表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/32

19 ならず者

「まーまっ?」

「アルヴィン……しー、よ」

「しー?」


 顔が見えないのでアルヴィンがどんな表情をしているのか分からないが、きっとこの状況を不思議に思っているのだろう。


 町の方を覗いてみると騎士の一人がこちらを見た気がして私はまた走り出す。


 逃げないと……! 早く……遠くへ……!


 森の奥へ奥へと走る。もつれて転びそうになりながらも必死に奥へと逃げる。捕まったらまた地下牢に入れられる。いやだ、怖い。頭の中ではそればかりがぐるぐるする。


 町からはかなり離れたと思い、私は少し足を緩める。すると頭にぽつりと冷たいものが当たる。


「雨……?」


 ぽつぽつと雨が降り出し、私は慌てて見つけた洞窟の中へと入る。

 立ち止まって少し休憩する。疲れがすごい。ストレスによるものも多大にあるが、それ以外のものもある。


「魔力の消費量がすごい……」


 ――『その魔法道具は魔力の消費量が大きいから、長時間の使用は不向きだ』


 私はウォーレンの言葉を思い出す。

 ウォーレンは私とウォーレンと二人を王宮から逃げ出す間ずっとこの魔法道具を使用していたから、私もそれくらいの時間は使用できるかと思い込んでいた。


「さすが攻略キャラ……保有する魔力量も悪役令嬢とは全然違うのね……」


 洞窟の中でハァハァと息を吐く。

 仕方ないのでここで一度、魔法道具の効果を解除しようと洞窟の奥へと入り周りの様子を見る。

 そこで私は自分の失敗に気付く。


 ――しまった……! ここ、ただの洞窟ではないわ……


 洞窟の奥は誰かが生活でもしているようなテーブルや椅子が置いてあり、武器もたくさん転がっている。そして食べ物や酒瓶など飲み食いした形跡もあり、生活感を感じる。

 町の割とすぐ近くにこんな場所があることにも驚いたのだが、ここに長居しては非常に危ない。

 私は慌てて洞窟の外に出ようと急ぐ。


 すると明らかにならず者という風貌の男たちが三人洞窟へとやってくる。


「はあー、今日は全然だめだったじゃねぇか」

「ほんと、こんなんじゃ女も買えねぇよ。おめぇがへまやったせいだぜ」

「おれのせいじゃねぇよ!」


 そんなことを言いながら身なりの汚い男三人は洞窟の奥へと進む。狭い洞窟の通路に三人の男たちが立ちはだかり、出口が塞がれてしまう。

 なんとか間を縫ってこの場から抜け出したいのだが、下手に動いてぶつかるとそれだけで映像が歪んで魔法道具の効果は切れてしまう。


 男たちはどこかから強奪でもしてきたのか、ならず者の見た目にはそぐわない上品な鞄や上着の中から財布を取り出し、中身のお金だけを抜いていく。そしてその鞄や上着はポイッと洞窟の隅へと放り投げる。


「まぁこんなしけた金だが仕方ねえ、酒でも買いに行くか」

「ああ、そうだな!」


 どうやら男たちはまたすぐにここから出ていくようだ。


 ――お願い……早く行って……!


