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9.『伝説が多すぎる』part.1

※長くなったので分割します。

「さすがのきょういくがかりどのも、とうとう()()()のおさめどきじゃな!」


「あら、こういう話は初々しくていいわね」



 興奮してチョコまみれのアイテールちゃんと、気怠げな昼下がりの魅力を醸し出すヒュパティアさんに散々揶揄われた挙句、私は勇者様との関係を進めるべきか悩んでいた。何といっても衝動的になれば、心のコアに刻まれた『暴れない』っていう禁則ですら、軽々破ってしまう超パワーの持ち主である。うっかり痴話喧嘩でもすれば、即死の可能性だって否めない。そこそこ強そうだった暗黒騎士さんも一瞬でKOだし……唯一安心できる家の中とかで、怯えながら暮らすのは絶対嫌だ。


 ふと、こんなときに経験者は語る的なアドバイスをくれるはずの、ホムンクルス姫がおとなしいことに気づいた。暗黒海のお馬鹿悪魔3人をしばいて魔国と契約させたので、チャームの心配は無くなったと公爵領に知らせを送って、今はすっかり通常モードに戻ったと思っていたけど……どうしちゃったのかな??



「大丈夫ですか?」


「わたくし……あんな簡単に魅了されてしまって、自分が信じられませんの」



 私のアドバイスを真に受けたのか、公爵様は姫にものすごく対魔アクセを贈りまくったらしい。公爵領から帰ってきたホムンクルス姫は、信じられない数の腕輪とネックレスを重ね付けしていて、魔国のファッションとは到底思えないエキゾチックな雰囲気を醸し出していた。


 きっと人一倍貞操観念が厳しいお姫様だし、チャームにかかったからとはいえ、自分の心変わりが許せないのかもしれない。そんな自分が偉そうに私にアドバイスするのも筋違いだとか思っていそうだ。



「仕方ありませんよ、あのチャームは桁違いの強さだったって、執事さんも呆れてましたし」


「まーやーくどのがそこまでいうとは……あんこくおうじもなかなかのものよな」


「そういえば、暗黒海の皆さんは恋人募集中だそうです。王女様、誰か気になる人いませんでした?」


「われはひかりのものゆえ、やみはあまりとくいではない」


「そっかー残念!」



 定番の小芝居でホムンクルス姫に笑顔が戻ったのを見て、私はほっと胸を撫でおろした。


 ほかに心配事があると、自分の問題なんてちっぽけに見えてくる。


 好きだと言われてもピンと来てないから、すぐ返事もできないのかな。


 だいたい好きってなんだろう。そんなあやふやな、一瞬の感情みたいな。次の瞬間には、もう嫌いになっていそうなのに。


 自己肯定感の低い友達は、よく「好きと言われたいから頑張る」みたいなこと言ってたけど……そこそこ恵まれた環境で育った私は「好き」という言葉に違う意味を見出してしまう。


 ———お母さんはあなたのこと好きなのよ……だからいうこと聞きなさい。


 ———緑ちゃんの絵、すごく好き……だから私にもちょうだい。


 ———お前が好きだ……だからそばにいてくれ。


 私にとっての「好き」って、命令形の前につけて罪悪感をなくす言葉って気がするんだよね。


 いやもちろん、超可愛いものを見て「好きいぃぃぃ♡」とかなってたりもするんだけど、わざわざ相手に伝える好きって言葉には、やっぱり裏の意味を感じてしまう。心を縛る呪文のような。


 好きなんだから、自分のために融通を利かせてくれ、みたいな。


 好きだから、自分のものになってほしい何て言われても……なんか微妙に納得いかない。


 私も勇者様のことが好きだったら、こんなに悩んだりしないのかな……?


 ロンゲラップさんのことが好きなのも、やっぱり振り向いてほしいって気持ちがあるのだろうか?


 両想いの人たちって、悩んだりすることあるのかな……?


