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しょうたです、よろしくおねがいします

今更ですが、この小説は基本逆ハーメンバーの視点で進んでいきます(今後の章も翔太視点固定というわけでもありません)。

「あの…なんスか、これは…?」

わずか数行で狂気とカオスを感じさせる文など初めてだ。理解しようとすればするほど混乱してくるような文体。これには暴走族もびっくり。


しかし幸いにもこの紙を貼った張本人がすぐそばにいるから、すぐに深く考えることをやめて、翔太は素直に聞くことにした。仕方ないとはいえ、ここに来たこのわずか十数分の間で翔太が獲得した素直ポイントはおそらく今までの十四年の合計素直ポイントよりも高いのではないか。


それなのに、当の少女はというと、両腕を曲げるように持ち上げて、手のひらを上に向けて、さあ?のポーズを作ってきやがった。

眉尻を少し下げているその表情も相まっていっそ煽っているようにも見える。


「え。いやでも、この紙はあなたが持ち出したものでは…」


「ルール用紙っていうんだ、これ」

いっそ泣きそうになってる翔太がさすがに可哀そうに見えたのか、横から説明をいれる少女の精神体。


曰く、ケガレの主な攻撃手段は精神攻撃で、精神をすり減らして発狂させてから殺すらしい。物理攻撃もなくはないけどそっちのほうは圧倒的に少ないと。

それで、それに対抗するために、覚醒者たちの力で作り出したものはこのルール用紙。もともと何も書いていないこの紙をケガレの結界の中に貼ってしばらく経つとあら不思議、その結界の中で自分の精神を守るためのルールが自動的に紙に現れる。

しかし、やはりケガレに妨害されてしまうので、書き出される内容は大体こんなカオスになる。

これでも一応ちゃんと精神を守ること自体はできているので、ちゃんとデコードして言われた通りにすれば安全性がぐっと上がる、らしい。


いろいろ突っ込みたいところはあるが、とりあえず……


「その理論だと、ふたり(ふたり?)はこの紙を使い慣れているはずではないっスか?」


うまく言えないけど、この少女は妙に手慣れているというか、対ケガレ初心者にはとても見えないオーラを出している。コミュ障なのに。

それなのに、聞く限りケガレ攻略の必需品であろうそのルール用紙を「全然わかりませーん」という解読すること自体放棄しているような態度が見え透いている。


「や、俺らにその精神攻撃が効かねーからな?何をされても別に精神を揺るがされることはねぇし正気も失わねぇ。 その紙も支給品として持ち歩いてるが使うこと自体初めてなわけだ」


だからわりーな、がはは! と豪快に笑う龍。


そうかそうなんだ。ケガレの主な攻撃手段が効かないってそれはもう何気にチートじゃねーか。さすがは龍だ。羨ましいなちくしょう。

しかし、そう説明されてもやはりどこか引っかかるが、その違和感の正体を翔太が掴むよりも早く、


「とりあえず、ね…笑えばいいと、思いますよ?」

少女からこれまた煽りゲージが天元突破したコメントをもらった。


でも少女としては大真面目ならしく、

「まーな。 乗務員の下りは明らかに矛盾しているしひとまず置いといて。乗客は笑顔でいろ、というルールは一貫しているから、そっちは守っとけ」

と精神体のほうから説明を加えられる。


マジだったのか。この状況下で笑えと。

それでも命がかかっているため、ヤンキー根性をフル回転させて何とかぎこちない笑顔を作り出す翔太くん14歳。


それを見かねてか、

「そんなに、緊張しなくてもいいで、す。 ルールを破っても、ね、命に支障が出る…わけでは、ない…です。ただ、ケガレが入れ込める、ような、心の隙を、」

少しずつ作っていっちゃうだけです。とそろそろ使い切る歯磨き粉を無理やり絞り出すような感じで言葉を紡いでいく少女。でも自分たちがいるから命を如何こうさせたりはしませんよ、と。


