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8.『すべてはタコの名のもとに』

「うわぁ……カッコいいですねー!!」


 西の森ホテルの最上階に、やっとリアルなプラネタリウムが完成した。半球型のドーム上にガラスを嵌め込んで、360度星空が見える。伝説の錬金術師と(うた)われるロンゲラップさんの設計だから、強度の問題もクリアしている。


 魂を観測できる人は少ないけど、夜空の星は誰でも見られるから、西の森ホテルをご利用いただいたお客様には開放する予定だ。さりげなく避雷針もあるから、雷観測にもピッタリ。青髪錬金術博士のご希望で、どデカい天体望遠鏡も設置されている。ぐるぐる把手(とって)を回すと、椅子ごと歯車が次々回って自由自在に動ける代物だ。スチームパンクっぽくてかなりツボだわ……


 などと考えながら、チラッとロンゲラップさんの様子を窺う。お弟子さんがお爺ちゃんになっちゃってから、なんか元気無いように見えるんですよね……私も人間だし、あんまり交流しても年取ってすぐ死ぬから意味ないと思われてるのだろうか……


 まあ、今の助手であるマルパッセさんは、天使と悪魔の()()()だから、その点問題ないだろう。


 この件は、人間の私から話題を振っちゃいけないような気がしたので、全力でスルーしている。


 向こうからもあんまり話しかけてこないし、一時期キレキレだった青髪悪魔のツッコミも鳴りを潜めてしまった。


 きっと、太陽に近づきすぎたんですよ……所詮私はイカロスのように落ちるだけさ。ははは。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「さて……と」



 西の森ホテル屋上テラス階。今、ここでは歓迎会という名の暗黒王子をしばく会が開催されていた。



「ミドヴェルト様のご紹介は、もう済んでいるのでしょうか?」



 執事さんが、横目で私に確認をする。とりあえず、無言で頷く。



「では……ヴァンゲリス。申し開きがあるのならどうぞ」



 とりあえずこの場には、マーヤークさんとロンゲラップさんの悪魔組と、念のため王城から来てくれた勇者ベアトゥス様、工作員組の子供達、ディキスさんにグリハルバさん、助手の堕天使マルパッセさん、そしてフワフワちゃんと王様&大臣さんが同席していた。メガラニカ王は、ヒュパティアさんと王城に籠っている。


 本当は、もっとお客様を入れて大々的にお披露目会をするはずだったんだけど、チャームが危険だってんでこの人数だ。まったく、せっかく準備してたのに……やんなっちゃうね!


 吊し上げを喰らっているのは、暗黒海の王子ヴァンゲリス様と2人の暗黒騎士。とはいえ、和やかな雰囲気で質問攻めにあっているだけなんだけど、マーヤークさんの教育的指導で3人とも凸凹の石畳の上に正座させられているせいか、かなりお仕置き感は醸し出されている。



「すまん……魔国は都会なのでな、ちと気合を入れ過ぎてしまったのだ」



 ヴァンゲリス様曰く、暗黒海の底からやって来た王子なんて田舎者扱いされるかもしれないと思い、やられる前にやってやるとばかりにチャーム全開にしてしまったんだとか。


 そんな可愛いもんだったか……?


 暗黒王子の顔にはどこか余裕を感じるから、たぶんウソの言い訳なんだろうな……などと思いながら眺めていると、目が合った瞬間、ヴァンゲリス様がウィンクしてくる。


 マジこいつ……


 チャームにかかった貴婦人たちの中には、かなり高位の貴族もいたようで、危うくクーデターが起こりかけていたっぽい。王様は見てるだけだったけど、執事悪魔と打ち合わせ済みらしく、魔国滞在中は簡易契約を結んでチャーム使用禁止になる(むね)が言い渡される。



「なんだと?! 私は魔力をチャームに全振りしているんだぞ?! 何もできなくなるではないか!」


「チャームごときの効力が、あれほど高いのはおかしいと思っていましたが、そういうことですか……」



 これには、さすがのマーヤークさんも軽く引いているようだった。ヴァンゲリス様は、チャーム一択でここまでのし上がってきた悪魔で、王子って立場は、暗黒海の王様の子として生まれたわけじゃなくて、王様を魅了して得た地位みたい。暗黒海……大丈夫か?


