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【電子書籍化(1巻)記念SS】とある男子学生と学園祭(学園時代編)

なんでかハロウィン風になっちゃいました…ひと月遅れ…

学園時代、本編ep.4のあたりのとある男子学生視点のお話です。

 僕の通う王立シェフレラ学園には、同学年にこのシェフレラ王国の王子が在籍している。

 第一王子のエルティミオ殿下は王子らしく完璧な容姿に、学術も剣術も優秀で、そのうえ優れた統率力で生徒会長までこなしている。

 そんな彼には婚約者がいる。ステファニア公爵家のリナルーシェ様だ。彼女もまた優秀な方だけど、僕は彼女が少し怖い。

 別に彼女に何かをされたわけではない。ただ、いつも少し近寄りがたい高貴な雰囲気があり、少し吊り目なところがきつく見えて、あまり関わり合いになりたくないと思ってしまう。


 関わり合いになりたくないと思っていると同じクラスになってしまうもので、クラスメイトくらいなら関わらずに一年やり過ごすことができると思っていたが、運悪く学園祭の係が同じになってしまい彼女と関わることは避けられなくなってしまった。


「レギネ伯爵令息よろしくお願いいたしますわ」

「は、はい……ステファニア公爵令嬢、よろしくお願いします」


 学園祭のクラスの出し物でホラーハウスを作ることになり、僕はホラーハウスへ来た客を驚かせる係になった。ホラーハウスで客を驚かせる係はたくさんいるのだが、僕はたまたまリナルーシェ様とペアで客を驚かせる係になってしまった。

 二人でゾンビに扮する予定である。


 公爵令嬢がゾンビに扮する?

 絶対にやってくれないと思う。どうせ高飛車な彼女はきっと僕一人に押し付けるのだろう。


 そんなふうに思っていたのだが……


「レギネ伯爵令息、どうですか? もっと血のりを増やした方が迫力が増すと思いません? それと、服ももっとビリビリに破いた方が鬼気迫る感じになると思うのですが……」


 意外にも彼女はやる気満々だった。

 周りが暗幕に囲まれた通路で、彼女は真っ白な顔で目の周りを黒くして、真っ赤な口紅は片方だけ大きくはみ出し、目の端と口の端から血のりが垂れている。着ている制服もところどころ破れて血のりで血液が飛んでいるように見える。

 なかなかリアルなゾンビになっている。そして僕も彼女に化粧を施され、同じようなゾンビが出来上がっている。

 教室内なのだが、辺りも暗く、お墓をイメージした装飾がされており、彼女のゾンビ姿がよく合っていて恐怖を煽る演出が出来ていると思う。


「も、もう十分かと思います……! それにそれ以上服を破いたら素肌が見えて良くないです」


 すでに裂けたスカートから彼女の白い脚が見えそうになっておりドキドキした。


「そうでしょうか? では、あとは表情でカバーすることにしましょう」


 リナルーシェ様は納得できないようで手鏡で何度も、白目を剥いたり、大きく口を開けたりして、ゾンビらしい表情の研究していた。


「リナルーシェ様……」


 暗闇の中から女性の声がして呼ばれたリナルーシェ様は肩をビクリと跳ねさせて「ひゃい!?」と返事をした。


 ひゃい……?


 リナルーシェ様の声とは思えない、落ち着きのない声だった。


「そちらの準備はどうですか?」


 ある女子生徒が様子を見に来た。その女子生徒は受付役のようで、魔女の姿をしており、ゾンビ役とは違って可愛らしい格好をしている。


「あら、エレノア嬢だったのね。ばっちりよ。なかなかいい出来だと思うの」


 彼女は先ほど驚いて変な声を出したことなどなかったかのように返事をし、ゾンビらしさを意識してポーズをとると女子生徒は「リナルーシェ様、素敵です!」と褒める。


「リナルーシェ様、ゾンビ役を代わってくださりありがとうございます」

「構わないわ。あなたは午後の部の担当になったのよね。他の出し物も楽しんできて! いってらっしゃい」

「はい! ありがとうございました」


 女子生徒は嬉しそうに来た通路を戻っていった。


 ゾンビ役を代わった?