ケガレが入れ込む心の隙を作るってもう十分やばいじゃん。死ななくても、発狂するのはいやだ。

と、そんなことよりも。


「あの、俺、翔太と言います!呼び捨てでいいっス!敬語もいらないっス!」

あなたの名前も教えてほしい。そして、できれば心の距離を縮めてほしい。すんなりとしゃべれるくらいには。


引きつった笑顔を何とか優しく見えるように頑張りながら、そう必死に訴える翔太。

何いきなり自己紹介タイム始めてんだこいつ、と言うように目を見張る少女。


「ハハッ、いつまでもこんなビクビクした態度でいられては時間の無駄になるし、話が進めなくて自分の安全も保障されなくなる、ってか?」

そして、意外にもちゃんと翔太の言いたいことが分かったらしい、しかし身も蓋もないことを言ってくる少女の精神体。


「別に仲良しごっこはいらないと思うがな。 こいつの口調が気に入らないっつーなら、これからはお前の命を守るために必要な指示は全部俺から出すし、お前がこいつと言葉を交わす必要はねぇ」


突き放すように攻撃的で、しかしどこか自分の主を守るようにも見えなくはないその態度に、翔太は何を言ったらいいかわからずに黙り込む。


言葉を発する者がいなくなり、聞く人によれば眠気を誘うこともある電車の走る音だけが響く空間。

なぜだろう。どこかが致命的にかみ合ってない気がする。

ヤンキーなんてやっている以上いくらでも挑発されたことやガンを飛ばされたことがあったのに、特に声を荒げることも汚い罵詈雑言を吐いたわけでもない少女の精神体に、翔太は身を竦んでしまう。

龍としての見た目が怖いのか、それとももっとほかに……


「わたしはクウ。この子はハク…よろしくね」

と、翔太が引きつった笑顔のままぐるぐると考えながら次の言葉を探していると、意外にもそこへ助け舟を出したのは少女…クウだった。ついでに自分の精神体も正式的に紹介してくれた。

「今すぐに、は無理かもだけど、できるだけまともにしゃべるから、ね?」


優しい。優しくて涙が出そう。

単体で聞くとどことなく偽名っていうか愛称?みたいなものに聞こえなくもない名前だが、覚醒者の生態なんて翔太には全くわからない。精神体のハクとは対なる名前のようにも見えるし、もしかしたら普通に本当の名前かもしれん。


とりあえず、


「よろしくお願いします、クウちゃん!」


さん付けより親しみを持つその呼び方に気づいてかいないか、少し微笑んで見せたクウに、翔太はこっそり胸をなでおろす。


「それでね、わたしたちはこれから汚染源を探さなければいけないの。 汚染源、というのは、ケガレのコアみたいなもので、それさえほ……壊せば、この結界は壊れる」


最初の頃いなかったハクもそれを探しに行ったらしい。

でも車両を一通り見て回っても見つからなかったから、今度はクウも一緒に行ってもう一度回るつもりでいる。


行きたくないならここで待っていても構わない、と言われたが、翔太としてはもちろん同伴一択だ。冗談じゃない。一人になったやつからお陀仏なんてホラー映画のお決まりじゃないか。しかも同行者なんてホラー状況対応のプロだし、絶対離れてやるもんか。


***


「あの、あと俺、死ななくても、発狂するだけでも、ちょっと嫌と言うか…嫌っス、はい……」

と、さっそく行動を開始しようとするクウに、翔太はさらに話しかける。至極当然な要望だが、口にしないとおそらくクウには伝わらないと、翔太はこの十数分の短い付き合いで直感的に分かるようになった。

何となく、クウとハクは今のところあくまでも『命だけは守ってやるよ』みたいなスタンスでいられている、気がする。命を守ってくれるのはありがたいが、それだけではちょっと困る。聞く限りSAN値0で生還とかいうメリバドエンもちゃんとエンディングリストにのっているらしいし。

贅沢を言うと、できれば狂人か廃人にならずにここから出たいな。


まあ、そりゃそうだろうな、とがははと笑い飛ばすハクのそばで、え、そうなの!?と猫っぽい縦長の瞳を見開いて宇宙猫フェイスを披露するクウ。やはりそこはわからなかったのか。



ケガレ

主な攻撃手段は「精神汚染で発狂させてから殺す」らしい。

クウ

三話目にしてやっと名前がわかった主人公。

自分のSAN値の数値がチートコードでロックされているため、人間の精神を守るためのルール用紙は何気に翔太のために初使用。あれ、でもなにか…?

ハク

常識があるようでない、と見せかけてやっぱりおそらくそれなりに常識龍。しかし常識があるなだけで常識を守るかどうかは主人の判断に従う。しかし当の主人は常識がないので袋小路。

翔太

コミュ障陰キャに懐いてもらうためにいろいろ必死な常識人ヤンキー。頑張れ陽キャ!


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