 二人の暗黒騎士、タコ髪のダロルさんとウェービーな黒髪のマトロタージュさんは、無表情でヴァンゲリス様に付き従っていた。しかし仕事時間が終わった後はすっかり地が出て来て、用意された料理に夢中になっている。話してみると、お二人とも上位の悪魔らしく、それぞれ魔国でやりたいことがあるみたい。悪魔って……わりと食べるじゃん。


 本来、悪魔は欲望に忠実だから、何にでも興味津々で積極的なのが普通なんだって。チョコブースにご案内すると、大喜びでがっついていた。用意した甲斐がありました……


 考えてみたら、七つの大罪とかに大食いみたいなのあったもんね。悪魔だって、気になるメニューは食べたいはず! でもそう考えると、青髪悪魔のロンゲラップさんにとって、私の考えた料理は()()()()()()()()()ってことになってしまう。む、難しい……



「なんと、この食物(しょくもつ)は、あなたがお作りになった物なんですか?」


「え、ええ……一応そういうことになります……」


「素晴らしい! 結婚しましょう!」


「あ? なんでそうなる?」



 怪しい方向に話が行くと、ベアトゥス様がズイッと会話に割り込んできた。



「彼は?」


「こちらは勇者ベアトゥス様です」


()()ですと?」


「はじめて見たな……ご存知かは分かりませんが、暗黒海に人間が来たことは一度もないので」



 タコ髪のダロルさんが、興味深そうに筋肉勇者を観察する。時折、タコの足先がベアトゥス様のほうに向かうが、何かの反発にあって絡みつけないようだった。居心地悪そうに眉を(ひそ)めたベアトゥス様が、吐き出すように(つぶや)いた。



「俺からしたら、頭にタコ被ってるほうが余程珍しいがな……」


「なんだ? タコが欲しいなら一戦交えてみようではないか」


「あぁん? 別にタコなんか……」


「欲しいです!」


「あ、おい……」



 もしタコがあったら、タコパしたいなって思ってたんだよねー! ダロルさんの申し出に、私は脊髄反射で食いついてしまった。タコパした過ぎて、地味に小麦粉とかソースとかマヨとか、必要そうな材料をひとつずつ用意していたのさ。もはやこれは、武器防具やアクセサリーを作るのに等しい行為。決め手は暗黒騎士のドロップアイテムよ!!


 私は全力で目をパチパチさせて、ベアトゥス様にお願いする。


 タコ……欲しいんです……パチパチパチ。



「うっ……」



 なんだか見たことないくらい苦々しい顔をして、筋肉勇者は逡巡していたが、しばらくすると決心したように顔を上げた。



「よかろう、タコを貰ってやる」



 やったーーーーーー!!! 来い、タコパ!!



 メンツが面子なので、気軽にテラスで戦えるわけもなく、急遽コロッセオを利用することになった。王様や大臣さん達も興味津々で、剣闘大会のときには顔を出せなかったので、貸し切り状態の今日こそはとみんなで移動する。



「いやぁ、一度勇者の戦いを見てみたかったのだ」



 ホクホク顔の王様をご案内しつつ、コロッセオの門に設置されたスイッチに火魔法を流し込んで開錠。今夜限りのタコマッチが始まった。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「さあ! 選手入場です! まず入ってきたのはぁーー遠き暗黒海からやって来た騎士、ダぁーーーロルぅぅぅーーー!!」


「思いのほか本格的だな」


「何やらワクワクして参りました」



 小声で盛り上がる王様と大臣さんにホッコリしながら、私はコロッセオの2階席に座った。ロッカールームで、また砂被り席で勇者をコントロールする案が、主にベアトゥス様から上がったけど逃走。応援してます! と笑顔でダッシュしてきた。



