1 二度目の初夜
タイトルでお察しの通り、いっぱい詰め込んだので設定負けしないように頑張ります!
詰め込みすぎでご都合主義がもりもりですが、スルー出来ない場合はブラバをお願いします。
温もりに包まれて久しぶりに心地よく眠ることができた。
ずっと硬く冷たい地べたでしか眠らせてもらえなかったのに、今は柔らかな寝具と温かい人の温もりを感じる。
ここは天国だろうか……。私はゆっくりと目を開けた。
「〜〜っ……!?」
隣には上半身裸で私をがっちり抱き込んで眠る美形の男。驚きすぎて息が止まるかと思った。
――はっ……? なんでっ!!?
私は大きく目を見開いて震えた。
そんな私の気配に寝ていた彼も目を開ける。
「うーん……あ、起きた? 身体、大丈夫?」
身体?
冷え切っていた身体は温かいし、空腹だったお腹は満たされている。あらぬ場所はなぜか痛いが、それ以外はすこぶる調子がいい。
だけど私は素っ裸。
「だ、大丈夫ではありません……! 着るものをください……」
「もう服を着てしまうの? 初夜くらいは君の肌の温もりを感じながら眠りたいんだけど」
「しょっ……!?」
初夜!?
彼の言っていることが理解できない。彼との初夜なんて二年も前に済んでいる。
包まっているリネンを覗くと下のシーツには出血がわずかに付いている。一体どうなっているのだろうか。
「んんっ!?」
いきなり唇を重ねられて心臓が跳ねる。
「ねえ、何考えてるの?」
仄暗い声にぎくりとする。
何って……
「私のこと? 王太子妃としての今後のこと? それとも──」
「それとも」という言葉を発したとき、彼の顔から色が消え、虚ろな目をして私を見る。
「──他の男のこと……?」
何を考えているのか分からない視線を向けられ私はぶるりと震える。
これ、選択肢を間違えたらまずいやつな気がする……。
「エ、エル様のことを、考えたくてっ!」
「そう? ならいいけど……ああ、少し出血しちゃっているね。痛かった? ごめんね、私も余裕がなくて。シーツ替えてもらおうか」
私がリネンを捲っていたので、彼もまたそこを覗き込んだ。
「痛くて可哀そうだな、と思うけど、君の初めてを私がもらったと思うと感動するよ」
「初めて……?」
嬉しそうに言われて思わず声が出た。
「初めてではなかったの? 私以外に君の身体を知る男が……?」
嬉しそうだった顔は一気に暗くなり、胡乱な表情に変わる。
「エ、エル様だけですっ! エル様以外とこのようなことしたことなんてありませんっ!」
私は冷や汗を搔きながら慌てて返事をした。
「だよね。もしいたらその男を殺しに行かないといけないところだったよ」
――こ、ころす…………
彼の答えに私は青ざめる。すぐに柔らかな表情に変わったが目の奥は笑っていなくて、本当に実行し兼ねないその表情に寒気が走る。
私のエル様だけというのは噓ではない。初めてか、と言われるとノーなわけだが。
私は慌てて辺りを確認した。寝台のところどころに真っ赤な薔薇の花びらが落ちており、寝台の下も同様に薔薇の花びらが落ちていた。
そして部屋の壁には私が結婚式の日に着たウエディングドレスが掛かっている。
この国の結婚初夜は壁にその日着たウエディングドレスを掛けて、寝台に薔薇の花びらを散りばめるという演出が流行している。それを行うのは結婚式当日の夜だけ。
彼の言動とこの部屋の様子、この状況…………。
――も、もしかして、わたし……
「キョロキョロしてどうしたの? 何か気になることでも? あ……もしかして……?」
彼は私の頬をすーっと撫でて、顎を軽く掴む。
「私ともっと愛し合いたかった? ルーシェ……?」
私はひゅうっと息を飲み込んだ。
────ルーシェ……
彼の口から最後に私の名前を聞いたのは、彼の手によって地下牢に閉じ込められたとき。
『ここで自分のしたことを悔いて死んでいけ。ルーシェ……』
別人のような冷たい表情に、冷めた声で言われた。彼の隣には私ではない別の女性がピタリと寄り添い、彼は彼女の腰を抱いていた。
彼女の腕の中には母親と引き離されてわんわんと泣く私と彼との間にできた幼い我が子。
私は地下牢に幽閉されて衰弱して死んでいった。
そう。私はあの地下牢で間違いなく死んだ。可愛い我が子を取り上げられたときの絶望は忘れられない。
ならば何故死んだはずの私は、死ぬことになった元凶であるこの国の王太子エルティミオ様との結婚初夜を再び行ったのだろうか……
――もしかして……結婚初夜まで時が巻き戻っている…………?
「ルーシェ?」
エルティミオ様が私の顔を覗き込む。
地下牢で聞いた声とは別人のように優しい声。だが間違いなく同じ声。
私の顔を覗く瞳は心配そうな色をしているが、その瞳の奥はもっと残酷な色をしているかもしれない。
そう思うと背筋が凍りつくように寒くなり、ガタガタと身体が震え出す。
あの時私を地下牢に閉じ込めるように指示した彼が、今何を考えているのか全く分からなくて怖い。
「え、大丈夫?」
彼が私の身体を優しく包み込んだとき……
――だ、大丈夫じゃない。本当に……無理っ…………!!
全身の力が抜けて、キャパオーバーした私の視界は真っ暗になり「ルーシェ!」と私の名前を呼ぶ彼の声を最後に意識が遠のいていった。
今日と明日は2話更新、明後日からはストックが尽きるまでは1日1話更新予定。
できるだけ止まらないよう頑張ります!
お読みいただきありがとうございました。