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SAN値がバンジーって語呂が良いよね

助けるよと言っといて実は医学的死亡でさえしてなけりゃみんなハッピーってどこのサイコパスだよ。暴走族でも引くぞ。

そう訴えるつもりで車内を探索するために前を歩いているクウをじーと見つめていると、サイコパスはサイコパスでも、ちゃんと要望をしっかり聞き入れてくれる優しいサイコパスらしく、クウはわかったよ、と頷いてくれた。


本当に分かったんスか??五体満足プラス精神正常でお願いしますよ!? とさらに念入りに確認すると、立ち止まって振り返ってきたクウは「うん、がんばる」とどこか不安が残る返答を投げてくる。


それに呆れてまた何か話しかけようとしてるとき、振り返ったまま立っているクウの肩越しに、少し離れたところに立っている人影を見かけた。


クウが振り返ってくる直前まできっといなかった。足音もこれっぽっちも聞こえていなかった。それなのに現れた、その乗務員らしい服を着た、満面の笑顔をしている男。

満面の笑顔で、翔太を見ている。ビシッと立っているまま、微動だにせずに見てくる。男と翔太の間にクウとハクがいるのに、その二人を丸ごと無視しているように、男の目は翔太だけを捉えていた。

そこで気づいた違和感の正体。男は笑っているのに、目を見開いているのだ。

全体的に見れば笑っているその顔に、場違いともいえる大きく見開いた目。


そんな目で見つめられていると、向こうは特に話しかけてくるわけでもなく、ましてや攻撃もしていないのに、なぜか翔太は蛇に睨まれたカエルのように冷や汗をかいて立ち竦んでしまう。


そんな翔太の様子を不審に思い、その視線の先を追うようにまた体の向きを変えるクウとハク。それと同時に、翔太は汗が目に入ったせいで瞬きをしてしまう。


そして、クウ達が視線を前に向き、翔太が再び目を開いたときには、そこにはもう誰もいなくなっていた。


***


意外にも、そしてありがたいことに、気のせいじゃない?とは言われなかった。

いや、本当にありがたい。ホラー映画では一番最初に異常現象に遭遇したキャラが必ず一度されるであろうその扱いを、さっきの経験をしたばかりの翔太がされたら、きっとそれだけで狂乱に陥ってしまう自信がある。


「うーん、やっぱりわたしたちから逃げているのかな」

と、提供された目撃情報の真偽を疑うことはなかったが、これはこれで斜め上行く議論を展開させるクウ。


逃げる。こいつ逃げると言った。

それは蛇に対面したカエルの取る行動であり猫に対面したネズミの行動でもある。しかし間違っても人間と対面したケガレが取るような行動ではない。

何をどうしたらケガレがクウから逃げるというのか……


「捕食」

「え?」


向こうが逃げる気でいるならおそらく見つからないだろうけど、一応探索再開して、翔太の前を歩くクウ。そんなクウの背中を翔太がスペースに触れたキャットのような顔をして見つめていると、不意にクウの肩に巻き付いているままのハクがその視線に気づき説明してきた。


「覚醒者には一人につき一つの特殊能力がある、ってのは聞いたことあるだろ? んで、俺らの能力は、捕食」

ケガレの発生源を捕食して自分の力にする能力だ。と補足するハク。


キャットはついに星の大海を目指して旅立った。



「でも、困ったね。鬼ごっこでもしなきゃダメなのかな」

「いや、餌で釣るってのもアリじゃね?」

あまりにも意外な食物連鎖について知ってしまいフリーズした翔太をよそに話をどんどん進めていく一人と一匹は、そこまで話すと、あっそうか!と揃ったような動きで都合四つの目を翔太に向ける。


それまでの会話を聞き流していたため、翔太は反応をするために数秒がかかった。

ケガレはクウとハクから逃げている。クウとハクはケガレを捕獲したい。ケガレは翔太から逃げていないしむしろ接触しようとしている。

つまり、餌で釣るというのは、


「ちょっ、いやっスよ!?」

信じてくれないのも嫌だが、信じてくれてこんな仕打ちっていうのはそれもそれでいやだ。

「そもそもさっきからなんなんスか! 覚醒者は一般人を助けるものなん……ですよね?」

勢いよく質問を投げるも、何言ってんだお前、というような視線に語尾が徐々に小さくなって戸惑いを帯びていく。


それってどこ情報?と聞かれて、学校で学びましたと言うのはヤンキーのプライドが許せなかったので、代わりに「普通に常識っスよ」と答えて、もしかして違うんっスか?と恐る恐る聞き返す。


「違うけど、違わない、かな」

おっとここでまたなぞなぞタイム。やめてくれそういうのはマジで。と声なき祈願を虚空に投げる翔太に対して、今度は振り向かないままクウは頑張って言葉を選びながら説明を続ける。


「覚醒者、と一口で言っても、一つの組織でまとめるにはね、数が多すぎるから。 一般人の救援に重心を置く組織も、ちゃんとあるよ」

わたしが在籍しているところは、ケガレ退治が主な仕事だけどね。と。


そう言葉を紡ぐクウに、翔太は嫌なことに気づく。


「あの、さ。今日最初にあった時、クウちゃんは俺を見た後一回目をそらしたんスよね?」

あれはどう見ても関わり持つ気はないぞと言わんばかりの態度だった。それからも何気なく、前日助けてもらったから見捨てない、という旨を強調してくるし、それってつまり、

「まあ、そういうの俺らの仕事じゃねーし、方針が方針なだけに助けてもボーナス給料でねーしな」


がはは、と翔太の言葉をさえぎるように恐ろしい言葉をさらりと放つハク。


何だろう。あの時クウちゃんをナンパして、さらに自分にぶつかった不良に感謝したほうがいいのではないか。それにしても…

「あの、じゃあ、ルール用紙を今まで使ったことがない、というのも……」


クウとハクがいらなくても、一般人を助ける際にはどうしても必要になるだろう。現に翔太を助けると決めたあの時、クウはすぐにあの紙を持ち出したから。

それを今まで使ったことがなかった、というのは、今までケガレ退治をする際に巻き込まれた一般人にあったことがなかっただけか、それとも……

そう質問しかけた翔太は、「お前のような勘のいいガキは嫌いだぜ」と言わんばかりのハクの視線にさらされて、その真相をこの世に無数あるであろう知らなくていいし知るべきでもないことに分類することにした。



覚醒者

組織が複数ある。クウが在籍しているやつは役目があくまでもケガレと戦うことであって人助けではない、というスタンスなので、ケガレさえ解決できれば一般人の死傷は組織としては不問らしい。なにそれひどい。

クウ

翔太が一回助けてくれたことのある相手だと気付かなかったらそのまま見殺しにしてたらしいナチュラルサイコパス系主人公

翔太

この世には知らなくていいこともあるよと知った14歳ヤンキー。男は一夜にして大人になるものだよ。


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