「続いて入場しますのはぁーーー人間の国からやって来た勇者、ベぇーーアぁーートゥーースぅぅぅーー!!」


「ベアトゥス様ーー! 頑張ってーー!」


「おっと、声をかけるのはー? 恋人のミドヴェルトさんですねー!」



 うわ……忘れてた。この仕様……


 私は全力でアナウンスに気付いてないふりをする。会場内を軽く見回すと、斜め後ろの方に青い髪が見え、心臓がバクつきはじめる。


 タコが欲しいだけだったのに、無駄に心を(えぐ)られ、笑顔が貼り付いた。


 うわーうわーうわー……()()()()()ー……


 てっきり興味ないとか言って天体望遠鏡でもいじってるのかと思ったよ……


 うぅ……タコ焼き食べたい……(現実逃避)



「それではーーー! 試合開始ーーー!!」



 合図とともに、二人が激しくぶつかり合う。


 暗黒騎士の一撃をかわした勇者は、その懐に飛び込んで足を絡めた。



 バチィイイィン…………!!



 何が起きたかわからないまま、暗黒騎士の体がゆっくりと倒れる。



 想定外のことが起き、場内が シン……と静まり返った。



 次の瞬間、うわーーーーー!!! と私の周りにいた人たちがスタンディングオベーション状態になり、勇者ベアトゥスの勝利が宣言された。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜





「ほほう、これがタコ焼きなるものか……」



 せっかく移動したのにすぐ戻るのもなんだかなってことになり、ダロルさんの断髪式をやることになった。コロッセオに表彰台を置いて、ダロルさんがポツンと椅子に座る。そこへ、みんなで繰り出していって、タコを切り取る儀式だ。


 すぐ横では、タコ焼きの鉄板が熱々になっている。切り立てのタコを鉄板で焼いてから、タネと一緒に丸い窪みに流し込む。焼けた部分からひっくり返して形を整えると、なんだか本物っぽいタコ焼きの見た目になった。そうやってできたタコ焼きを、6つずつ皿に盛って、ソースとマヨと青のりをかけ、酢漬けの生姜を添えてみんなに渡していく。王様も味見してくれて、なかなかいい反応をしていた。



「お疲れ様です!」


「あ、ああ……」



 ちょっとスッキリした髪型になってるダロルさんにもタコ焼きを渡すと、慎重にいろんな角度から眺めていた。


 できれば熱々のうちに食べてくださいねー。



「私の()は、こんなにも()()()()()のか……!!」



 おかしな語彙が並んでいるけど、まあ、間違っちゃいない。


 ダロルさんも、遭難したときは食べるものに困らなくていいね。私はチョコしか出せないから、しょっぱいものが欲しくなってしまいそうだけど、死なない程度に生き延びられればそれでいい。あ、でも悪魔だから別に絶対食べなきゃいけないわけじゃないのか……


 なんてことを考えながら、幽霊事件の()()()()()が宙に浮いていたことを思い出す。今回の試合は、いろんな大人の理由で秘密になるみたいだから、対外的には勇者が幽霊を倒したって噂を流させてもらおう。そうと決まればベアトゥス様に相談だ!



「ベアトゥス様!」


「なんだ、()()殿()


「は……!」



 そういえば……いろいろあり過ぎて忘れてたけど、ベアトゥス様って私のこと転生者だと思ってるんだよね……?


 それもあるけど、今はアナウンスで大々的に恋人ってことにされてしまってる問題もあった……!


 あれ? 完全に埋められてしまったのか? ……外堀を。



「食いもん持ったまま固まってどうする」


「あ、すみません……これどうぞ」



 タコ焼きを渡すと、ベアトゥス様は「勝利の味だな」などと言いながら一瞬で食べ尽くした。口の中火傷しまくってるんじゃないだろうか……?



「で、なんだ?」


「あ、あの、今回は西の森の幽霊を退治したってことにしてもらえると助かるんですよ……」


「ああ、前に言ってたやつか?」


「誰かに聞かれたら話を合わせてもらうだけでいいので、お願いします!」


「おう、わかった」


「……あと、その……」


「あの件なら、俺の()()だ」


「ふぇ?」


「お前の()()は尊重しよう。だから……俺のそばにいてくれ」


「え、何です? 急に……」


「お前が好きだ」




 ぇう…………




 うわあああああああああああ!!!





 私は、蛇に睨まれたカエルのように勇者様の視線に射抜かれて、完全に引き際を見誤ったことを悟った。







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