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女体棺桶

 宝石はあえて放置した。運が良ければ村人が見つけることもあるだろう。届け出ると新たなトラブルになりかねない。


『報償金でウハウハだしね!』コーシカは珍しく下品な表現をして言った。


 ドラゴン退治した証拠が必要だろうと考えた挙句、ユランに再びドラゴンの姿になってもらい、爪の端を折ってもらった。


 ギルドではドラゴンは逃げ帰ったので退治とは言わないとケチをつけられ報償金は半分になった。半年経って再び現れなければ残りの半分も渡すと確約された。


 ユランも含めて一気にパーティーのメンバーが増えた。コーシカの名義も連ねた。受付で見えない相手を登録したので不思議な顔つきをされた。登録料の無駄と思われたのかもしれない。


「ドラゴン退治しただと!」


 ギルドでタラカーンパーティーの大剣使い・ムナガノーシカが僕を見つけて叫んだ。


「何かの間違いだ。アポスにそんな能力はない!」


 確かに僕が倒したわけではない。何なら当の本人であるユランはすぐそばにいる。


「おい!」と叫んでムナガノーシカはぼくの肩を叩いた。「どんな詐欺を働いた!」


「言う必要はない。僕はもう君たちとは違うパーティーだ」


「なんだと!」激昂したムナガノーシカは僕に掴みかかる。


「ご主人様のピンチ!」


 そう発したユランはムナガノーシカの手をねじり上げてそのまま投げ飛ばした。大男のムナガノーシカは何が起きたのか分からず起き上がって背中を抑えている。


 ユランは自分の手を見て「あれ?」と呟いた。


「なんだコイツは!」ムナガノーシカはユランを指差しなじり始めた。「田舎娘の分際で俺を投げ飛ばしやがったな⁉︎」


 支離滅裂だった。ユランに詰め寄ろうとするムナガノーシカの前に立ち僕は言い放つ。


「僕のパーティーメンバーに手は出させない」


「勘違いするな。その娘が怪力なのは認める。だがお前はすばしこさだけが自慢の非力軟弱男だろうが!」


「その通りだ」僕は認めた。「ならば今度勝負をしようか? 自信があるのだろう?」


 ムナガノーシカは立ち上がり、僕を見下ろして言った。「面白い。三日後に俺は遠征から帰ってくる。その時に闘技場で徒手空拳の勝負をしてやる。勿論ギャラリー付きでな。勝った方が入場料の取り分を総取りだ」


 このギルドでは決闘の申請をすれば賭けの対象となりギャラリー付きのイベントになる。

 ギルド側が賭けの儲けを取り、出場者は入場料を取り分とするのが恒例だ。


「いいだろう」


 僕が受諾するとムナガノーシカは唾を地面に吐いて立ち去った。


『どうするの? 勝てないよ!』とコーシカは心配そうに手足をバタバタと揺らせている。


『ハッキリ言うなあ。これでも鍛錬は続けているんだよ。武器を使わないなら充分勝ち目はある』


「身長は勿論だけど、相手は体重も倍くらいあるように見える」ザイカは腕を組んで僕の体を舐め回すように見ている。「体術の心得はあるの?」


「実は師匠がいなかったからほぼ我流かな」僕は正直に答えた。


「我流では勝てない。ちょっとついてきて」


 ザイカは僕を町外れにある草原に誘った。ユランを僕の前に立たせてから言った。「ユランを殴ってみて」


「女の子にそんなこと出来ないよ!」


「大丈夫、当たらないから」とザイカは冷静に言った。


「はい、当たりません〜」ユランもまたフワフワとした口調ながらハッキリと言った。


 僕は仕方なく右の拳をユランの顔面に目掛けて打ち込む。

 次の瞬間、僕は草原に寝転ばされていた。「あれ?」


 思い出すとムナガノーシカもこの手の技で倒されていたではないか。


「モンスターからすると人間の動きはだいぶ遅い。それと、ユランはどこの出身だ?」


「『水み国』です〜」とユランは答えた。


「水み国」といえば農業に特化した長閑な国だ。


「やはりか。あの国はシンアルのように魔法や武器はさほど発達していない。代わりに武道という肉体のみの技が盛んだ。私も水み国の人から基本的な事は習ったが多分ユランには敵わないな」