「リナルーシェ様はもともとゾンビ役ではなかったのですか?」


 それぞれの役割はくじ引きで決まったはずだ。


「ええ、彼女が婚約者と学園祭を回るのに、ゾンビの恰好では可哀想かと思いましたので」

「そう、だったん、ですね……」


 予想外の事実に言葉がすらすら出てこなかった。


「リナルーシェ様……」


「ひいっ!」


 暗闇の中から女性の声がして呼ばれたリナルーシェ様は再び変な声で返事をする。


「そろそろ開場しますね」

「わ、わかったわ」


 先ほどとは別の女子生徒が開場を知らせてくれただけなのだが、リナルーシェ様はびくびく怯えるような反応をしていた。


「もしかして……ステファニア公爵令嬢は暗闇が怖いのでしょうか?」

「はっ、はははっ……バレちゃいました……?」


 リナルーシェ様は引き攣った顔でそう言った。


「暗闇というより、このお化けが出そうな雰囲気が怖いのですけど……役目はちゃんと果たしますから、みんなには内緒にしてくださいね」


 リナルーシェ様はそう言って、人差し指を顔の前に持ってきた。

 彼女は僕が思っているような女性ではなかった。それを認識したら彼女がとても可愛らしい人に見えてきた。


「それと、怖いので私を一人にしないでくださいね」

「…………はい」


 その台詞はまずい。あんなに関わり合いになりたくないと思っていた彼女にキュンと来てしまった。


「あっ、お客さんが来たわ」


 彼女はコソコソとそう言ってから、張り切って奇声を上げながらゾンビに扮してお客さんを驚かせていた。お化けが怖いのに進んでゾンビ役を代わり、役割をこなそうと健気にゾンビらしく振舞う様をみて僕の胸はときめいた。


