!?もうお姉ちゃんは自由に動けるんでしょ!?」

「あーし様は、ね。カズは違う。」

「僕が?え……?」

「ははははは!!本当に素晴らしいお嬢さんだ!とても良い分析力ですよ。よく気がつきましたね。」

「ついさっきですわ…、あなたとの会話を通して腑に落ちない点がいくつもあったので……。」 

「実に良いです。お嬢さんの功績を讃え、後世に私が伝えましょう。お名前を聞かせてもらってもよろしいですか?」


レベは一対一の状況であれば、何人たりともその実力に勝ることはできない。しかし、守るもの、大切なものが近くにいるときは本来の力を発揮することはないだろう。


「あー……しは……」


例外もある。一対一の状況を無理矢理つくれば、その戦局は大きく覆る。


「あーし様は王国三銃士【令嬢】担当!レベですわ!!」

「……!?」

皇天(こうてん)!!」


レベを中心に嵐が起きる。その嵐は2人を強く引き離した。カズのほうに衝撃を緩和させる風を起こし、飛ばされた時とその落下の痛みを最小限にした。


「しまった!統率が……!」

「隙あり〜旋天(せんてん)!」


これは皇天によって飛ばされた対象に放つ術であり、惑星が公転するようにレベ自らが太陽となり、惑星であるレアダーを強制的に高速回転させて破滅させる術である。


「レアダー。あなたの敗因は、おしゃべりがお好きだったことですわ。」


カズが状況をみて駆け寄ってくる。


「お姉ちゃんすごいね!」

「まぁね〜、それよりケガとかありませんの?」

「うん!お姉ちゃんのおかげで何ともないよ!」

「それは何よりですわ。さぁ、ハナちゃんのところへ急ぎますわよ!」


2人は奥へ駆け出した



 森を進むとかなり古びた一軒家が姿を現した。きっとこの中にハナがいるだろうと2人はお互いの顔を見て頷いた。

 ギィーッと木製のドアをゆっくり開けると、真っ暗な一室の中心にロウソクが一本火がついていた。

 警戒しながらロウソクを手に取り、足を動かす。歩いていると「……クン」と鳴き声が2人の耳を刺激した。


「ハナだ!僕が今助けるよ!」


カズは喜びが隠しきれず音の鳴る方へと身体を急がせた。


「先走らないでくださいな!」


 レベも後をすぐに追う。カズは声の聞こえた部屋を開けると突然表情が凍りつき、動きが固まった。

 おかしく思ったレベはさらに急ぐ。


「何があったんですの……?」 


扉の前のついたレベは目の前に広がる惨状に唖然とした。そこには黒く歪んだ見た目に朱色の玉を身に着けた怪物がいた。


「こ、こいつは……だれですの?」

「…クゥン」


禍々しい怪物のような見た目とは違い、子犬のような鳴き声を発する目の前の得体のしれないモノに、レベは()()()()()について理解を拒んだ。


「ハナ……。やっっと見つけたよ。ここにいたんだな……。さ、帰ろう……?」


一切表情が変わらないカズはゆっくりと目の前の怪物に近づいていった。


「近づいてはいけませんわ!!」


レベはカズの後ろの襟を掴み自分の方へグッと引き戻す。


(色々合点が行きますわね……。森での襲撃と誘拐……そして、朱色の玉。全ては黒幕の掌の上というわけですか……。)


コツッ、コツッと音を立ててゆっくりと近づいてくる。レベはその方を見ると約3mほどの大男がいた。


「反国組織『ライフ』……!!」

「おォ。オレたちのことよく知ってんじゃねェか。」

「少し前に教えてもらったからですわ……!」

「はァ。もうここまで有名になっちまったのかよォ。なら隠しても仕方ねェなァ。

オレは、ウヴァイだ。この組織の、ボスだ。」



異様に発達した筋肉とガタイの良い身体が特徴の男。いかにもという雰囲気を醸し出している。


(かなりの手練のようね。用心しなくちゃ……。でも、久しぶりね!こんなにワクワクするのは!!)


