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『貼る』を『笑顔』に付けるとは大体色んな意味で怖くなれる説

翔太とこの結界の汚染源と、クウとハクの関係をあえて何かで比喩すれば、恐らく羽虫とカエルと蛇のような関係。

羽虫を食べたくて食べたくて、でも羽虫はずっと蛇にべったりとくっついて、だから虎視眈眈と隙を狙ってくる。


電車の最後尾まで歩いて行って、そこから引き返して先頭までいく。

そんな決して長いとは言えないだろう道中、翔太は幾度なく例の乗務員の姿を見てしまった。


ソレは決まってクウとハクの視界の死角に現れては、そのふたりを無視して顔面に貼り付いたような笑顔で翔太だけを見つめてくる。微動だにせずに見つめてくる。

そして翔太の異常に気付いたクウとハクが視線を投げるよりも早く、ソレは跡形もなく消えてしまう。


もういっそ清々しく思えるほど、明らかにクウとハクを避けながら翔太を狙っている。


そして今に至っては、前を行くクウは翔太と同じ視界になれるようにまっすぐ前だけを向いて、一方その肩に乗っているハクは翔太から目を離さずに後ろを向いて見張っている、と言った警戒態勢にまでなっている。


これはさすがに手を煩わせた。クウが救援の仕事を嫌がるのもわからなくはないな。

そんなことを翔太は幾度の恐怖体験で少し朦朧としている頭でぼんやりと考える。すると、視界の片隅にある電車の窓越しに何かが見えたような、気がした。


そっちへ向いたのは失策だった。

油断したのだ。


今までずっと走っている電車の外はトンネルを抜けているように暗かった。そんな窓から何かが見えたら、もしかしたらなんらかの景色が見えるかもって。もしかしたら。もしかしたら日常の風景がそこにあるのかもって。

まともに考えてみれば、ケガレは今も自分の前を歩いている小さな覚醒者に解決されていない以上、そんなことはあるわけもないのに。しかしながら、すでにどこか朦朧としている翔太はそこまで考えが至らなかった。


だから、見てしまった。

そして、気づいてしまった。


ソレは窓の外にあるものをガラス越しに見えた実物ではなく、電車の中にあるモノを鏡代わりのガラスに映し出された影だったのだ。


笑っている乗務員の影がそこにいた。自分の影と連れ添うように、自分のすぐ後ろに立っているように。


「……っ!」


咄嗟に振り向いたのも多分イケなかった。本当なら自分の後ろではなく、まっすぐにクウのほうを振り向いて助けを求めるべきだったのに。


それでも、この時ばかりはにくったらしく思える、ケンカを売られたら条件反射的に買うように身体が構えてしまう、などと言うヤンキー根性のせいで。翔太は自分の後ろを確認するように振り向いた。


そこには、誰もいなかった。


そして、翔太はようやく思い出したようにクウの姿を求める。

しかし、振り返ったその先には、クウもハクもいなくて、そして、なぜか。


ああ、なぜか。


笑っている乗務員が立っているじゃないか。


満面の笑顔が。顔と言うキャンパスに描かれた絵のような、貼り付けられた一枚絵のような、そんな不気味な笑顔が。

不気味。あれ、これって不気味だっけ。

でも、自分もおそらく同じような笑顔を浮かべている。引きつったような、凍り付いたような、そんな笑顔を翔太自身だってずっと浮かべている。


そうだ、不気味な笑顔をみんなしているんだ。それが普通なのだ。


あ、でも、そういえばクウちゃんは笑ってない。

今はなぜか姿が見えないクウちゃんにはずっと笑顔はなかった。

笑ってないなら乗客ではないとルールは言った。でもこの車両には乗客しかいてはいけないらしい。そもそも彼女は本当に覚醒者だったのか。そんな証拠はどこにある。そもそも人間だったのか。だって人間にしては非常識すぎる。人間はいきなり消えはしないはずだ。


人間。にんげんは、わらういきもので。


わらわないのなら、にんげんではない。


人間ではないなら、

   クウちゃんは 

  いったい


  ナ ニ。









「でぅふふふふんふぇんへへへへへっへっへ、ブヒッ」


その声を聴いて、冷えた甘い川水をパシャッとたっぷりかけられたように翔太の霞んだ視界がクリアしていく。

しかしながら、そうさせた声は、「冷えた甘い川水」と呼ぶにはあまりにもひどいものだった。


自分はいつからかうつむくように足元を見ていたらしい。そう気づいて頭を上げれば、スマホを掲げて翔太の耳元に近づかせているクウがそこにいた。スマホからはそのあまりにもひどすぎる笑い声の、音源らしきものが流れている。ちなみに今もなお現在進行形だ。


「あの、もういいっス。我に返りました」


あ、そう?とスマホをしまうクウに、翔太は何とも言えないような気持ちになる。


「何だったんスか、その声は……」

ネットから見つけたもの?いや、そもそもここってネットはあるのか?


「んーん。これもね、支給品」

ケガレの結界はネットに繋がってないよ。と説明しながらクウはスマホの画面を見せてくる。そこに映し出されたプレイリストは「殲滅課厳選!いざという時のための音声100選」というこれまたいかがわしい名前が付けられていた。


いや、それに助けられといでなんだが、いざという時のためにブヒッて鳴く笑い声を支給するのか?怖いな覚醒者の組織は!?



「さっきのショータね、いきなり立ち止まって、さ。どう見ても目がいってるのに、口元だけは笑顔のままでぶつぶつと何かをつぶやいていたの。 わたしたちが話しかけてもね、何の反応もなくて」

その明らかに異様な笑顔で直感的にあ、これはやばいところまで来ているね、と悟ったというクウ。とりあえずその笑顔をやめさせようとその笑い方とはある意味太陽とシリウスくらいかけ離れている笑い声を流したわけだ。


それでちゃっかり効いたのだから、プロの覚醒者すげぇ!という気持ちと、そんなもので俺は助けられちゃったのか?という気持ちがいっぺんに襲ってきて翔太は風邪ひきそうになる。


「うーん、でも本当に困ったね」

わたしはずっと仏頂面でいてがっつりルール違反しているのに、ショータばかり襲われてわたしのほうは普通にスルーされてやんの。

そういうクウはぶつぶつと独り言をしてから、不意に翔太のほうを振り向く。

「もういっそ、ね? ショータがわたしのこと、通報してみない?」

通報されたら乗務員はさすがにわたしを処理しに来なきゃいけなくなるでしょう?と言いかけて、あ、やっぱりダメかも、と考え直す。

「乗務員はいないってルールは言ってるもんね。 この場合は乗務員に通報するのも乗務員の存在を認めることになるのかな」

そしたら、ルール違反になってただでさえ危ういショータの精神がトドメを刺されちゃうかもしれない。


独り言を主体に話を進めていくのだから、やたらと早口になるクウに、翔太は置いて行かれていると、


「じょうむいんさーん、わたし笑ってないよ!乗客じゃないよー!」

と何を考えているのか、クウはいきなり何もない場所に向かってそう叫んだ。

そんなクウの姿に翔太は何となくハクが言っていた「こいつは人間全般に対してコミュ障を発動するぜ」が暗に言っていることがわかった気がする。


人外相手だと逆にコミュ力お化けになるんスね。


クウ

人外限定でコミュ力化け物になる系主人公。

SAN値0メリバは嫌と護衛対象から言われればちゃんとそうならないようにがんばる、話が通じる子。

翔太

この事件が終わったらクラスにひとりはいる笑い声が愉快なオタクに優しいヤンキーになる。具体的に言うとカツアゲされる場面に出くわすと助けてくれる。



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