 ……わからん。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「どうだい! 設計図どおりだろ!」



 魔国の大工さんが、胸を張って指で鼻を(こす)る。


 それもそのはず、温泉施設はかなりの出来だった。


 建築関係のチェックをお任せしている管理責任者のマルパッセさんに付いてきたお爺さ……ヴォイニッチさんが、かなり興味津々で出来立ての温泉を見回っていた。マルパッセさんのOKが出ると、さっそく温泉を稼働させる。



「ヒーちゃん、お願い!」


「キュー!」



 浴槽部分にお湯が流れてきて、湿気と熱気で一気に温泉の雰囲気になった。設計上の理由で混浴になってしまったけど、基本貸切になると思うので、ご夫婦やカップルが水入らずで使っていただければいいのではないか。洗い場には風魔法と水魔法を掛け合わせたシャワーもついてて、わりと現代風になってたりもする。サウナと水風呂もあるので、充実した温泉タイムにどっぷり浸かれる予定。



「なんと……! これが地竜の恩寵か?!」



 ヒトカゲのヒーちゃんです……ヴォイニッチお爺さんは、ヒトカゲの存在を知ってかなり興奮していた。ヒーちゃんの小屋の前で餌をあげていたら、水質チェックを終えたマルパッセさんと一緒に、ヴォイニッチさんもヒトカゲを見学したいとやってきた。さすがロンゲラップさんの弟子というか、何にでも興味津々だ。



「ヒトカゲを1匹、所望したいのだがいいじゃろうか?」


「え、どうでしょう……外来生物とかになっちゃわないかな?」


「大丈夫でしょう。ヒトカゲはどこにでも生息している丈夫な種ですし」


「ありがたや! この竜こそが神国メガラニカ復活には必要なんじゃよ!」


「メガラニカ復活させるんですか?」


「王にその気は無いようじゃったが、わしはあの地が好きなのでな」


「土地開発って結構楽しいですよね、応援しますよ!」


「うむ。そういえば娘……おぬし師匠と親しそうだったな? どういう関係だ?」



 関係……と改めて言われると、かなり複雑な気分になる。私が一方的にちょっかいをかけている関係です。なんて、ロンゲラップさんのこと大好きっぽいお弟子さんには言えないよなあ……



「え? と、友達……です」


「ミドヴェルト君は、師の大切な人なんですよ」



 ドキ!


 急に話に入ってきたマルパッセさんが、まさかの爆弾発言をかます。大切にされてる気は一切しないんだけど……もしかして私のいないところで何か言ってたのかな?!



「さまざまな実験に協力してもらっていますので」



 あ、モルモット的な意味の大切ね……


 いや、わかってたよ……


 シュンとした私に、興奮気味のヴォイニッチ爺さんが話しかける。



「なんと! あなた様が師匠の叡智の一端でございましたか……!」



 なんだかんだ絡まれて面倒くさかったので、温泉見学後にお爺ちゃんと連れだって教会に帰還し、ロプノール君にサクッと回収してもらった。ヴォイニッチさんは信じやすいタチなのか、何やら感激して私にまとわりつき、笑顔の大司教様に連れられて教会の奥へと消えていったのだった。南無……


 教会、思いのほか便利だな……マジ、作ってよかった……





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





 西の森に向かう道すがら、ネブラちゃんとピーリーとウーツ君が青春してるところを見かけた。


 なんか……どっかの某海外ドラマみたいなシーンになってんな……


 私も、もっと10代とかに恋の修羅場を経験してたら、もう少し立派な大人になれたかもしれない。



「いかがされました? ミドヴェルト様」


「あれ? 執事さん?」


「ああ、彼らですか。……やはり人間同士はいいものなのでしょうね」


「はぁ……そうですね」


「ミドヴェルト様は、どうするおつもりなのでしょうか?」


「…………」


「これは立ち入ったことを。……失礼いたしました」



 そんな殊勝な発言をしながら、目だけはガッツリこちらを見ている。マーヤークさんもやっぱ、私と勇者様をくっつけたいのかな。まあ、それが一番妥当なのだろう。悪魔としては、人間ごときがいつまでも夢見てんじゃねぇと言いたいのかもしれない。


 言いたいことだけ言って去ってゆく執事悪魔を見ながら、なんかアイツ、某女装家政婦みたいになってきたな……などと思ったりした。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「わざわざ来てもらってすまんな」