「あーし様があなたを倒せばカズたちはチョベリグなエンドを迎えれるというわけですよね?」

「チョベリグ……?まァ良くわからんが、オレを倒せばァ、オレの組織は終わりだ。それにィ、翠玉色の髪と赤色と青色のメッシュに、独特な言葉遣い……。三銃士の【令嬢】だな?」

「そうよ。あーし様がレベよ!」


 レベのやらなければならないことは主に3つ。

まず、目の前の敵であるウヴァイの討伐。次に、カズの安全確保。そして、ハナの救出。

 これらを同時にこなすのはこの世界では、常軌を逸している。なぜなら、ウヴァイは20億という金額がその首にあるのだ。


「廻天!」


 嵐がウヴァイを襲う。だが、彼は微動だにしない。続いてウヴァイがレベのいる方に向かって空気にパンチを繰り出す。それは圧縮された台風のような威力だった。

 レベはこの攻撃に直撃し、その衝撃で家の外に思い切り放り出されてしまった。


「……お前に合わせてお前の状況を言い表すなら

ァ。『チョベリバ』ってとこかなァ……。」

「んしょ……っと。よく使い方が分かってるじゃない。あーし様の弟子にでもなる気?」

「ほざけェ。まだ自分の状況が分からねェみたいだなァ。」


するとウヴァイは近くにいたカズの首をグッと絞めた。


「ガッ……おねぇ……ちゃん……」


今までに味わったことの無い苦しみを我慢するカズはとても辛かろう。


「あなた…!」

「おっとォ、そこから動いちゃダメだぜェ。」


そういうとウヴァイはカズを苦しめている手をハナだったものの方に近づけた。


「この犬は今、鎖をしてる。だからまだァ大人しいぜェ。お前が動いたらすぐさまに、これを外してこのガキを犬の餌にしちまうぞォ!」

「くっ……。」

「まァ、身ぐるみ全部剥いでくれりゃァ考えてやってもいいぜェ。」

「……。」

「お、ねぇちゃ……ん、僕を……見捨てて……!」

「そんなことできない!」

「おいおィ、ガキのねだりくらい聞いてやってもいいんじゃねェかァ?」

「おねぇちゃんは……、お前なんかに……負けない!!」

「ったくゥ、どこ見てそんなこと言える?」


少し苛立ちを覚えたのか、ウヴァイはより握力を増やし、カズを苦しめる。


「もう……いい!」


レベは持っていた扇子を放り捨て、焦らすように手袋を脱ぎ、衣服を脱ぎ始めた。下着のみとなったレベにはもはや抵抗の文字も、王国三銃士という肩書きもどうでもよくなっていた。


「こ、これで私は何も出来ませんわ。早くその子を!」

「ダメだろォ」


遮るように語ったその口はこれから獲物を食い散らかす猛獣のようだった。


「その黒い下着も要らねェってことが分かんないのかァ?身ぐるみを剥ぐってのは全ての肌を露出するってことだよなァ。」

「あ、ぐっ…」


(私は、もう、諦め――)





ドカアァン!!


一軒家の元の形が分からないほど辺りの瓦礫と化し、月が照らす明るい夜空が広がる。2人の影を映して。


「『レディが肌を見せるのは大切な人の前だけ。』自身が言ったその言葉が皮肉にも今の状況を物語っているとしたら……、少年。君は……。」

「お嬢大丈夫ですか!……ちょ、服がはだけている!」


現れたのは、ウヴァイを睨み付ける紫髪の清潔感あふれる青年と、レベの状態を心配するガッチリした体格の男。その2人は紛れもなく、王国三銃士【騎士】と【冥土】である。


「なんだァ?動いたんならガキを潰す――???どこいった!?」

「俺の後ろにいるさ。俺が来た時からな。」


言葉通りヒエシーがカズを守るように彼の前に立っていた。


「ヒエシーにアキバス……!どうしてここが……?」


 思わず我慢していた涙が溢れそうになるが、グッと堪え自分がさぞ平然であるかのように演じた。

 ガッチリとした見た目とはかなりかけ離れた優しい声を発する王国三銃士【冥土】担当のアキバス。自身の身の丈に合ったメイド服を着ており、いかにも変人に見える彼だが彼の家系ではごく普通のことらしい。


