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【電子書籍化(2巻)記念SS】ハッピーエンドのあとの話②

サンタさんは来ましたか?もしくは無事にサンタさんになれましたか?

こちらは昨日に引き続きまたまたクリスマスは関係のないお話ですー!

「アリシア妃が妊娠?」

「ええ、そうみたいですよ。シェフレラへの来訪を取りやめさせて欲しいとのことでしたので、了承の返事を出しておきました」

「そうか。では交流会はジェラルド一人でくるかな」


 おそらく数日後にはロベレニー王国から正式にジェラルド殿下おひとりで来訪される旨の文書が届くだろう。

 国同士のやりとりなので本来であれば理由など伝えずロベレニーからの書簡のみで済ませて良いようなことなのだが、義理堅い彼女はわざわざ私の意向を確認してくれた。

 アリシアからの手紙には『ごめんなさい』と書かれていた。彼女のために王宮内での滞在の手はずを整え、彼女と過ごせるようにスケジュールを調整していたこともあるので、私にちゃんとお詫びを伝えたかったのだろう。

 おめでたいことなので、謝る必要なんてないのにと思ったり、生まれたら赤ちゃんとアリシアに会いに行きたいな、と考えたりしていた。


「予定空いちゃったな……」


 私がポツリと呟いた。


「そしたらどこか行きたいところに出かけたらいいよ」

「え?」


 エルティミオ様から提案された。


「少しなら実家へ帰って顔を見せて来ても良いし、どこか出かけたいところが他にあれば行っても良いよ? 都合が合えば私も一緒に行くし」

「いいのですか?」

「別に良いよ。ミリーもそのころには生後半年を過ぎるころだからもう少し外に出してあげても良いと思うし」


 もちろん護衛と世話人をしっかりつけてのことだけど、と言いながらエルティミオ様は外出の許可をくれた。



     ◇



「ルーシェ!! 久しぶり!」

「ドロシー……! え、何か月? もう産まれそう?」


 私は予定が空いた日程でルーノラの村へとやってきた。

 ドロシーへは事前に手紙を出し、会いに行くと伝えて、了承の返事ももらっていたが、妊娠しているとは聞いていなかった。


「まだ八か月なんだけど、もう産まれそうな腹してるだろ?」

「わっ! ウォーレン、久しぶり! 元気だった?」

「ああ、それなりにな! ルーシェも元気……えっと、すいません。お、王太子妃様もお元気そうで……」


 以前のように気軽な感じで話をするつもりだったのに、ウォーレンが急に堅苦しい話し方をし始めた。


「ふふっ、何それ……! 前みたいに話してくれて良いのよ?」

「違う、違う……! 後ろ!」


 ウォーレンが引き攣った顔をしながら小声で後ろと言うので、私が後ろを振り向くとエルティミオ様がにこにこと微笑んでいた。いつも通りの様子である。


「後ろがどうしたの?」

「い、いや……なんでもない……」


 結局ウォーレンの言いたかったことが何かはわからなかった。


「ルーシェのこと全然知らなかったけど、お姫様だったのね」

「厳密に言うと姫ではないけど」

「でもこっちの子は本物のお姫様よね? 可愛い!」

「ミリアーナよ」


 ドロシーはチラッとエルティミオ様の顔を見て頬を赤くした。エルティミオ様も王子様スマイルで対応しているようだ。


「そして……ほ、本物の王子様……!」


 ドロシーが惚けたような顔をしたのでウォーレンがすぐにドロシーを後ろから抱きしめ、後ろへ隠すようにした。


「王子様、すいませんが、俺の妻は俺以外の色男に免疫がないから、むやみに笑顔を振り撒くのは止めてもらえませんか?」

「すまない。そんなつもりはなかったんだが……! でも愛する女性を他の男の目に入れたくない気持ちは共感できる。君とは気が合いそうだ」


 そう言いながらエルティミオ様も私のことを後ろから抱きしめ、隠すように位置を移動させる。


「ママは僕のママでもあるよ」


 アルヴィンが私の足にしがみつく。

 男性陣は私やドロシーにはよくわからない牽制をし合っているようだ。

 エルティミオ様は「そうだな」と優しく笑ってアルヴィンの頭を撫でる。エルティミオ様は同じ男でもアルヴィンへだけは牽制しない。


「アルヴィン! あんなに小さかった赤ちゃんがこんなに大きくなったのね」


 ドロシーがアルヴィンを見て驚いた。


「アルヴィン、ママのお友達よ」

「こんにちは」

「こんにちは。私アルヴィン王子のためにお菓子を焼いたの! 良かったら食べて」

「アルヴィン、せっかくだからいただきましょう!」

「うん!」


 ドロシーがお茶を用意しようと台所へ立つが、お腹の大きなドロシーにさせるのが申し訳なくて、私は代わろうと立ち上がった。するとすぐにウォーレンが手で制止した。


「ドロシー座ってろよ。俺がやる」

「ありがとう、ウォーレン」


 ウォーレンが当たり前のようにテキパキとお茶とお菓子を用意してくれた。

 「毒味係呼んでもいいぞ」と言ってくれたので、外に待機していた毒味役を呼んで用意してもらったお茶とお菓子の毒味をしてもらった。


「ごめんね、嫌な気持ちになってない?」


 作ったものを毒味されるというのは嫌なものだと思い、ドロシーに謝罪した。


「ううん。事前に手紙で聞いていたし、王族って大変だな、としか思わないよ」

「すまない。子どものうちから習慣づける必要があるから」


 エルティミオ様も一緒に謝罪してくれてドロシーは「とんでもございません」と恐縮していた。


「ママ、お菓子おいしい!」


 アルヴィンがドロシーの作った焼き菓子を一口食べて目を輝かせる。


「あ、ホント! すごく美味しい!」

