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【電子書籍化(2巻)記念SS】ハッピーエンドのあとの話①

電子書籍化記念に本日と明日と本編の後日談を投稿いたします。

クリスマスは全く関係ないですー!

 アルヴィンが四歳になる少し前に第二子が誕生した。金髪に若草色の瞳をした女の子だった。

 エルティミオ様と一緒に名前を考えミリアーナと名付けた。

 この子を妊娠する前も色々あったし、妊娠中にも色々あった。そしてやはり生まれてからも色々ある。


「ママ、ミリーかわいい」


 今もすやすやと眠るミリアーナをアルヴィンが覗き込んで生後四か月の赤ちゃんのふわふわな頬に小さな人差し指をぶすぶすと突き刺している。


「わわっ! アルヴィン、せっかくミリーが寝たところなのにそんなことをしたら起きちゃうだろっ……!」


 慌てて声を上げるのはエルティミオ様。

 その声は割と大きくて、私はエルティミオ様に向かって慌てて「しーっ」と人差し指を口の前に持ってきて静かに、と指摘する。


「ふえっ……ふぇぇ……」


 エルティミオ様の顔がぎくりと強張る。


「あーあ、パパがおっきい声出すからミリー泣いちゃった……!」

「うぅ……ミリー、ごめんよ」


 エルティミオ様はばつが悪そうな顔をする。


「ミリー、泣かなくても大丈夫よ。そろそろ起きたいころだったのよね?」


 私はギャーンと泣くミリアーナを抱きながらそう声を掛ける。


「さっきよーやく寝たところだからもっとねんねしたかったんじゃない?」


 私もそう思ったが、エルティミオ様を傷つけないよう、わざと起きたいころだったと言った。

 アルヴィンに追い打ちをかけられ、エルティミオ様はさらにズーンと沈んでいた。


「アルヴィン? そもそもあなたが眠ったばかりのミリーにちょっかいをかけたからパパは心配になって注意したのよ? ミリーのふわふわほっぺを触りたくなる気持ちはわかるけど、優しく触れてあげてね」


 私はミリアーナをゆさゆさと揺すってあやしながらアルヴィンにそう言った。

 アルヴィンは「はーい」と素直に返事をして、赤ちゃんのおもちゃをカランカランと鳴らしてミリアーナを泣き止ませようとした。


「ふふっ……かわいい」


 大泣きのミリアーナだが、そんなミリアーナをアルヴィンが一生懸命にあやしており、二人を見てつい声が漏れる。


「リナルーシェ様……! すみません。再来月のロベレニー王国のアリシア妃殿下の来訪時のことで隣国から急使が来ていまして、アリシア妃殿下からのお手紙を至急確認していただきたいとのことですが……」


 部屋へやってきた侍従と侍女のナタリーが部屋の前でやり取りをし、ナタリーが私へそう声をかけた。


「あ、いいよ。ルーシェ、ミリーは私が抱いているから、行ってきて」

「すみません、では……」


 私は抱いていたミリアーナをエルティミオ様に託した。


「ふぇ……ふぇ……」


 私の腕の中で泣き止みかけていたミリアーナは抱く腕が変わったことで、真っ赤になって今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 託されたエルティミオ様も泣き出しそうなミリアーナを見てハラハラとした顔をしているが、使者が待っているのであれば急いだ方が良いので、私は「すぐ戻りますので」と部屋を出た。


「まあ」


 アリシアからの手紙を読んで思わず声が出てしまったが、私は慌てて口を噤む。


 ――アリシア、赤ちゃんが出来たんだ……!


