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27 王宮へ帰る

ごめんなさい。

アンナがどうやって見張りの付けられていた修道院から抜け出してきたのか、という描写をすっぽり抜かしてしまったので、昨夜25話目を加筆しました。

ゲームの裏アイテム『身代わりの人形』という魔法道具を使って見張りの騎士には人形を見張らせていた。という内容を加筆しております。

 王宮へ帰り、部屋で身なりを整えると陛下と王妃様との謁見の時間となり、エルティミオ様が迎えに来てくれた。



「リナルーシェ! 無事でよかったわ」


 王宮から逃げ出した私は罰を課せられることを覚悟して謁見室へと入ったのだが、部屋へと入って第一声で王妃様の声が飛び込んできて驚いた。彼女は涙目で私に駆け寄った。


「リナルーシェ妃、事情はエルティミオからすべて聞いた。エルティミオが『時戻しの宝玉』を使用する前の人生で、そなたは悪意のある者に殺された、と。また、そなたはその時の記憶を有したまま、時が戻ってしまった、とも。本来『時戻しの宝玉』は国政のために使用するものだから、エルティミオがリナルーシェ妃の命を救うために使用したと聞いたときはにわかに信じがたい話であったのだが、エルティミオがドラセナ大公の急逝を予言するなど、エルティミオの推測が悉く当たるものだから、エルティミオが『時戻しの宝玉』を使用したという話は信じざるを得なかった」

「一度目の人生でリナルーシェの死を受け、私が『時戻しの宝玉』の使用を決めたとき、陛下はそれは国政のために使うものだから、となかなか使用の許可を出してくれませんでしたよ? でも、そんななかなか縦に振らない陛下の首に母上は短剣を突き付けて、私がここであなたの首を斬れば、エルティミオは『時戻しの宝玉』を使わなければならなくなりますかね? っておっしゃっていましたが?」


 一度目の人生、嫌な噂に悩む私に王妃様は何度も寄り添ってくれていた。エルティミオ様がアンナ嬢を連れて現れたとき、王妃様は何もしてくれなかったのかと疑問に思っていたが、決して王妃様は何もしてくれなかったわけではなかったらしい。

 一度目の人生でずっと私に味方をしてくれていた王妃様を思い出して私の胸は熱くなった。


 だが、その話を聞いて陛下は「えっ……?」とすごい顔で目を剥いて王妃様の方を向いていた。


「私って結構熱い女だったのね! 陛下? 私が何者かに殺されたときはエルティミオと同じように陛下も『時戻しの宝玉』を使用してくださいね」


 にっこりと陛下に微笑みを向ける王妃様の目はエルティミオ様と同じ目をしており、陛下は小さくブルッと震えていた。そんな様子を見て私の頭には血筋という二文字がよぎった。


 陛下は咳払いをしてから話を戻す。


「エルティミオが『時戻しの宝玉』を使って、そなたを死なせないようにと奔走していたことは知っていた。エルティミオが不在ならば私たちがそなたを守ってやらねばならないところだったのだが、一度目の記憶のせいで王宮から出ていくほどに思い悩んでいたことに気が付かず、申し訳なかった」

「リナルーシェ、今度からエルティミオの不在の時に何かあれば一番に私に相談するのですよ」


 なぜか陛下から謝罪をされ、王妃様からは力強いお言葉をいただけて、私は目を丸くした。


「あ、あの……王宮から無断でいなくなった私はどのような罰を受ければ……」


 ちっとも私を叱責する声が聞こえないので、私は恐る恐る確認をしてみた。


「罰なんてとんでもない! そなたが死という、想像を絶するような経験をした原因が私たちの対応の悪さにあったのであれば、そなたが無事にここへと戻ってきてくれるだけで私たちは十分だ!」


 慌てたような陛下の声に首を傾げる。


「ふふっ。陛下はエルティミオにドラセナ公国へ行く前に、くれぐれもリナルーシェを頼む、と、もしリナルーシェに何かあれば私も後を追う、など散々言われたにも関わらず、あなたが行方不明になってしまったものだから、ずっとあなたの安否を気にしていたのですよ。あなたが見つからないままでは、エルティミオは自国どころか近隣諸国まで滅ぼし兼ねない殺気立った目をしていましたからね」


