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3-4. そもそも、お妃君って?



「サラ!」


 一瞬のうちに、王子が沙良の身体に覆い被さった。イルクが腰にいていた剣を抜く。


(ば、爆弾!?)


 王子の身体の下で、沙良は息を詰めた。

 …………。

 …………………………?

 微妙に長い気もする沈黙に、王子の腕の隙間から覗いてみる。

 アルフレード王子とイルクが、苦虫を嚙み潰したようにアイコンタクトを交わしていた。


「あ、あのぉ……、大丈夫、なんですか?」


「ああ、失礼。――ええ、まあ、サラの身に危害を加えるような物ではありませんが……」


精神メンタルには被害あり、かな?」


 めずらしく言い渋った王子の言葉を、イルクが雑につなげる。

 王子が、パチンと指を鳴らした。

 またもや、室内ににじむように人影が増える。

 今度は複数だ。心臓に悪い。向こうにドアがあるのだから、そこから出入りしてほしい。

 王子の半分ほどの背丈の男性が近づいてきて、沙良に頭を下げた。


「サラ、こちらはゴザシュ。あなたの執事です」


「お初に御目文字おめもじ仕りまする、お妃君きさきぎみ


「ゴザシュは大臣でもあります。妃教育にも協力してもらう予定です」


「は、はあ。よろしくお願いします……。あのお、これは……?」


 沙良の目の前にはくだんの金の球がふよふよ浮いているというのに、誰も彼もきっぱり無視している。新しく増えた衛兵達はひとめ見てぎょっとした挙句、わざとらしく目を逸らした。

 ゴザシュ大臣は重々しく苦笑した。


「リーニィ姫様ですか。困った御方ですのぅ」


 ぴょこん、と球が撥ね、まつげを掠めるように沙良の顔にまとわりついてきた。


(なんかこれ……、不満気?)


「あ、あの、これ、ものすごくジャマなんですけど。痛っ」


 こつん、と額に攻撃された。

 王子が真剣な顔になる。


「サラ。その程度の不快感がずっと続くのと、一瞬で強烈な精神攻撃とでしたら、どちらがいいですか」


「ええええ」


 どちらも嫌だ。が、悠久の寿命を生きる王子に「ずっと」と表現されるほうが怖い。


「一瞬で終わるほうをお願いします」


「そうですか……」


 もはや沙良の顔にぶつかりまくっている球を、王子はちょん、と突いた。


「これは『おれ』。こちらでは一般的な通信手段です。――ひらきますよ」


 小さい球は一瞬ふるりと震え、ひときわ強い光を放った。


 しゅっぱー―――――ん!!


 球が割れ、ド派手なファンファーレが鳴り響く。花びらやリボン、星屑が降ってきた。

 そして、


“ほーっほっほっほっほっ!!!!”


大音声の笑い声が、高らかに響く。


(うるさっ)


 思わず耳を押さえたけれど、沙良以外は全員平然としている。唯一、アルフレード王子だけが少し困り顔で肘を付いていた。


“そこな人間!! わたくしは四大公家がひとつ、水の一族筆頭公爵令嬢! ネレスィマナンの王妃という名誉ある地位はおまえのような下賤の者には相応しくありません! その汚い首を洗ってお待ちになっているがいいわ! アルお兄さまは渡しませんことよおおお――――!!”


 妙なエコーとかぶさって、ショボい拍手も響いた。カラオケか。

 耳がわんわん鳴っている。くどいようだが二徹の身に、この音量はきつい。

 そしてとどめに、辺りをひらひらしていたリボンや花びら等が一斉に爆発した。

 しゅぽぽぽんっ。

 ぼしゅっ。

 しゅぼんっ。


「熱っ! え、痛っ?」


 ぼんやり眺めていたら、小さな火の粉を受け、みるみる顔や手が膨れあがった。


「っ。小さく呪いを仕込んでいたのか。――すぐに浄化します、サラ」


「の、呪いっ?」


 火傷が広がる手をつかみ、アルフレード王子が撫でる。それだけで痛みも傷も消えた。


「私に気づかれないギリギリのレベルを狙ったのでしょう。申し訳ありません、不注意でした」


「あ、いえ、それはいいんですけど……。えーっと、先ほどの女性は、王子の、妹さん? あ、そんなわけないか」


 王族は王子ひとりと聞いたし、彼女も名乗っていたではないか。4大公爵家のご令嬢なら、イルクと同等の立場だろう。

 そのご令嬢があそこまで敵意をむき出しにするということは、


「リーニィ姫、でしたっけ? 王子のことが好きなんですね?」


 ざわっ、と場が揺れた。

 すざざざーっと、ゴザシュ大臣がスライディング土下座してくる。


「あいやしばらく! アルフレード殿下とリーニィ姫の間にはいかなるっ、いかなるたぐいの醜聞もございませぬぅっ! お妃君におかれましては何卒っ、なにとぞご寛恕かんじょのほどをっ」


 いまどきサラリーマン謝罪劇場(なんだそれ)でもめったにお目にかかれないほどの、立派な土下座だった。


「え。そんな、気にしてませんよ。アルフレード王子ほどの方なら、片思いしているご令嬢なんて佃煮ほどいるんじゃないですか。まあ、ぽっと出の新人に王子様を取られそうになったらムカつきますよね。気持ちも分かります」


 軽く答える沙良に、ゴザシュ大臣は感涙にむせぶ。


「おお、おおお、なんとっ……。このようにお心の広いお妃君にお仕えすることができるとはっ……」


「本当に、沙良は寛大ですね。リーニィは我が儘な妹のようなもので、ご迷惑をおかけするかもと心配していたのですが、そう言っていただけて安心しました」


 満面の笑みの王子の後ろで、イルクとヴァリューズ侍女長はこっそりとため息を吐いた。


「……安心しました、じゃねーよ。アルのヤツ、まったくの圏外扱いされてんじゃねーか」


「王子殿下にはそういうお気持ちが備わってはいらっしゃいませんから……」


「だからマズいんだろうが。あのお妃君もたいがいだぞ。天然と激ニブじゃなにも進まない」


「――おっしゃるとおりですね……」


 ところでイルク様、佃煮って何でしょう、と侍女長が訊き、2人は首をそろって傾げた。




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