 隣国ロベレニー王国のジェラルド王太子殿下と結婚したアリシアは、乙女ゲーム『恋シェフ』のヒロインだ。ゲームで隣国の王子様ルートは存在しなかったが、彼女は自ら行動し隣国の王子様の愛を勝ち取った。

 一年前、私やエルティミオ様も参列したのでよく知っているが、彼女は幸せな結婚式を挙げた。

 そして彼女は再来月、わが国で行う隣国との交流会にジェラルド殿下と参加予定であった。

 ジェラルド殿下は翌日には帰国を予定しているが、アリシアは里帰りも兼ねて一週間ほどシェフレラ王宮に滞在予定で、その間に彼女とお茶会をしたり、薔薇園を訪問したり、という予定を入れていた。

 だが、今日アリシアから受け取った手紙の内容ではつい先日アリシアの妊娠がわかり、来訪を取りやめさせて欲しいというものだった。

 まだ妊娠初期で、ロベレニー王国内でも未発表の内容らしい。私はその場でサラサラと返事を書いて手紙に封をし急使に託した。

 ロベレニーの急使とのやり取りを終えて、私は急いで部屋へと戻る。



「エルティミオ様! すみません、大丈夫──」


 慌てて部屋に入り、目に入ってきた光景を見てすぐに口を閉じた。


「あ、ママ。しーっだよ」

「うん……」


 アルヴィンが私にそっと話しかけて来て私小さく返事をした。


 緊張した面持ちでエルティミオ様の行動を見守る。


 彼は今眠ったミリアーナをおんぶしたまま、アクロバティックな体勢でそのままミリアーナを寝台に寝かせそうと必死になっている。

 そっとおんぶ紐を外しつつ腹筋に力を入れてミリアーナをゆっくりと寝台に降ろしていく。

 もう少し、頑張れ、頑張れ……そんな気持ちで見守った。


 そしてミリアーナの背中が寝台に着き、ミリアーナがスーッと寝息を立てる。

 私もアルヴィンもその光景を見て、声は出さずに顔を明るくしてエルティミオ様を見た。彼もまたすやぁっと眠るミリアーナを見て涙目でぱあぁぁと顔を輝かせた。

 やっと……! そんな声が聞こえてきそうな表情だった。


 そしてエルティミオ様がそーっと寝台から降りたとき……


「んぎゃぁーーーーーっ!!」


 ミリアーナの泣き声が大きく響き、エルティミオ様はビクッと身体を揺らしてミリアーナの方を見た。

 真っ赤な顔で大泣きするミリアーナ。


「あーあ、また失敗だ」


 アルヴィンが呆れたように声を出す。


「ルーシェ! もうだめだ! 祈祷師を呼ぼう!」

「へ……?」


 祈祷師?


「ミリアーナは背中を寝台に着けると起きてしまうという呪いにかかっている!」


 そんなわけはない。


「よし、国一番の祈祷師を呼ぼう!」

「エ、エルティミオ様、落ち着いてください。眠った赤ちゃんを寝台に寝かせようとしてもなかなか寝てくれないことはよくあることですから!」


 ミリアーナだけではなく、アルヴィンが赤ちゃんのときにもよくあったことだと説明するとエルティミオ様は少し落ち着き泣くミリアーナを再び抱いた。


「ミリーは私が抱いてもなかなか泣き止まないんだ」


 そう言ってエルティミオ様はミリアーナを私に抱かせた。すると泣いていたミリアーナはピタリと泣き止む。


「ほら、私ではだめなんだ」


 エルティミオ様はしゅんと沈んだ顔をする。


「さっきもひたすら抱っこでゆらゆら揺らしてようやく寝たかと思い、寝台の上に寝かせたら、すぐ十秒後に寝てたはずミリアーナと目が合ったんだ」


 抱いているときは間違いなく目を瞑っていたはずのミリアーナと目が合い、エルティミオ様の顔を見たミリアーナはまたその十秒後くらいにギャーンと泣き始めてしまったらしい。


 私が部屋から離れていたのは三十分程度のはずだが、その間にエルティミオ様はぐったりとしていた。


「ミリーが私の抱っこで泣くことは今日に限ったことじゃない。いつも……いつも……いつも……いつも……ミリーは私の抱っこで泣くし、たまに私の顔を見ただけで泣くことも……私はこんなにミリーのことが好きなのに……そうか、呪われているのは私の方なのか……。わかったよ、祈祷師の許へは自分で出向こう」