「ボク達は召使いのキエラ様からお嬢とあの坊っちゃんの事を聞きまして……。それで、お嬢が直々に任務に出向くなんて滅多にないので、後を追ってきたのです。」


レベは服を着ながら質問に動揺して答える。


「これは任務というか……私情というか……

って!あーし様はそんなに怠惰な人間だと思われていましたの!?」

「あ、いえ、ボクは珍しいなぁと思いまして……。」

「変わらんわ!……まぁ良いわ。『三人寄れば()()()()の知恵』とも言うので!あーし様たちが揃えば無敵なのですわ!」

「もんじゃ……?お腹が空いているのですか?チャーハン握り飯でよろしければございますが……。」

「何で持っているのです!?……いつの間にかあーし様が後手に……。アキバスに勇者ジョークシリーズは通用しないのですわ……。」


和んだ空気を一新するように、ドーン!と爆発音が辺りに強く鳴り響く。音の中心にいるのはヒエシーとウヴァイだ。


「どうやらウヴァイ、俺はお前の力を見くびっていたようだ。謝罪しよう。」

「フンッ。その必要はねェさ……。オレェがその頭を地に叩き落としてやるからなァ!」


ウヴァイは突風のようにヒエシーに襲いかかり、ヒエシーは自分の持っている剣でウヴァイの勢いを必死に抑える。


「20億の首は伊達じゃない、か……。」

「今までオレの首を目当てにィ何人もやって来たが、全員オレが逆に首をちょん切ってやったなァ……。」

「では、その幾人も葬ったその力……教えていただこうか。」

「いいぜェ。どうせ死ぬんだからな……。オレの力は『言霊・遵守(ことだまの奴隷)』だァ。」

「随分とあっさり教えてくれるのだな。ありがたい限りだが……。それは一体どういう能力なんだ?」

「そうだなァ……。わかりやすく言うならァ、オレが言った命令は何人も例外なくそれを実行しなればならない。ってことだ。しかしこいつには致命的な弱点が2つある。1つは力に差がないと使えないことォ、もう一つはオレにも有効なことだァ。」

「なるほど。つまり先程能力についてあっさりと答えてくれたのは君の力のせいというわけか。」

「そういうゥことだ。具体的にィ参照する力は魔力量だ。だから、お前はなかなか見込みがあるなァ褒めてやるぜェ。王国三銃士【騎士】担当さんよォ……。」

「感謝する。私の日々の成果が評価される時が来て嬉しい限りだ。……おっと、思わず本音が。これが『言霊・遵守』か。」


ヒエシーとウヴァイは初めて会う自身の最大のライバルとしてお互いを讃えあい、奮い立っていた。しかし、そんな2人の時間はあっとう間に終わる。


「『皇天!』」


2人はライバルと出会った僅かな時間を噛み締め、絆とともに風に飛ばされる。


「さーて、あーし様の反撃の時間ですわ!」



「そういうのは勝手にやってろってェ話なんだがァ、さっきのお前をみるに反撃の時間は一生訪れないぜェ。」

「あら、あらあらあらー?気づかないのですの?」

「何がァ……。」

「先程の魔術にあなたが()()()()()()()ことにですわ」。

「!!」

「それに、あーし様の周りにはあなたしか居ないことにですわ。」

「!!!」


 ウヴァイが驚いているのは、かつて現れた伝説上のおそろしい怪物が今目の前に突如として現れたからである。

 その怪物はひらりとした自分のスカートの端を軽く持ち、語りはじめる。


「あ、ちゃんとした自己紹介がまだだったの思い出したのですわ。――では、改めて。

あーし様は龍の祝福を授かり、風流魔術の原点にして頂点であるゾー家の現当主にして、王国三銃士の最強。

【令嬢】担当のレベ・ゾー・マンニャット。ですわ!」


不揃いな言葉遣いに苛立ちを覚えたウヴァイは我を取り戻そうと会話を試みる。


「なぜェ……お前がここにいるゥ!?」

「それを答える義務はないのですわ。」

「……何、でェ……『言霊・遵守』が発動しない!?さっきは効いてただろォ!!死ね!死ねェ!!」

「そんなに知りたいなら教えて差し上げますわ。この後どうせあなたは死ぬのですから……。」

「バカにィ、すんじゃねェエエ!」


ついに堪忍袋の緒が切れたウヴァイは無我夢中でレベに突っ走っていく。そんな彼の特攻は無へと化す。


「犬ゥ!行けェ!」

「ガウゥッ!!」

 