 なるほど、と思ってちらりとエルティミオ様を見てみたが、彼は悪びれた顔もせず「ルーシェに何かあれば私は生きていけませんから」と平然と言っていた。


 確かに一度目の人生で陛下や王妃様の対応が違っていれば、私が生き残る未来もあったのかもしれないが、それは一度目の人生で出会った陛下や王妃様と私との問題であって、二度目の人生の陛下や王妃様にはその記憶がないので、今お二人にそれを責めるのは違う気がしたので、私は「お心遣いありがとうございます」とお礼だけを述べておいた。



「謁見中に申し訳ございません、緊急で……」


 扉の向こうからカミラの声がした。カミラにはお昼寝中のアルヴィンを任せていたので、少しドキリとした。陛下が「よい」と声を上げるとカミラが「アルヴィン様がお目覚めになりました」とアルヴィンを抱いて部屋へ入室した。

 私はそれが緊急? と、私は目を丸くしたが、王妃様が「アルヴィンが起きたら緊急で知らせるように頼んでおいたのよ」と言ったので、私は表情を戻した。


「本当、かわいい! 早く紹介してくれないかしら」


 王妃様のソワソワとした様子を見て納得した。

 どうやら王妃様の今回の謁見の一番の目的はアルヴィンだったようで、アルヴィンがお昼寝中で謁見室に来られないことを知り、それならば起きたら連れてくるようにと指示をしていたらしい。


「母上。言っておきますが、アルヴィンの一番はリナルーシェで、二番は私ですからね」


 なぜかエルティミオはそう前置きをしてから陛下と王妃様にアルヴィンを紹介した。


「本当、エルティミオそっくりね! かわいらしいわ」

「アルヴィン、国王陛下と王妃殿下よ。ご挨拶できるかしら」


 私はアルヴィンを私の横に立たせて挨拶するよう促した。だが、アルヴィンは怯えた様子で私の足元に隠れてしまう。まだ一歳半を過ぎたところなので、人見知りがあっても仕方がない。


「アルヴィン……あなたのおじい様とおばあ様ですよ。仲良くしましょうね」


 王妃様はアルヴィンに少し近づいてしゃがみ込んで視線を合わせてそう言った。するとアルヴィンは私のスカートを掴んで少しだけ顔を覗かせて小さな声で「じじ?」「ばば?」と声を出した。

 みんなその小さな声を聴き洩らさなかった。


 陛下も王妃様もパアァッと輝くような明るい顔をして「そうよ! じぃじとばぁばよ!」と歓喜の声を上げ、対照的にエルティミオ様はズーンと物凄く暗いオーラを発しながら「まだ私もパパと呼んでもらっていないのに」とブツブツ呟いていた。



     ◇



 結局私はなんのお咎めもないらしい。エルティミオ様が事前に陛下や王妃様へしっかりと言い含めておいたという感じがすごかった。

 私が王宮へ戻るためのシナリオもちゃんと出来上がっていた。私は妊娠中から体調を崩しがちで空気の良い地域で静養しており、良くなって来たので医師から王都へ戻る許可が出たという体で王宮へ戻ることになった。アルヴィンの存在についても、生まれてしばらくは身体が弱く生きながらえることができるか分からなかったため、存在を秘匿としており、成長とともに強くなって来たので私と一緒に王宮へと暮らしを移動させることにした、と公表することになった。


「リナルーシェさまぁー……! よくぞご無事でー……」


 大泣きで抱きついてきたのは侍女のナタリーだった。彼女は自分が付いていながら仕える主人が誘拐されてしまったとかなり悔やんでいたらしい。

 ナタリーには詳しい事情は説明できないが、心配をかけてしまったことは誠心誠意謝罪した。彼女は私が無事なら何でも良いと言ってくれて、彼女の優しさにまた胸を打たれた。

 そして「こんなかわいらしい王子様をおひとりで育てていたなんてずるいです! 私にもお世話をさせてください!」と頬を膨らませており、相変わらず明るい様子の彼女に私は笑ってしまった。


