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10-3. 襲撃 3

本日は行けるところまで、1時間ずつ更新します。こちらは5話目です。




 アルフレード王子が、シターデル長官とイルクに一つにまとめた記憶の映像を見せる。説明を聞くうちに、二人の顔が険しくなっていった。

 沙良の耳に、「――ゴザシュ大臣が」という、イルクの声が入る。そういえばさっき、ヴァリューズ侍女長も何か言いかけていたはずだ。


「カローさん、どうかしたんですか?」


 思わず話に割って入ってしまう。

 3人は顔を見合わせ、イルクがしぶしぶ続けた。


「ゴザシュ大臣は、シールドを破られたときに攻撃の半分を引き受けた。今は重体で、ここには来られない」


「ああ、やはり」


という、ため息のような声が、沙良の後ろで響く。振り返ってヴァリューズ侍女長を見上げた。


「どうして!? シールドを破られたっていうなら、みんな同じじゃない! なんで、カローさんだけっ」


 アルフレード王子があやすように言った。


「サラ。それが名を捕られた者の宿命さだめです。すべてのシールドが破られた以上、ダメージは名を捕られた者、すなわち<盾>へと向かいます。あれほどの攻撃なら100%カローに向かうところを、複数の力を撚り合わせて守っていたので、半減されたのですよ」


「半分でも、重体なんでしょう? 容態は? カローさんの具合はどうなんですか!?」


「命は助かると思うが……」


「ほう。名を捕られて盾となっても助かりそうとは。さすがゴザシュ大臣ですなあ」


「なにそれっ。死んじゃってて当然だったってこと?」


「サラ。もちろん、カローは覚悟の上でしたよ」


 覚悟?

 沙良相手に命を落とすような、何をどう覚悟できるというのか。

 もともとカローさんの名を捕ったのは、事故のようなものだった。それは王子も知っているはずだし、カローさんはたくさん名を持っているから、大丈夫だと言っていたのに。


(嘘、だったんだ……。わたしを心配させないために……)


 溺れた人が流木にしがみつくように、沙良はスズシロ様をかき抱く。

 襲撃の瞬間も、沙良はスズシロ様を抱きしめていた。だからスズシロ様は無事だった。けれどカローさんは、沙良を守るシールドが破られた瞬間、その攻撃を一身に受けたのだ。――沙良の代わりに。


「わたしの盾になるって分かってて。どうして、アル? なんで、シールドなんか張らせたのよ?」


 これは八つ当たりだ。

 沙良もわかっているけれど、止められない。

 自分への怒りはもちろんだけれど、王子にもカローさんにも腹が立っていた。


「わ、わたしなんか、よりっ。ずっとカローさんのほうがこの国に必要な人でしょ? どうしてそんなことさせたの?」


 堪えていた涙が、ぼろぼろとあふれ落ちる。


「カローさんは……っ。わたしのために命を賭けない、って約束、したのに……っ」


「ゴザシュは、サラを守ることは国全体を守ることだと、承諾してくれたのです。“サラなんか”を守って瀕死のゴザシュ大臣の命は、それでは、どのくらい軽くなってしまうのでしょうか」


 王子の顔は穏やかだったけれど、刃のように鋭い声音を受けて、沙良は言葉に詰まる。


「…………言っていることは分かる。わたしが、悪いんだよ……。でも! なんで人の命を、別のものの命で贖おうとするのよ!」


「人間もそうしてますよね、お妃君。いいえ、人間はもっと愚かなのでは? 不特定多数の命を強引に消して回っていますよね」


 凛と響く声が、沙良をムチ打つ。

 キリエだった。


「ゴザシュ大臣は、国のために命を捧げられたのです。騎士道や武士道精神は、人間よりずっとマシだと思いますが」


 冷ややかにキリエが睨みつけている。

 たしかに、人間の戦争はもっと愚かだ。

 種族を人間に殺されたらしいキリエには納得がいかないだろう。それでも沙良はカッとなった。


「あんたには言われたくない!」


「お得意のキレイ事ですか。思ったことは何でも言えとおっしゃった舌の根もかわかぬうちに、撤回なさる」


「キリエが人間嫌いなのも、私が王妃にふさわしくないことも、よく分かってる! でも、あんたはどうなの。いっつも不景気な顔して、ヴァリューズや他のみんなに気を使わせて。軍人が本職なんでしょ、周りの人たちから腫れ物みたいに扱われて、それでプロフェッショナルって言えるわけ?」


 キリエは明らかに動揺した。痛そうに顔を歪める様子を見て、沙良の胸もちくん、と痛んだ。


「――ご自分こそ。それが八つ当たりだと、自覚していらっしゃいますか」


「分かってるわよ、悪かったわね! 不用意に名を捕ったのがいけなかったのよ。でも、あの時までそれがどういうことか、本当に知らなかったんだから今すごいショックなんじゃない!」


「このうえ開き直って、責任逃れですか」


「誰かに代わりに死んでもらってまで生き延びたいなんて、思ってない!」


「本来、生物の生存競争とはそういうものです。あなたは今まで何を食べて生きてきたんです? 基本的に、この国も地球も原理は同じ。異種族間の食い合いです」


「それとこれとは別でしょ! カローさんは、カローさん一人の理由で生死を選ぶべきなの! 誰でも誰かの為に命を捨てるなんてダメ! そんなのひどいよ!」


「誰にとってひどいのです? 結局、ご自分の感情に沿わないから気に入らないというだけでしょう。ゴザシュ大臣を本心から気遣っていらっしゃるわけではないのですね」


「ちがう! そんなわけないでしょ!」






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