 聞いていると可哀想を通り越して少し笑えてしまう。

 エルティミオ様はさらにがっくりと肩を落として部屋を出ていこうとしたので私は慌てて彼を宥める。


「エルティミオ様、そんなに気を落とさないでください。今ではこんなにママ、ママ、と言ってくれるアルヴィンも昔は私が抱くとよく泣いて大変だったのですよ」


 一度目の子育てのとき、アルヴィンは私が抱くとよく泣いて、ナタリーが抱くと泣き止んだ。ミリアーナは逆で、私以外が抱くとよく泣いて私が抱くとピタリと泣き止む。

 背中にスイッチがあり、抱いて眠った後に寝台に横にすると泣いて起きる、というのはアルヴィンもミリアーナも同じだ。


「ミリアーナも、今こんなにエルティミオ様にたくさん抱っこしてもらえたら、すぐにパパ、パパ、と懐いて離れてくれなくなるかもしれませんよ」

「君は本当に優しいね。私はミリーのお世話をしようと思ってもなんの役にも立てないのに、君は私のことを絶対に悪く言わない。このあいだも、ミルクを飲ませた後ゲップをさせ忘れて、君にミリーを渡したからミリーは君のドレスにミルクを吐いてしまっただろう? それでも君はよくあることだからって笑って許してくれた。私は本当に使えない男だと情けなく思うのだが、君の優しい言葉に救われる」


 エルティミオ様の気持ちはよくわかる。私は一度目のリナルーシェとしての人生で悪意のある噂の渦中、アルヴィンに与える母乳が足りず、抱けば泣かれて、心が壊れてしまいそうになり離宮へと移動した。


「エルティミオ様は本当によく私のことを助けてくださっていますよ。執務だってあるのに、いつの間におんぶ紐の使い方を覚えたのですか?」

「それは……ナタリーに聞いて……」

「ミリアーナのお世話をするために、わざわざナタリーに聞いてくれたのですよね。子育てのためにわからないことを学ぼうとする姿勢、すごく嬉しいです。今もこうして合間を見つけて私たちの様子を見に来てくださって、それだけで私たちはエルティミオ様に愛されているのだと安心できるのです」

「ルーシェ……」


 エルティミオ様は私を優しく見つめて「一緒に子育てするって約束したでしょう」と言ってくれた。


「あ、ほら……エルティミオ様! ミリアーナはやっぱりもう起きたかったのかもしれませんよ」


 ミリアーナは目をぱっちり開けて「だっだっ」と声を発している。


「ミリー元気いっぱい。ねんねはしたくなさそう」


 アルヴィンがミリアーナの頭をよしよしと撫でた。

 私は横に抱いていたミリアーナを縦抱きに体勢を変える。するとミリアーナは「だぁー」と言いながらエルティミオ様に手を伸ばす。私はすぐにミリアーナをまたエルティミオ様に託した。


「ミリー……!」

「あぶぅ!」


 エルティミオ様が抱きながら名前を呼ぶとミリアーナが可愛らしい声を上げながらきゃっきゃと笑った。

 久々に泣かせずに抱くことができたからか、エルティミオ様の方が泣きそうな顔をしながらミリアーナを抱いていた。

このお話の続きは明日夜にまた投稿します!


活動報告やあらすじには書いておりますが、電子書籍はR18の『ムーンライトノベルズ版』が書籍化されております。

ジャンルがTL小説になるため、電書サイトのリンクや詳細についてはムーンライトノベルズの活動報告に上げております。お手数ですがそちらをご確認ください。


アリシアの結婚式や、妊娠前・妊娠中の色々は書籍2巻の方に書き下ろしております。

1巻はすでに配信されておりますが、2巻があと4時間後の12月25日 0時からシーモアにて配信開始となります!

(妊娠中の色々はシーモア限定SS、その他のサイトは2025年1月16日からの配信となります)

書影も中身も超ハッピーエンドです♡ぜひ年末年始のお供に電子書籍の方もよろしくお願いします。


さてさて、この後サンタが来る予定の方は素敵な夜になりますように…!

この後サンタにならなければならない方はお子さまが爆速で爆睡してくれますように…!

皆さまに素敵なクリスマスが訪れますように…!メリークリスマス☆彡


お読みいただきありがとうございました。

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