 そして僕とリナルーシェ様はしっかりと役割をこなし昼へと近づく。

 僕たちは学園祭の午前の部の係なので、昼休憩の前には解散となる。


「リナルーシェ嬢……」


 リナルーシェ様は後ろからポンと肩を叩かれる。


「ひぃぃぃぃっ!」


 彼女はどこからそんな声が? と言いたくなるような怯えた声を上げた。


「私だよ」

「エ、エルティミオ様……」


 肩を叩いたのはリナルーシェ様の婚約者のエルティミオ殿下だった。


「受付の生徒にリナルーシェ嬢と話がしたいって言ったら裏の通路から回っていいと聞いたから」


 だから彼女は後ろから声を掛けられたようだ。


「な、何か御用でしたか?」

「うん。午後から時間が出来たから、学園祭に一緒に回りたいと思って」

「えっ」


 リナルーシェ様は一瞬嬉しそうな顔をしてからハッとして残念そうにする。


「申し訳ございません。ご覧の通り、今日の私はゾンビ姿なので、エルティミオ様と並んで歩くには相応しくなくて……」

「うーん。学園祭なんだからそんなこと気にしなくても良いと思うが……」


 たしかに学園祭にはメイドに扮した生徒や猫耳を付けた生徒など、出し物に合わせて仮装をした生徒がたくさんいる。


「でも、リナルーシェ嬢が気になるなら、こうしよう」


 エルティミオ殿下はまた来た通路を戻っていき、少ししてから戻ってくる。


「リナルーシェ嬢……」


 再び現れたエルティミオ殿下を見て僕は絶句したのだが、リナルーシェ様は「きゃああああぁぁー……!」と今日一番の悲鳴を上げた。

 エルティミオ殿下も顔と制服に血のりを付けてゾンビになっていた。


「お、驚かせてごめん……!」


 叫び声を上げられてエルティミオ殿下はおろおろとしていたが、リナルーシェ様はぜぇぜぇと息を吐いて呼吸を整える。


「こ、こちらこそ、すみません……」


 彼女の目に薄っすら涙が浮かんでいた。


「エルティミオ様までそんな恰好をなさらなくても……」


 彼女がそう言うと、エルティミオ殿下はふわりと笑う。


「ゾンビになってでも君と一緒に学園祭を回りたかったんだ」

「エルティミオ様……」


 真っ白なゾンビ風な顔をしたリナルーシェ様の頬が赤く染まっているように見えるのは気のせいではないと思う。

 僕はこっそり息を吐く。この様子を見ているのは少し辛い。


「あの……どうせあと十五分ほどで午前の部は終わりですから、お二人は先に抜けていただいて構いませんよ」


 気を利かせたつもりではなく、僕から見えないところへ行って欲しい。そんな気持ちでそう言った。


「そんな! 私が自ら引き受けた役目ですもの。ちゃんと最後まで残りますわ。エルティミオ様、待っていてくださいますか?」

「もちろんだよ、リナルーシェ嬢」


 彼女は真面目で責任感も強いようだ。


「では私はここに隠れて待っているとしよう」


 エルティミオ殿下はまさかの教室の外ではなく、ここで待つと言う。彼はいそいそとお墓のオブジェの後ろに隠れた。殿下に出てってくれなど言えるわけもなく。僕は残りの十五分、エルティミオ殿下に見守られながらリナルーシェ様とゾンビ役を全うすることになった。


「あっ、ほら、ステファニア公爵令嬢お客さんが来ましたよ。こちらへ」


 僕はリナルーシェ様を近くへ呼び、お客さんを驚かせやすい所定の位置に立つ。


「っ!?」


 急にぞわっと背中に寒気を感じた。そして痛いほどの視線を感じて後ろを見る。後ろにはエルティミオ殿下がお客さんからは見えない位置に隠れていたが、にこにこと微笑みながらリナルーシェ様の様子を見守っているだけだった。


 痛い視線は気のせいだったのか、と首を傾げるが、十五分の間に何度か背中にひりひりと痛い視線を感じた。

 何度目かの痛みで理解した。僕がリナルーシェ様に近づくと背中に痛みを感じるらしい。そして何度エルティミオ殿下の顔を見ても彼はにこにことしているだけ。


 うん。怖いな。


 そして僕は悟った。

 関わり合いにならない方が良いのは、リナルーシェ様ではなくエルティミオ殿下の方だったのだと。


 リナルーシェ様は近寄りがたいような女性ではなかったと知って、僕はときどきリナルーシェ様と会話をするようになった。

 チャンスがあればもう少しお近づきになりたい。エルティミオ殿下との間に割り込みたいわけではない。ただ、もう少し可愛らしい彼女と仲良くなりたいと思った。だから、その際はエルティミオ殿下からの視線にいっそう気を付けるようになった。

ということで、学園時代からエルティミオの執着はチラチラしてました。というお話でした。

この男子学生は見ることはありませんでしたが、男子学生の背中におぞましい視線を送るエルティミオ様の瞳はいつも通りギンと瞳孔が開きまくりだったのかもしれません。


活動報告やあらすじには書いておりますが、電子書籍はR18の『ムーンライトノベルズ版』が書籍化されております。

ジャンルがTL小説になるため、電書サイトのリンクや詳細についてはムーンライトノベルズの活動報告に上げております。お手数ですがそちらをご確認ください。


ちなみにこの男子生徒、なんと…本日からシーモア先行配信の書籍の書き下ろしでも登場しますー!

ぜひ「ああ、あの男子生徒か…!」なんて思いながら書籍の方も読んでいただけると嬉しいです。

WEB版では学園時代から結婚までの流れが駆け足だったので、書籍の方では一度目の人生のエルティミオとリナルーシェが結ばれるまでのムズムズした感じを書き下ろしいたしました。


いやいや、学園時代編じゃなく後日談を読ませてよ、て方もいましたよね…すみません!

本作、上下巻で配信することになったので、

まずは上巻の書き下ろしに合わせたSSを上げたくて…

また下巻の配信の際には本編終了後の後日談のSSを投稿したいと思います。

そちらについては続報をお待ちいただけますと幸いです。


お読みいただきありがとうございました。

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