「そんな事ないですよ〜」ユランは顔を赤らめて謙遜した。


 ドラゴンの体力と武道の技を以ってすれば確かに素手で人間が敵う道理はない。


「だがここでユランに手解きしてもらっても三日では到底身につくものではない」とザイカは断言する。


 確かにと思いつつも、こと戦闘に関してはザイカのいつものポンコツっぷりがなりを潜めることに新鮮な驚きを感じていた。


「そこで提案がある。ここから一日ほど馬車で向かった先は隣国である『ゲヘナ』だ。そこに『試練の洞』という場所がある。そこに向かおう思うが構わないかな?」


 シンアルの外れにあるこの町は確かにゲヘナにほど近い。ただゲヘナという国は魔術が盛んな、違う種族の暮らす国だ。


「確かに危険は伴う。現に天罰執行者は主にゲヘナの出身だ。もちろん私も」


『ちなみに私もゲヘナ出身だよ』コーシカが追従した。そうなのか。


「種族の違いは感じないな」僕はなんとなく思った事を言った。


「シンアルにはない独自の文化があるんだ。体の何処かに必ず刺青がある。昔は顔や腕など見える所に彫ったものだが、最近は衣服で隠された部分に掘る。その刺青があると死んでも悪霊にならないと言われているんだ」


『そうなのか?』僕はコーシカに訊いた。


『私が悪霊に見える?』


「悪霊っていうのは周りも困るが本人が一番不幸になる。そういう意味では幸運になるおまじないみたいなものね」


 ザイカの講釈につい聞き入ってしまった。


「私も刺青を入れたいです〜」ユランは感動して言った。


「悪霊にはなっていないけれどモンスターにはなったからなあ」ザイカはそう言ってから表情が沈んだ。


 おそらくユランをモンスターにしたのはザイカと同じ天罰執行者だ。そのことを恥じているのかもしれない。


「あの、ザイカさんのせいじゃないですから! むしろ私を人間に戻してくれたのはザイカさんじゃないですか!」


 ユランの力強い言葉にザイカは顔を上げて微笑んだ。「初めて褒められた」


「そうだよ。ザイカは凄いんだ!」僕もユランの言葉を後押しした。


 えへへ、と小さく喜んでからザイカは続けた。

「ともかく、その『試練の洞』では何かが起きる。そこに入った人は大体十年修行したような成果があると言われているんだ」


「具体的にその『試練の洞』には何があるんだ?」僕はザイカに訊いた。


「さあ? 知らない」


「え?」


「その『試練の洞』から出てきた者は中で起きた事を話してはいけないの。話すと洞で得たものを失うらしいの」


 まるで神話のような内容だ。


「ザイカはそこに入ったのか?」


「私は、その‥‥怖くて」ザイカは目を逸らして言った。


『賭けだね』コーシカは呑気に言った。


『賭けるしかないか』


 聞けば「試練の洞」には入った人はわりにすぐ出てくるとか。


「だからまあ、行ってすぐ帰るような展開になると思う」とザイカは物言いたげに言った。


「お腹が空きました〜」とユランが言った。


 そういえばそろそろ日も暮れる。ザイカも腹が減っていたのだろう。今から出発するのも無理な話だ。


 町に戻り僕らは食堂へ行った。たらふく食べてから食堂の二階にある宿屋に通してもらった。


「ここしか空いてなくてねえ」と食堂兼宿屋の主人であるおばさんが申し訳なさそうに言った。


 そこは大きなキングサイズのベッドが一つの部屋とバスルームがあるだけの部屋だった。


『これで四人で寝るとなるとアポスは捕まる』とコーシカが呟く。自分も人数に入れているらしい。



「僕はベッドの下でいいから」と内心焦りつつ言って横になる準備をした。


「明日は馬車での移動だ。疲れを残すのは良くない」とザイカが明後日の方向を向きながら言った。


「一緒に寝たいです〜」とユランが腕を引っ張る。


「え? ちょっと待って!」


 ユランの怪力により僕はベッドの中央に放り投げられた。すぐさまユランは隣に陣取る。気がつけばその反対側に寝転んだザイカの背中が見えた。


『私は上で我慢してあげる』コーシカが僕の上にうつ伏せで寝そべった。幽霊とはいえ顔が胸の上にあるのはさすがに気まずい。


『いつもみたいに僕の体に入ればいいだろう?』


『皆が寝たらね』


 女体棺桶とでもいえばいいのか。寝返りすらうてない状況になった。

 それでも一日で起きた様々な出来事が僕の眠りを誘った。

 


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