「ああ、用はなんだ?」


「ろ、ロンゲラップさんが気遣いを見せてくれるなんて……!」


「師は、これでも結構優しいのだよ」


「師匠?! 氷の仮面はもう存在しないのですかな?!」



 青髪悪魔の錬金術アトリエは、かなり人口密度が上がっていた。マルパッセさんに続き、ヴォイニッチ翁も助手を望んだので、何だかんだ置いてもらっているみたい。本人は割と足腰がギリギリなので、実際のお手伝いは、お爺ちゃんのお弟子さんたちが担っている。合間にお爺ちゃんの介護もしてるから、お弟子さんたちはなかなかの重労働だ。


 そんな騒がしいアトリエの奥で、私とベアトゥス様は聞き取り調査に協力中。心のコアが私に取られる前に、どんなやり取りがあったのか、思い出せる限り話してメモをとられる。



「……それで、逃げる逃げないの話になって、なんかもう見るなって言われてしまい」


「あのときは、お前の目が怖かったのだ。心を惑わされるようでな……」


「あ、そうでした。だからもう面倒になって、惑っていいからついて来いやー! って言って……」


「そんなこと言ってたか……? というかお前、俺を面倒だと思っていたんだな?」


「あ、いや……言葉のアヤです……」


「よい、確かに俺は面倒だったからな……」



 勇者様が軽く不機嫌になったところで、ロンゲラップさんの手がストップの仕草をする。


 私は黙って、何が引っかかったのか説明を待った。青髪錬金術博士は、いつもの大きな革表紙の本に何か書き付けると、顔を上げて言った。



「お前たち、もう()()してしまったようだな……」


「えぇ? 何ですか?」

「何の契約だ?」



 一緒に発言して質問が被りまくってしまったけど、青髪さんは気にする風でもなく、淡々と説明を続ける。



「まず、こちらの勇者、お前はミドヴェルトの瞳に惑わされたと自覚した」


「ああ……」


「そして、ミドヴェルト、お前は勇者に『惑え』と言った」


「はい」


「この言葉のやり取りで()()()()()()()と見られる」


「はぁ?」

「えぇ?」


「これは魅了の上位契約だ。よって俺はこれを絆魔法(きずなまほう)と命名する」



 本を閉じてメガネ位置を直したロンゲラップさんは、一仕事終えたとばかりに立ち上がった。つまり……どゆこと? 思わずベアトゥス様の顔を見ると、何だか気まずい雰囲気で眉を(ひそ)めている。



「お前が強制的にこの男の心のコアを抜き取ってしまったわけではない。この男が了承してお前に心を捧げたのだ」


「ふぇ?」


「…………チッ! 余計なこと言うんじゃねえ」


「ミドヴェルト、心のコアを捧げられたからには、お前が責任を持つしかないぞ」


「ど、どうゆう……?」


「つまりだね、君たちで言うところの()()を、師は勧めているんだよ」



 あ、そういうことね……


 頭ではわかってたけど、実際はっきり言われちゃうと、なんかズーンと来るものがありますね……


 いや、まあ当然でしょうこの流れは。ははは……



「そこまで暗くなるか? さすがの俺でも傷つくぞ」


「あ、すいません、うっかり」



 やっぱり、憧れだけじゃ近づけないもんだね。青髪悪魔さんは()()っていうことにして、遠くから見守ろう。お願い事を聞いてくれて、たまにツッコミ入れてくれるだけで最高のファンサだよ。私は幸せ者だよ……


 勇者様のいうとおり、暗くなっても意味ないもんね。


 なんか失恋したような気がしたけどすぐ泣けなかった。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「そ、それでその涙なんですの……?」


「あ、いやぁ、別に悲しいんじゃないんですけど、何故か止まらなくて……ははは」


「おもいのほか、あおがみあくまに()()()だったのじゃな」


「それ、本当に失恋の涙なの? 自律神経をやっちゃったんじゃないかしら?」


「え……」



 ヒュパティアさん鋭い。実は現実世界でも、結構忙しいときにこんな感じになっちゃったことあるんだよね……楽しいときなのに涙が出ちゃったり、前は普通に治ったけど、今回はどうなってしまうのか……不安だ。この辺に心療内科とか無いし。