 その後、エルティミオ様と一緒にアルヴィンを連れてステファニア公爵家にも行ってきた。

 エルティミオ様は上手く『時戻しの宝玉』については言及を避けながら、悪意を持つ者に私が狙われていたせいで、私はその者から逃げながらひっそりと隠れて生活をしていた説明した。

 だが、さすがに父と母には相談をしなかったことを叱られた。


「私たちはいつだってお前の味方なんだ。一人で苦労を背負い込むんじゃない」


 父がそう言うと、母も兄も私に優しい目を向けて、うんと頷くものだから、私は耐え切れずに泣き出してしまった。それから、父と母と兄にアルヴィンを紹介して、彼らは今度アルヴィンにおもちゃと絵本を届けると言ってくれた。



     ◇



 王宮生活はどうなるかとびくびくしていたのだが、エルティミオ様の根回しは完璧で、私に厳しい目を向ける人は誰もいなかった。


 「お身体が回復されて何よりです」と私のことを気遣ったような声を掛けられるとものすごく恐縮してしまう。

 だが、私は嘘をついてごめんなさい、と思うのであれば、これからは王太子妃としての公務をしっかり行い挽回しようと意志を強く持つことにした。



「アンナ・モーブに会うなんて反対だ!」


 私はどうしてもアンナ嬢のことが気になりエルティミオ様に彼女に会いたいと話をした。


「あの女はもうすぐ処刑となる。共犯者の方はまだ見つかっていないが、共犯者は君の言うように金での繋がりしかなさそうだから、あの女さえいなくなれば君の大きな憂いはなくなるんだ」

「でも、彼女の行動の動機がいまいちよくわからないのです」


 彼女は騎士団での取り調べでも「リナルーシェが産んだ子は王太子の子どもではない」と何度も言っている。だが、エルティミオ様の根回しのお陰で私の不貞を疑う者は誰もおらず、念のためベンジャミン先生にもアルヴィン出産時のカルテの提出をお願いし、私は自分でも身の潔白を証明した。

 そもそもエルティミオ様そっくりなアルヴィンの存在自体がエルティミオ様との血のつながりを証明しているので、誰もアンナ嬢の発言など信じていない。


 なぜ彼女は頑なにアルヴィンをエルティミオ様の子どもと認めないのか分からない。

 「私が彼と結ばれて、エルティミオ様の子を産む予定だったのに、リナルーシェが邪魔をしたんだ」と何度か発言しているようなので、彼女がエルティミオ様に懸想していたのは間違いなさそうなのだが、エルティミオ様は今まで彼女と関わったことはないと言う。

 彼女は私に対しても「お久しぶりです」と言ったのだが、私も彼女と関わったことはなかったと思う。

 だが、彼女自身が自分はモブ令嬢だと言っていたので、気付かないところで関わっていたのかも知れない。


「エルティミオ様にも説明したように彼女も私と同じ転生者……この世界に生まれる前の記憶を持っているようなので、私が彼女と会話することで、わかることもあるかもしれません。人を処刑するのに真相がわからないまま事を進めるのは良くないと思うのです」


 私がエルティミオ様に真剣に伝えるとエルティミオ様は難しい顔をしてから少し表情を緩めて「そうだね」と言う。


「私は君の憂いを晴らしたいとばかり考えていたが、確かに真相をわからないままにしては本当の憂いが晴れたとは言えないかもしれない。わかった。アンナ・モーブに会いに行こう。ただし、何をされるか分からないから、私も一緒に行くからね」

「はい。エルティミオ様が一緒の方が心強いです」


 こうして私たちはアンナ嬢へ会いに行くことにした。

多分あと二話で完結です…!

もう少しお付き合いいただけると幸いです。

お読みいただきありがとうございました。

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