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三人までしか入れない村  作者: マグネット
2/6

入場制限

 事務所の最寄駅から電車で三十分、新幹線で二時間、そこから再び電車に乗り一時間、さらにバスで一時間移動し、終点に着く頃には昼過ぎになっていた。

「こっからさらに歩くのかよ。冗談じゃねえぞ」

「辺境地にも程がありますよ、いくらなんでも」

 奈園(なその)村君(むらきみ)は既に満身創痍だ。

「ほら行くよ~!」

 一人元気に先へ進む白瀬(しらせ)が呼びかける。二人はげんなりしながらキャリーケースを引っ張って舗装されていない山道を突き進んだ。

「なんであんなに元気なんですかね?」

「謎を調べるの大好きだからな、アイツ。都市伝説の根幹を暴けるから嬉しくてしょうがないんだろ」



 日が傾き始めた頃、森を進む三人は前方に奇妙なものを見つけた。近くまで行ってみると、それは大きな塀だった。金属製の造りで四メートル程の高さがある。自然の中にあるにはあまりにも不自然だ。

「なんだこりゃあ…」

「塀……というより城壁だねぇ。村を囲ってるのかな?」

 どう見ても人工物なのでこの近くに村があるのは間違いないだろう。しかし、入口らしきものは見当たらない。右も左も同じような壁がずっと続いている。三人は一先ず入口を見つけるため壁伝いに歩き始めた。


「なんで三人だけ招き入れるなんて中途半端なことしたんだろうねぇ。当時の村人たちは」

 村の入口を探す間、白瀬は噂の発端となった落ち武者の手記についての疑問を口にする。

「単純に食料問題じゃないですか?村人の分すらカツカツの時に落ち武者が何人もやってきたらあまり歓迎されないでしょう」

「『助けてあげたい気持ちは山々だが村のキャパシティでは三人を迎えるのが限界だった』とかじゃない?」

 それぞれの考えを披露する奈園と村君。

「無難だなぁ…。無難だし普通すぎるよ二人とも」

 白瀬は、理解はしたが納得はしていない、といった表情で呟く。

「噂話の発端なんて大抵普通で、つまらないものだよ」

「そんな身も蓋もない…あっ、あれ入口じゃないですか?」

 村君が指差す先には壁と同じく鉄製のドアと、受付のような小窓。それと見張り台のようなものが見える。恐らく村の入口だろう。

 小窓を覗き込んでみたが中は無人だった。

「すいませーん」

 村君が呼びかけるが返事がない。

「すいませーん!」

 窓をコンコンとノックしながら再び呼びかけると壁の向こう側から慌ただしい話し声が聞こえてきた。少しすると建付けの悪い引き戸を開ける音と共に、白髪が混じった角刈りの大男が現れた。

 男は小窓の傍にある椅子に腰かけ

「どうしました?」

 と訊いて、三人の顔をじろりと見た。

「近くで登山をしていたら大きな壁が見えたので、気になりまして。差し支えなければお邪魔してもよろしいでしょうか?」

 淀みなく白瀬が答える。すると男は苦虫を噛み潰したような顔になった。明らかに歓迎されていない。間違いなく断られるだろうと思ったが、男の答えは意外なものだった。

「あんたたち三人組だろう?悪いが今年はわけあって二人までしか入れられないよ」

 人数こそ違うものの『入場制限のある村』という噂はどうやら本当だったようだ。真相に一歩近付いた喜びと同時に、この中から誰か一人を村の外に置いていかなければならないという新たな悩みが生まれた。

 が、次の村君の言葉でそれは解決した。

「じゃあ僕が残りますよ」

「え?なんで?」

 あまりに即断即決だったので思わず奈園が聞き返す。

「なんでもなにも…。今回の依頼人は白瀬ですし、依頼を受けたのは先生です。優先順位的に先生たち二人が行くのが自然でしょう」

 村君は不思議がる奈園を不思議そうに眺めながら淡々と理由を述べる。

「それは……まぁ、そうだな」

 反論する理由もないので、そのまま村君が残ることになった。

「話はまとまったようだな。そんじゃあそっちのお二人、入ってきな」

 そう言うと男は手元のハンドルを回す。ガチャリ、と鈍い音がした。

「近くにテント張って野営してますから調査終わったら声かけてくださいね」

「了解だ。じゃあ行ってくるよ」

「すまんな村君、なるべく早く戻るから」

 入口で軽く別れの挨拶を済ませた奈園と白瀬は、いよいよ都市伝説の元となった村へ足を踏み入れた。

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