「だろ? 料理はルーシェには敵わないけど、ドロシーの作る菓子は世界一だ!」


 ウォーレンが自慢げに言っており、ドロシーは「大袈裟だよ」と照れたような表情をしていた。

 そんな様子を見てホッとした。ウォーレンはドロシーのことをよく見て、助けており、声に出してドロシーを誉めている。

 とても幸せな夫婦に見えて、会いに来て本当に良かったと思う。


「ところで、これは魔法道具かい?」

「ああ、俺、魔法道具の修理師をやってて客がいらないって言った魔法道具の術式を改造したり──あ、いや、あの……!」


 ウォーレンそこまで言って、失言に気づく。既存の術式を修理することは問題ないが、許可なくいじることは犯罪だ。


「えっと、違いますよ。家の中でしか使用していませんから……」


 ウォーレンが慌てて言い訳をするがエルティミオ様は改造された魔法道具をカチカチといじり「へぇ、こうすると音楽が聞こえるのか」「聴覚に干渉しているのか……?」と一人ブツブツと呟く。


「怪盗ワロン……」


 ポツリと呟いたその一言に私とウォーレンとドロシーの顔がぎくりと強張る。


「怪盗ワロンもこういう高度な魔法道具を使ってルーシェのことを王宮から連れ出したのかもしれないね」


 エルティミオ様は魔法道具を持ったままウォーレンに向かってにこりと笑う。ウォーレンの顔は再び引き攣る。


「君たちが怪盗ワロンから逃げ出したルーシェのことを保護してくれたんだってね。君たちのお陰でルーシェは元気な子どもを産むことができた。本当にありがとう」

「あ、い、いや……」


 私は王宮から逃げ出す際、怪盗ワロンに誘拐されたことになっていた。だから私は怪盗ワロンの盗んだ指輪を取り返し、隙を見て怪盗ワロンの許から逃げ出したことにした。だが、一度目の人生で地下牢で衰弱死したこともあり、王宮に戻ることができず、ウォーレンとドロシーに助けてもらったと説明した。


「ところで、君、魔法道具の術式を組み込む腕すごいね。良かったら王宮の研究室に入ってもらいたいんだが、ダメかな」

「は?」


 思わぬ展開にウォーレンが呆気にとられる。


「ずっと魔力切れ防止のために、魔力を好きなタイミングで蓄積して必要なタイミングで自分の身体にその魔力を補充できるような魔法道具を開発しているんだが一向に進まないんだよ。君が研究に加わってくれたらさらに便利な魔法道具の開発ができそうだ」


 「魔力を蓄積させる術式までは出来ているんだが」と言ってエルティミオ様は私の首にかけているネックレスに手を添えて自身の魔力を込め直す。


「あ、いや……、ほら今はドロシーが心配だし、王都まではここから馬車乗り継いで丸一日はかかるし……」

「月に一、二回、王宮の研究室に顔を出して、研究員に指示だけ出してくれたらいいよ。来られるときだけで構わない。報酬はこれだけ出そう!」


 エルティミオ様がメモとペンをとり出しサラサラと数字を書いてウォーレンとドロシーに見せつける。


「やります!」


 答えたのはドロシーだった。


「ちょ、ドロシー!」

「だって、これから赤ちゃん生まれたらさらにお金がかかるんだよ。私は平気だからウォーレン頑張ってしっかりお金稼いでよ」


 ドロシーがウォーレンの服を引っ張り見上げるようにしてお願いをする。


「うーん……ドロシーに言われちゃったら受けるしかないよな……」

「よかった。では、研究室へ話を通しておくから来られるタイミングで王宮へ来てくれ」

「わかった」


 予想外の展開となったが、今日はこれでお開きとなった。


「そういえば、ベンジャミン先生も隣町で良い人と出会って、お嫁さんもう臨月らしいよ」

「へぇ! そうなんだ!」


 ベンジャミン先生と先生の優しい家族を思い出す。いつも家族みんなでベンジャミン先生の結婚を気にしていたのでベンジャミン先生のお母様も料理長も孫が増えることをきっと喜んでいるだろう。



     ◇



「それにしてもなんだか赤ちゃんができたって話がいっぱいだったなぁ……!」


 私は寝台で今日の出来事を振り返る。


「なに? ルーシェももう一人赤ちゃん欲しい?」


 エルティミオ様が私を引き寄せ後ろから抱きしめる。


「そうですね。いずれ欲しいとは思いますが、今日は幸せな話がいっぱい聞けたので、私もエルティミオ様から愛されてもっと幸せになりたいです」


 私が後ろにいるエルティミオ様の方へ顔を向けて見上げるとエルティミオ様は「嫌というほど愛してあげるよ」と言って私へ優しく口づける。


「ほどほどで良いのですが……」


 そう言いつつも私からもエルティミオ様へ口づけを返した。

書籍には盛り込めなかったウォーレンとドロシーのその後のお話でした。ベンジャミン先生も幸せを掴めたようで一安心。


ということで、2巻の配信もシーモアで開始になりました!

書籍ではWEBを超えるハピエンに仕上げることができました。

池上紗京先生の表紙絵も超ハピエンになってます!表紙絵もアルヴィンが可愛いけど、書き下ろしも超かわいく書けましたよ。

特典SSが付くのはシーモアのみです。ぜひご覧いただけると嬉しいです。

(書籍はR18の『ムーンライトノベルズ版』のTL小説になりますのでご注意ください!)


本年の投稿はこれで最後になるかと思います!

今年一年、せいかなの作品をご覧くださった皆さま本当にありがとうございました。

来年もたくさんお話を書きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。


メリークリスマス!良いお年を~(^^)


お読みいただきありがとうございました。

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