 とりあえず今日は、女子会の延長線で、暗黒海の皆さんをお招きして久々の恋愛セミナーを開くことになっていた。参加者はいつもの女子会メンバーとフワフワちゃん、ゲストに暗黒王子のヴァンゲリス様とお付きの暗黒騎士ダロスさんとマトロタージュさん。その()()()()()()()()()公爵様とメガラニカ王、そんでベアトゥス様だ。


 最初は軽く裏庭のガゼボでいっかと思っていたが、思いのほか人数が多くなったので、急遽、西の森ホテルの3階会議室で行うことに。


 私は涙が止まらない病を隠そうとして、王都で買った大きいメガネをかけてスカーフを真知子巻きにしているため、何だか恋愛セミナー講師のコスプレみたいになっている。



「はい、それでは『恋人募集ならチャーム使っちゃダメですよ』をテーマに、今回はやらせていただくわけなんですけれども……」



 ・とにかく、彼女が欲しいからって変なショートカットを考えちゃいけない。


 ・まずは自分に自信を持とう 〜理想の自分になる方法〜


 ・不安なときは第三者に相談しよう。


 ・会話の練習はキャッチボールから。


 

「……というわけでですね、今回は、自分の魅力で相手を惹きつける方法についてお話しさせていただきました。何かご質問等ありましたら、ロビー1階のカフェでお話を伺いますので、お気軽にご相談ください。ご清聴、ありがとうございました〜」



 パチパチパチ……と、まばらな拍手が起こる。すると公爵様が急に大きな拍手をし出して、それに対抗してベアトゥス様もよく通る高らかな拍手をはじめ、その圧にやられた皆さんから一気に盛大な拍手をいただくことになってしまった。何のスイッチが入ったんだ……怖。


 みんなで一階に降りると、ヴァンゲリス様からお褒めの言葉をいただいた。



「いやぁ、タメになるお話でした♡」


「ありがとうございます」


「ですから()()を預かっていただきたい」



 暗黒王子は手品のように小瓶を出すと、私に渡す。



「没収……という形が自然なのかな?」


「え、……こちらは?」


「チャーム薬です♡」



 いや、何を持っとるんじゃい! 魔法の制限かけても、物理でチャームかけれたら意味ないじゃん!!


 ……と、思ったけど、さっきの話を聞いて反省してくれたのかな?


 とりあえず受け取って、ロンゲラップさんに鑑定してもらおう。……なんて思っていたら、玄関の辺りに助手のマルパッセさんが来ていた。やっぱ気まずいからお使い頼んじゃおうかな……などと迷っていたせいなのだろうか。何かに躓いて、盛大にコケる。


 その勢いで、チャーム薬の小瓶がキラキラと弧を描き、ピンクの堕天使マルパッセさんに降りかかった。



「だ、大丈夫ですか?!」



 あれ? 天使ってチャームにかかるんだっけ?? でも物理だからなあ……なんて軽く考えていたら、頭を振りながらこちらを見る堕天使の顔が何だか凶悪だ。



「マル……パッセさん……?」


「おや、久しぶりに見る顔だね……」



 言うなり、ニチャついた笑いがマルパッセさんの顔に浮かび上がる。あれ……? チャームかかった……?



「馬鹿野郎! 避けろ!!」


「ひゃっ?!」



 急に目の前が眩しくなって、すごい力で引っ張られた。私が居たところの地面が、くり抜かれて穴になっている。



「え? え? なんで??」



 私を引っ張ったのは筋肉勇者だった。すんでのところで命拾いしながら、まだ混乱している私を見て、ベアトゥス様は「こっちに来い!」と片手で私を抱え上げ、ホテルのエントランスに走る。



「堕天使ごとき、私の相手ではないのだがね!」



 ヴァンゲリス様が、暗黒オーラをダダ漏れにしながらマルパッセさんに相対する。マルパッセさんは口元いっぱいにニヤつきを(たた)えながら、目を怪しく光らせて煙を吐いた。



「おやおや、命知らずなことだ……その程度で私の相手が務まるものか」


「言ってくれるな……では行動で示すがよい!」






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