なぜなら彼を哀れに思ったレベは一息で終わらせてやろうとウヴァイに対して一撃必殺の技を放つ。


「――『反天(はんてん)』」


その技は地を裂き、空をも裂いた。


ウヴァイは何が起こったのか一瞬だけ理解出来なかったが、自分の身体を見て納得した。

身体は左右に切り裂かれており、すでに手遅れだろう。

そして彼は自分の死を悟りゆっくり目を閉じた。

ハナもウヴァイの正面にいたが、玉だけが切られており、徐々に元の姿に戻っていった。カズはすぐにハナのもとへ駆けつけた。


「ハナ!しっかり!ごめん、僕がしっかりしてなかったから……起きてよ、ハナ!!」


ハナはピクリともせず、目を開けるのでさえ難しそうだった。しかし飼い主がいて安心したのか口がはにかんでいるように見えた。


「ボクが診ますよ。」


アキバスはハナに寄り添い、異常がないか自身の魔術で確認する。確認をし終えたのか、その場で立ち上がると少しうつ向いた顔で言った。


「……もう、亡くなっています……。」

「え……?」

「おそらく、魔力増幅装置のマーフエルの影響で――。」


アキバスが次の言葉を発しようとした時、ヒエシーが割って入る。


「少年、動物が死期を悟ると誰も居ない場所へ行く話は知っているか?」

「しき……?」

「今回のケースはそれに当てはまるだろう。何が言いたいのかというと、少年の飼い犬は拐われて何かをされたのではなく、自身の終わりを感じたから少年の元を離れたのだ。」

「で、でも……僕は拐われるところを見たんですよ……?」

「それは……、動物たちを天国へと導く者たちだ。」

「それなら!ハナがおかしくなっちゃったのは!あの変な人たちは!何なんですか!?」


レベはカズに静かに近付き彼の頭をそっと撫でてあげた。


「ハナちゃんは……カズの悲しんでる顔より、笑ってる顔が見たいと思うの……。さっきカズが駆け寄った時……ハナちゃんはとても幸せそうな顔をしてたよ。」


カズはボロボロと涙が溢れて顔がくしゃくしゃになっていた。ハナを抱きかかえて。



――あの日の出来事から2日後。


レベとカズはハナを埋めた墓の前に訪れていた。


「レベ……お姉ちゃん。」

「んー?どうしたの?」

「ありがとうございました。本当に。」

「良いってことよ。私の変な勘違いから勝手について行っただけだから。」

「勘違い……?」

「あーっ!気にしなくていーよ!」

「……もし、レベお姉ちゃんがいなければこうしてハナを……埋めることが出来なかった。」

「そっか。それは私が行った甲斐があるってことだね。」

「あのさ、……お姉ちゃんたちって仲いいの?」

「ふふっ……、チョーいいに決まってますわ!」

「ハナは僕のこと、友達って思ってくれてたかな。」

「カズたちは友達ではなくマブダチですわよ。」

「マブダチ……うん!……ところで、レベお姉ちゃんってなんで他の人とは違う言葉使うの?」

「んー?それは……、」

「それは……?」

「……おっと!そろそろ戻らなきゃ。仕事すっぽかしてたんだった。」

「えぇ、教えてくれてもいいじゃん!ケチ!」


レベはゆっくりと振り向き、城の方へ歩いていく。


「あーっ、言い忘れてたことがあるのですわ。」

「何?お姉ちゃん。」

「あーし様たちもマブダチだから、名前だけで呼んでいーよ!」


カズはとても嬉しそうに手を振る。


「バイバイ!レベちゃん!またね!」


レベも笑顔で高く片手をあげて振る。


「またねー、ですわ!」


2人はそれぞれの帰路へと歩みはじめた。

読んでいただきありがとうございます。

感想や意見お待ちしております。

以下は用語解説になります。


・魔物…世界が創生したときから生物と同じく存在するまがいもの。今作は登場しない。

・王国三銃士…トゥーハン王国に属する特に秀でた力を持つ三人の総称。現在は【令嬢】、【騎士】、【冥土】が在籍している。家系などに縛られず、実力があれば誰でもなれる。

・魔力…この世界を造った神が生物に祝福として授けたもの。99%の生き物はこれを持っている。

ドラゴン…トゥーハン王国のはるか西に存在する龍の巣に住まう生物。龍と戦いその力を認められると望むものを1つ手に入れられるという。別名「ネガイリュウ」

・あーし様…レベが自らを呼称するときに使う。気分によって呼び方が変わるのでわかりやすい。

・魔術…風、花、雪、月の異なる流派からなる魔力を使用した不思議な技。日常生活から戦闘まで幅広く使える。花流はなりゅうが比較的簡単に習得でき、多くの人が愛用している。反対に、月流つきりゅうは技の難易度が高く習得が難しいので、使用者は世界に数えられるほどしかいない。

風流かざりゅう…魔術の流派の1つ。そよ風から天気まで自由自在に操れるのが魅力。習得難易度は月流よりは簡単だが、扱いに慣れるのが一番難しい。

雪流ゆきりゅう…魔術の流派の1つ。主に低温の技を扱えるのが魅力。習得難易度は花流と同じくらいだが、流派を代々担う家系が存続の危機になっており完璧な技を使える者が減ってきている。

・ゾー家…レベが産まれた家系。祖先は風流を編み出した。その家に産まれる人は風向きによって魔力量が変わる呪いが必ずある。追い風であれば絶好調となり何十倍も増幅するが、向かい風では戦闘に役立つ魔術が使えなくなるほど不調になる。

・レベ…今作の主人公。見た目は翠玉色の髪に赤と青のメッシュが特徴的に入っており、サイドテールとなっている。薄紫色の眼を持ち、右眼の下には三日月のタトゥーがある。言葉遣いなどは滅茶苦茶で、自分が上品な女子だとはあまり思っていない。他人の命が最優先なので、1人ではない時に向かい風の場合は一般人レベルまで型落ちする。1人で追い風の時は龍をも圧倒する。

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