 祈るようにアルヴィンをしっかり抱きかかえて目をギュッと瞑る。

 だが、アルヴィンはこの洞窟の嫌な雰囲気を感じ取ったのか「ふぇぇ……」と泣き出してしまった。


「ん、なんだ? 突然赤ん坊の泣き声が……?」


 ならず者たちは声のする私たちの方へと近づいてくる。

 まずい! 私は仕方なくならず者たちの間をすり抜けようとした。だが……


「うわぁぁぁん! ふえぇぇぇん!」

「あっ!」


 アルヴィンが強く泣き出してしまう。そして腕をバタバタさせた拍子にアルヴィンの腕がならず者の一人に当たってしまい、私とアルヴィンの姿が現れてしまった。


「な、なんだ!? 女と子どもが現れたぞ!?」


 まずい。

 私は慌ててもう一度魔力を込めて私とアルヴィンの姿を消そうとした。


 ――だめだ……! 魔力切れだわ……


「おい! この女いつからここにいたんだ? 子持ち? こんな女早くつまみ出せ!」

「まぁ待て! おい、ねぇちゃん、人んち勝手に入ってんじゃねぇよ! 不法侵入だ、金出しな!」


 男はポケットからナイフを取り出し、私に向かって突き付ける。


「や、やめて……勝手に入ってしまったことは謝りますから……!」


 私はアルヴィンを抱いて後退りする。アルヴィンはまだ大きな声で泣いている。


「謝罪なんてどーでもいいんだよ! 子ども、怪我されたくなかったら早く金出しな!」


 ナイフの刃の方をこちらに向けて男はじりじりと近づいてくる。


「お、お金は……持っていません……」


 私は青い顔でふるふると首を振る。

 本当のことだ。慌てて家を出てきたので、お金など持っていなかった。


「ちっ、この女本当に手ぶらだ! 使えねー女!」


 男はつまらなさそうな顔で私を見る。だがすぐに「おっ」と明るい顔をする。


「良いもん持ってんじゃねぇか!」


 男はナイフを私の首元に当てたかと思えば、首に掛けられていたネックレスをナイフで引っ張る。


「そ、それは……!」


 エルティミオ様がくれたネックレス。高価なものでたくさんの宝石が付いている。男が私の首からぶちんと引きちぎり、手に取ったネックレスを見て下卑た笑いを見せる。

 アルヴィンはずっとギャーギャー泣いている。


「あっ……!」

「くくっ! これは良い金になるぞ!」


 再びちぎれてしまったネックレスを見て私の胸がツキリと痛む。


「はっ、ちょうどいいや。それ売った金で女買いにいこーぜ!」

「おい! ねぇちゃん、不法侵入したことはこれで許してやるよ。もう出てっていいぞ」


 エルティミオ様からのネックレスを失うことでアルヴィンを守れるのであれば、私はあとは急いでここから立ち去るだけだ。もともと一度は手放したもの。未練などない。

 自身にそう言い聞かせ、私は泣き叫ぶアルヴィンを抱いたままそそくさと洞窟を出ようとした。

 だが、すぐに両肩を強く掴まれる。


「まあ、待てよ。女を解放してこのまま憲兵に駆け込まないなんて保証はない」


 私の身体がぎくりと強張る。


「良く見てみろ。この女、子持ちだけどかなりの上玉だせ。国外に売り飛ばせばそんなネックレスとは比にならないほど良い金になるぞ」


 掴まれた肩をドンと押されて男たちの中心に立たされる。にやにやと私を見る男たちの視線がさらに気持ち悪いものに変わり、私の顔は引き攣り、背中には嫌な汗が伝う。

 先ほどネックレスを引きちぎった男がネックレスはすぐそばのテーブルに置いて、ナイフで私の顎を持ち上げる。私は恐怖で身体を揺らすが、下手に動くと刃が当たる。


「や、やめて……憲兵になんて行ったりしないから……」

「ひひっ、お前本当悪い奴だな。確かに、良い身体してやがる。お前、こいつ持ってろよ! どうせ売っぱらうなら味見してからにしようぜ。女買いに行く手間も省ける」


 男は私の言葉など聞きもせず、汚らしく舌なめずりをしてからアルヴィンを私から取り上げる。


「アルヴィン!」


 アルヴィンは私の腕の中から離され、別の男の腕に渡る。そして無理やり立たされ「んぎゃーっ!」と強く大きく泣く。そして男がアルヴィンの両腕を掴んで、アルヴィンは私に近づけられないようにされてしまう。


「はあ! なんでおれは子守りなんだよ!」

「今日はお前がへましたんだろ! お前は一番最後だ」

「くそっ! うるせーガキだな! 早くしろよ!」


 私がアルヴィンに腕を伸ばすと、別の男が後ろから私の身体を押さえ込む。


「いやっ! やめて! アルヴィン!!」

「黙れって、すぐによくしてやるから!」


 気持ち悪い無精髭の男の顔が近づいて、スンスンと首筋の匂いを嗅いでくる。


「ひぃっ……!」

「ああ、女の匂いだ。たまんねぇなぁ!」


 首元で男の不快な息遣いを感じる。匂いも臭い。


 ――いやだ……気持ち悪い……


 私は顔を後ろに引くが、身体を押さえつけられていて逃げられない。


 アルヴィンを見るとギャーギャー泣いてアルヴィンを掴む男は私に見せつけるようにアルヴィンにナイフを当てている。だめだ。我慢するしかない。私はぐっと歯を食いしばる。


 必死に堪えるが徐々に近づく男の手に、私の目にはじわりと涙が滲んでくる。


 やっぱり、いや……怖い。いやだ……。

 エルティミオ様……助けて……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