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人の役に立つ人になるとザイカは言った

 村に一軒だけあるパン屋は繁盛していた。ひっきりなしに客が出入りしている。店外から見る限りでも店員の中に若い娘は何人もいる。


「まいったな。誰が『パン屋の娘』か分からない」僕は頭を掻きつつ言った。


「訊けばいいだろう」とザイカはもっともな事を言った。


「デリケートな話題だからな。他の人には知られたくないかもしれないし」


『出番かね』といつのまに戻っていたコーシカが僕の耳元で囁く。


『すまない。頼む』


『ガッテン!』


 コーシカは店の中に入って行った。


「ここに立っていても何の問題も解決しないと思うけれど」とザイカが不安そうに訊いてきた。


 僕は無神経だったと謝りつつ、コーシカにお願いしたと伝えた。


「お願い? その『お友達』は何ができるの?」


「彼女は生きている人間の記憶を覗き見る事ができる」


「彼女‥‥。アポスに憑いているオバケって女だったの?」


「言ってなかった?」


「聞いてない!」


 僕は何故かご機嫌斜めなザイカにコーシカの能力を説明した。

「相手に彼女が聞きたい事を話しかけると、その相手は頭の中でそれに答えてしまう。それを彼女が聞き取る」


「なにそれ、怖い! 隠し事なんてできないじゃない!」


「しかも相手は彼女に訊かれた事もそれを答えた事も無自覚なんだ」


「私にも何か訊いた?」恐る恐るザイカは訊いてきた。


「そんな事しないよ。失礼だろう? 今回は不測の事態だからね。ちなみに能力名は『天使の詩』だよ。僕が名付けた」


「なにそれダサい」ザイカは悪気なく答えた。


 この分では僕の能力名も言わない方がいいみたいだ。


『分かったよ!』とコーシカはご機嫌で飛んできた。


 コーシカは僕の役にたつ事をするのが好きだった。『死者は基本的に暇なんです』とそれについて尋ねた時にコーシカは胸を張って答えた。


 その時の表情のままにコーシカはパン屋の娘を指差した。『あの一番地味な子!』


 失礼な物言いだが僕しか聞こえていない。


 その地味な子を店外に呼び出すのはザイカの役目だった。


「なんで私が」


「僕が呼び出すと色々問題だろう」


「それもそうね」と不意に納得したという顔つきでザイカは店の中に入っていった。


 店の外に待機した僕を見てパン屋の娘は警戒した。


「すまない。伝えたい事があって」


「何ですか。仕事があるので手短にお願いします」


「アルケは死んだ」


「え」と一言呟いた後に顔を手で覆い彼女は崩れ落ちた。



「アルケは幼馴染で将来を誓い合っていました。立身出世の為に首都シンアルまで出かけたけれどある日突然手紙が届かなくなって」


 僕の能力とこれまでの経緯を伝えるとパン屋の娘は店の中に案内して昼飯をご馳走してくれた。


「アルケは良くない人たちとも付き合っていました。お金を貯める為と言っていましたが憲兵に追われていると知ってからは『村に帰りたい』としきりに手紙で伝えてきました」


 おそらくその過程でモンスターになってタラカーンに狩られたのだろう。


「でもアルケは最後まであなたの事を考えていた。だから僕に伝言を頼んだ」


「はい」と言ってパン屋の娘は晴れやかに答えた。「ありがとう」



「あのパン美味しかった」


 ザイカは村を出てから呟いた。


「そうだね」


「今まで食べた中で一番」


「そうかもしれないね」


「私は何もしていないけれど人の役に立つとパンが美味しくなると知った」


『私も味わいたかったなあ』とコーシカが合いの手を入れた。


『いつか僕の体を乗っ取ってみるか? そうすれば味も分かるだろう』僕は思いつきをコーシカに告げた。


『そんな事できるかなあ』


「決めた!」と唐突にザイカは叫んだ。「私、人の役に立つ人になる!」


「応援するよ」


 なぜザイカがそんな事を言い出したのか、そう言い出す過程を知りたくもあったがそれは彼女が自分から言い出すのを待つ事にした。


『何なら[天使の詩]で訊いてみる?』コーシカは半ば冗談で言った。


 僕は首をふりつつ『もし訊くとしても自分で訊くよ』と答えた。


『へえ、彼女の気持ちを大事にするんだ』とコーシカはジト目で言った。



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